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テクニカルレポート
2018.11.30
シリーズ・さまざまな研究所を巡る(第1回)
JAXAの宇宙太陽光発電
厚木エレクトロニクス

 

 これまで、半導体技術の解説、優良企業の紹介など、約5年間にわたって紙面を汚してきたが、今度は研究所巡りを企画した。日本には多くの研究所があり、それぞれ注目すべき将来性のある研究を行っておられるので、その一端を紹介することは読者の皆さんにも興味をもって読んでいただけると思う。

 まず第1回は、宇宙科学研究所(JAXA)を訪問し、宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power System=SSPS)について、この分野の第1人者である田中孝治氏に説明していただいた。

 

1. 宇宙太陽光発電とは何か

 

 SSPSは、赤道上空3万6千kmの静止軌道に大面積の太陽電池を設置し、発電した電力をマイクロ波またはレーザにより地上に送電するものである。

 1968年にこの壮大な概念を提唱したのは米国のピーター・グレーザで、たとえば静止軌道上に2km平方の太陽電池板を設置し、発電と同時にその裏面で5.8GHzのマイクロ波に変換して地上へ送る。地上では直径4kmのレクテナ(Rectenna:Rectifier Antenna=マイクロ波を直流に変換するためのアンテナと整流器を一体としたもの)を設置し、現在の原子力発電所1基とほぼ同じ1GWの電力を受電できるようにする。

 3万6千km上空の静止軌道というのは、地球の半径の6倍ほどの高度となり、太陽に対して23°傾いて回っているので、図1のように地球の陰に入ることがほとんどない(春分と秋分に7日間、陰になる)。

 

したがってほとんど年中昼も夜もなく、24時間休みなく発電が可能で、地上の太陽光発電のような気候や時間による発電量の不安定さがない。かつ太陽光の空気による減衰は非常に少ないので、地上に設置された太陽光発電より10倍近くの太陽光を利用できる。宇宙で発電し、地上で実用になるまでのロスは、50%程度と見積もられている。

 この壮大な計画は、アメリカのNASAをはじめ世界中で研究されたが、あまりにも検討事項が多くて、だれも成功していない。日本では旧宇宙開発事業団(現在のJAXA)が1990年代から研究をはじめ、現在の技術レベルは世界のトップといわれている。

 

2. 発電素子

 

 地上で一般に設置されている太陽光発電素子は、そのまま宇宙でも使用可能であるが、ロケットで宇宙まで運搬することを考えると、重量が軽いことが条件となる。素子自身が軽いことと、変換効率が高いことが重要である。

 現在の地上での発電の主流素子であるシリコン系の場合は、やや重いことと変換効率が20%程度なので物足りない。化合物系の素子では、変換効率40%ぐらいが可能であるが、大面積を作成するのは少々無理と思われる。最近話題になっているペロブスカイト系なら、膜厚が薄膜構造で変換効率も30%が期待されるので有望かもしれない。

 この程度の変換効率なら、送電ロスなども含めて面積当たりの発電量は概略200W/m2となり、1GWの発電を得るには、2.5km平方程度の大面積の素子が必要になる。

 非常に大きい面積を宇宙で広げることが必要なので、折り畳んで運び、宇宙で広げる技術が必要である。そのために、畳んでおいて開く日本古来のミウラ折といわれる技術があるらしく、そんな方法も検討されている。大型の反射板を使って集光すると、発電素子への太陽光の光量を1000倍ぐらいに高められるので、変換効率が50%を超えることも可能かもしれない。

 図2は、反射板を用いた例である。いずれにせよ、発電素子は宇宙用と限らず、地上でも効率向上に対する研究開発が加速されているので、これからの技術革新が期待される。

 

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厚木エレクトロニクス
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