①セレクティブはんだ付けが求められる背景
(1) 基板構造の複雑化と熱的課題
近年の電子機器では高密度化が進み、SMD(表面実装部品)の配置や両面実装が一般化する一方、大型コネクタやパワー半導体などの「高熱容量な挿入部品(DIP部品)」が同一基板上に混在するケースが増加している。これにより、リフロー炉での一括加熱や従来のフロー工法では熱容量差による加熱不足・過加熱が発生しやすく、均一な実装品質の確保が構造的に困難となっている。
(2) フローはんだ付けの限界
高い生産性を誇るフロー工法は、基板裏面全体を溶融はんだの噴流(ウェーブ)に接触させるため選択性に欠ける。高密度混載基板で挿入部品のみを処理するには周辺SMDを保護する「フローマスク(パレット)」が不可欠だが、以下の限界がある。
・熱影響リスク
マスクの隙間から熱が回り込み、近接するSMDの二次溶融や破壊を招く。
・コストと段取りの負担
多品種少量生産ではマスクの設計・製作コストがかさみ、品種切り替え時の段取り替えが生産性を阻害する。
・熱履歴制御の困難さ
基板全体への熱履歴コントロールが難しく、微細回路へのダメージを払拭できない。
(3) 手はんだ工程・自動機(こて・ロボット)の限界
深刻な人手不足や技能継承問題を背景に自動化ニーズは高いが、代替として「自動こて付けロボット」を導入しても、すべての課題は解決しない。
・熱供給の不安定さ
高熱容量な多層基板やパワー端子に対し、こて先からの伝熱では熱量が不足しがちである。また、連続動作時のこて先温度の回復遅れ(ドロップ)により品質が不安定になる。
・タクトのばらつきと限界
1ピンあたりの処理時間が長く、スルーホール内への十分な濡れ上がりを待つとタクトタイムが大きく一様でなくなる。
・管理・検査工数の増大
品質のばらつきは、長期的な教育コストや修正工数、外観検査工程の負担増大へ直結する。
(4) 高信頼性要求の厳格化
車載電子機器や産業用インフラ、医療機器などでは、はんだ接合の信頼性が製品寿命に大きく影響を与える。特に近年は、エンジンルームなどの過酷な熱環境(高温・熱循環)、10〜15年の長期耐久・耐振性、電動化に伴う高電流対応が求められている。これらを背景に、接合部におけるボイド抑制や十分なスルーホール濡れ上がり率、均一な金属間化合物層(IMC)の形成など、熱履歴と濡れ性の高い再現性が厳格に要求されている。
(5) セレクティブはんだ付けが選ばれる理由
これらの課題を打破する決定打として、セレクティブはんだ付けの採用が急速に拡大している。主な理由は以下の5点にある。
1.低熱ストレス
必要なポイントのみに微細なはんだ噴流を接触させ、周辺SMDへの熱影響を最小化する。
2.条件の個別最適化
ランド形状や部品の熱容量に応じ、ピンごとにはんだ温度、噴流波高、接触時間、引き剥がし(ピールバック)速度をプログラム制御できる。
3.高品質・低不良率
N2(窒素)雰囲気下でのはんだ付けにより、はんだの酸化を防ぎ、ブリッジやつらら、はんだボールの発生を極小化する。
4.優れた柔軟性
プログラム切り替えのみで多品種に対応できるため、フローマスクが不要(治具レス)になり、段取り替えコストがほぼゼロになる。
5.柔軟なラインビルディング
生産ボリュームに応じて、バッチ式から量産向きのインライン型(マルチノズル構成など)まで、最適な設備形態を選択できる。
セレクティブはんだ付けは、単なる手はんだの自動化に留まらず、「高度な熱制御による高信頼性実装」と「変種変量生産への圧倒的な適応力」を両立する工法として、現代の製造業において不可欠なポジションを確立している(写真1)。

