2. 金属塩の溶解性
ごぞんじの方も多いであろうが、「塩」とは何かを改めて記載させていただく。正電荷をもつ陽イオン(カチオン)と負電荷をもつ陰イオン(アニオン)の間の静電引力による化学結合により形成されている物質の総称である。食塩の主成分である塩化ナトリウム(NaCl)はもっとも身近な「塩」といえる。エレクトロニクス分野では、Pbフリー化が果たされて以来、Sn塩が長年の課題となってきた(図8)。
近年ではより合金組成は変化し、金属塩形成はより複雑化しており、洗浄の難度をより高める要因となっている。
金属塩洗浄で重要なのは、「極性」を考慮しなくてはいけない点である。物質の溶解性は様々な要素で決まるが、その中でも大きなファクタが極性である。極性は分子内に存在する電気的な偏りのことで、分子構造や官能基の電気的特性によって決定される。極性の性質が類似するものは相溶性が高い(溶けやすい)といえるが、金属塩はイオン結合で形成されているため、電気的な偏りは大きく、極性を有している。水は分子構造から極性を有しているので、多くの塩を溶解させる性質があるが、一般的な洗浄剤成分として使用されている、有機溶剤の多くは無極性であることが多く、その多くは金属塩の溶解性が限定されてしまう。仮に極性のある有機溶剤を使用した場合、一定の洗浄効果は期待できるが、有機成分の溶解性も著しく強い為、製品素材そのものへのダメージが懸念され、安全面・作業面の観点から危険性が高く、「洗浄剤」として使用しにくいのが実情である(図9)。
また、金属塩は水ですべてが解決できるわけではない。水にも溶けない金属塩が存在するのである。これはルイス酸の定義とHSAB則による考え方が従来は必要であるが、簡易的に説明していく。
イオン結合で形成されている金属塩も静電気引力の差があり、その強さは図10のように定義される。
静電気引力が低いものは共有結合性に類似する性質があるため、極性が強い水への溶解性は制限されることとなる。
具体例を挙げると、静電気引力が弱い組み合わせであるAg+とCl−から形成されるAgCl(塩化銀)は、水へは難溶性を示す。酸・アルカリであれば塩化銀のような水へ不溶の塩であっても溶解性は好転することが多いが、市場ニーズとしては水系であっても安全性の高いもの、具体的には「中性領域」の洗浄液を求める声も高まりつつあり、その選択肢は狭まりつつある。
3. 添加剤(活性剤)の変化
RoHS指令やダイオキシン対策を皮切りに、活性剤が急激に「脱ハロゲン」化へと進んだ背景がある。法令規制に対応しなくてはならない為、それまでの主流であったハロゲン系は成りを潜める結果となった。そこで代替主流となっているのは有機酸・有機アミンである。ハロゲンには劣るものの優れた補助効果が得られる。しかし、ハロゲン系と同様に、有機物活性剤は「イオン残渣」という観点を考慮しなくてはならない。無洗浄タイプのソルダペーストは加熱後に失活、もしくはA項で論じたように密閉化されることで、残渣内に残留している添加剤は安定化状態となる。しかし、洗浄という行為は見方を変えると、「安定化」している残渣を「不安定化」させることに他ならないので、不完全な洗浄ではかえって残渣中の様々な成分を「不安定化」させることとなってしまう。よって洗浄時に残渣は完全に除去する必要性がある。上項で論じたように残渣は複合化しており、適切な洗浄が求められる。イオンマイグレーションは過去の事象とされることも多いが、活性剤の組成・添加量の変化、搭載部品の微細化による電極の狭ピッチ化により、新たな課題として復活してきている(図11)。
以上の理由から、高性能化しているソルダペーストの洗浄は、フラックス成分であるロジン・レジンを単純に除去するだけでなく、混合物となって含有される「難溶性物質」チキソ剤・金属塩・添加剤への対応を考慮しつつ、洗浄検討しなくてはならないことが御理解いただけるかと思う。従来型の洗浄では上述の通り難溶性物質への完全対応は難しく、特に無洗浄タイプのソルダペーストは、「有機溶剤による溶解洗浄」といった方法では、近年開発されているソルダペーストの洗浄はやすしくなるどころか困難な傾向にある。「難溶性物質」への適切な対応を考えなくては、洗浄は成り立たないのである。
- 会社名
- ゼストロンジャパン(株)
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