写真1 インライン型セレクティブフローはんだ付け装置 『SELBOⅢ-350SHMVE』
(写真の構成:フラクサ、プリヒータ、マルチフロー、AOI、セレクティブフロー)
②セレクティブはんだ付けの基礎 : 構造と原理
(1) セレクティブはんだ付けの定義と特徴
セレクティブはんだ付けとは、基板上の特定の接合箇所(主に挿入部品のリード部)に限定して局所的に溶融はんだを供給する工法である。基板裏面全体を浸すフロー工法とは異なり、「局所加熱・局所供給」を徹底する点に最大の特徴があり、以下の4つの優位性を発揮する。
1.高密度実装への適応
SMDが極めて近接したレイアウトでも、周辺部品への熱影響を遮断してはんだ付けが可能。
2.熱量供給の個別最適化
ピン個別に条件を設定できるため、熱容量差の大きい部品が混在してもそれぞれに最適な熱量を与えられる。
3.品質の安定化(脱・属人化)
手はんだやこて付けロボットの課題である熱量不足やバラつきを排除し、高品質な接合を再現。
4.高い柔軟性
フローマスク(パレット)が不要なため、多品種少量生産から中・大ロットまで治具レスで柔軟に対応する。
(2) フラックス塗布のメカニズムと制御方法
フラックスは、接合面の「金属酸化膜の化学的除去」「表面張力低下による濡れ性向上」「再酸化の防止」を担う重要工程である。主な塗布方式には以下の2種類がある。
1.スプレー方式
微細なミスト状にして広範囲に均一塗布する方式。エリアに余裕がある場合に適する。
2.ドロップジェット方式(ドット式)
パルス制御により、インクジェットのようにピンポイントで液滴を狙い撃つ方式。高密度基板において不要エリアへの飛散を徹底的に防ぐ。
フラックス管理では「塗布量の最適化」が不可欠である。過少では濡れ不良やブリッジの原因となり、過剰ではアウトガスによるボイドの発生や、残渣による絶縁信頼性の低下(イオンマイグレーションなど)を引き起こす。
(3) プリヒートの役割と熱源特性
プリヒートには、①溶剤成分を揮発させてはんだボール(飛散)を抑制する、②主成分(ロジンや有機酸)を活性化させて酸化膜除去を促進する、③基板・部品をあらかじめ温めて熱衝撃を和らげ、スルーホール内への濡れ上がり性を劇的に向上させる、という役割がある。一般的な管理基板温度は80〜120℃程度だが、高熱容量部品の加熱不足(アンダーヒート)や、フラックスの早期失活を招く過加熱(オーバーヒート)を防ぐため、精密な温度管理が必須となる。
近年の熱源はカーボンランプ式ヒータが主流である。これは透過性が高く基板深部まで届く「近赤外線」と、色に左右されず樹脂への吸収率が高い「中赤外線」の双方を含み、熱容量差のある基板全体を効率的・均一に予熱できる。さらに、ノズル周辺に加熱N2ガスの供給機構を搭載し、はんだ付け直前の熱ドロップ防止(補助プリヒート)と高温加熱時の酸化抑制を両立するシステムも一般的である。
(4) はんだ付け機構と噴流形成の原理
セレクティブはんだ付けにおいて最も標準的なのが「噴流式」である。その主要構成と原理は以下の通りである。
1.主要構成と役割(図1)
・はんだ槽
溶融した鉛フリーはんだ(SAC305など)を大量に保持し、ヒータで一定温度に精密維持する。
・ポンプ(インペラ駆動)
モータ連結の羽根車を回転させ、溶融はんだを上部へ押し上げる。
・ノズル
はんだの出口であり、その開口形状によって噴流のサイズや指向性を決定する。
・駆動ステージ(XYZ軸)
基板またははんだ槽を3次元的に高精度駆動させ、狙ったピンへノズルを相対移動させる。

図1 はんだ槽の断面構造図
2. 噴流形成と安定性の原理
ポンプ制御により押し上げられたはんだは、ノズル先端から溢れ出し、常に高さを保った「一方向オーバーフロー型の噴流」を形成する。この安定した噴流に部品リードを接触させ、所定時間保持したのち適切な角度と速度で引き剥がす(ピールバック)ことで、毛細管現象によるスルーホール充填とブリッジのない美しいフィレットが形成される。 この噴流の安定性は、「ノズルの精密な幾何学形状」「ポンプの流量制御」「はんだ温度」「ノズル表面の濡れ状態」の4因子に深く依存しており、装置設計における重要なコア技術となっている。
- 会社名
- (株)弘輝テック
- 所在地

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