「トラッキング」(炭化銅電路)
競争の激しかった家電業界では基板コストを低減させる目的で、安価な紙フェノール基板を使用するのが常であった。一方で、紙フェノール基板はしばしば発煙 ・ 発火事故を引き起こした。冷蔵庫、洗濯機、テレビの発煙・発火事故は絶えることは無かった。生基板の表面で放電による電気の通り難さ(炭化による燃え難さ)を示す試験がトラッキング試験である。具体的には図1-4(a)のように、試料基板に電極を接触させた状態で電極間に塩化アンモニウム(NH4Cℓ)電解液を滴下し、絶縁性が破壊に至る電圧で評価する。トラッキング特性を評価する方法としては「比較トラッキング指数 : CTI」と「保障トラッキング指数 : PTI」がある。CTIは材料の品質管理手段として、PTIは0.1%NH4Cℓを30秒間隔毎に1滴ずつ滴下し、50回滴下しても短絡が起きない保証電圧がPT1となる。
一般的にはトラッキングはコンセントの差し込みプラグのトラッキングとして認知されている。トラッキングとは差し込みプラグ部に埃がつもり、そこに湿度が加わると金属間でショートして発火する現象として知られている。最近では、トラッキング防止プラグ(図1-4(b))が市販されている。かつての冷蔵庫では、庫内からの排水をパッドに受けてコンプレサの廃熱で蒸発させていたため、冷蔵庫の床周辺の湿度が高くなる。かつてのコンセント位置は床面近くに配置されていたため、トラッキングによる発火事故が度々報告されている。そこで、最近の冷蔵庫ではドレインからの湿度は冷蔵庫上部から放出する構造に変更し、差し込みプラグ位置も冷蔵庫本体よりも上部に設置して、トラッキング防止を進めている。

図1-4 トラッキング
プラスチックの難燃性を評価する方法として「UL94燃焼試験」がある。試験片に火源を近づけて焼させ、火源を離したのちに何秒で消火するかでグレードが決められている。家電用に使用する紙フェノール基板は、V-0(ブイゼロ)グレードの難燃性が義務づけられている。V-0とは試験片に火源を近づけて燃焼させ、火源を離した後に10秒以内に消化する品位であることを示している。
1-1-6. フタル酸エステル
フタル酸エステルは2006年RoHS指令が最初に施行された時には指定されていなかったが、2019年に追加された物質である。このことを考えると、今後もRoHS指令に追加して規制される物質が増える可能性がある。
フタル酸エステルとは、フタル酸「C6H4(COOH)2 : ベンゼン(C6H6)の2つの水素をカルボン酸基(−COOH)に置換した物質」とアルコール(分子中に−OH基がある)が結合(これをエステル結合と言う)した化合物(図1-5)の総称である。

図1-5 フタル酸エステルの基本骨格
プラスチックを柔らかくするための可塑剤として使われ、ゴム、被覆カーブル等軟質樹脂部品に多く含まれている。フタル酸エステルは生殖機能に作用し、発がん性を発症するといわれている。
1-1-7. RoHS規制物質の分析方法
筆者は長年湿式分析(固体を酸やアルカリ溶融して溶液化し、目的元素を発色させて吸光高度計で定量分析するか、沈殿させてその重量を測る)を実施してきた。その後、物理原理を利用したSEM-EDX、蛍光分析、EPMA等の機器分析で材料の解析を担当してきた。その経験から、RoHS規制物質の対象物質の定量分析方法の一例を表1-3に示す。六価クロムの分析方法については、項目1-1-4に示しているので詳細な解説は割愛する。
分析には定性分析と定量分析がある。定性分析とは対象とする元素の有無を判定することであり、定量分析とは試料中の含有率を測定することである。

表1-3 分析方法の一例
★ Pb、Cd
元素の有無を調査するだけであれば、SEM-EDXや蛍光X線法が有用である。含有量を決定するための定量分析を実施するには、試料全体を酸或いはアルカリで完全に溶解する。溶液中のPb、CdをICP発光分光分析装置、原子吸光分析装置等で正確に測定し含有率を求める。
1960年代、原子吸光法が提案された。大阪府立大学でも中空陰極ランプ(ホローカソードランプ)の研究を進めており、卒業生が前職企業に就職された。
その影響で、早期に原子吸光装置を導入したが、光源(元素毎)となるホローカソードランプは高価であった。当時の原子化部にはヘテコバーナーを使用していたが、騒音が大きかったのを覚えている。現在のバーナーは噴霧器とフレーム(炎)を組み合わせた構造であり、フレームも空気-アセチレン炎を使用している。
★ Hg
対象となる固体を酸で溶解し、Hg2+とする。溶液に塩化第一錫(SnCl2)でHgを金属水銀に還元しする。原子吸光法のフレーム中に溶液を注ぎ、気化したHgを吸収セルに導入し、253.7nmの吸収を測定する。
★ ポリ臭化難燃剤、フタル酸エステル
いずれも有機物であり、前処理としてソックスレー抽出器(図1-6)で目的物を抽出する。ソックスレー抽出器を解説する。フラスコ①に有機溶剤を加え、ヒータで加熱する。発生した有機溶剤の蒸気は②を通過し、冷却器③で冷却されソックスレー抽出器④に溜まる。ここには試料入れた筒型濾紙があり、目的の有機物を抽出する。抽出器の溶媒が⑤から溢れると、一気にフラスコに戻る。フラスコからの蒸気は純粋な溶媒のみであり、抽出された有機物はフラスコ内に濃縮されるのである。

図1-6 ソックスレー抽出器
この抽出液の一定量(マイクロシリンジ)をガスクロマトグラフ−質量分析器に打つ。ガスクロマトグラフ部ではガス気化した試料の混合ガスはキャリアーガス(ヘリウム、窒素)共にキャピラリーカラムを通過中に、固定相との吸着・分配が異なるため、成分毎に分けらてる。質量分析器で成分毎の分子量からを判定する。
RoHS規制物質が含まれているかの有無(定性分析)、含有されていた場合に規制値を超えるか超えないか(定量分析)は非常に重要なことである。更に、高額な分析機器を購入して技術者を養成するには多額の経費を要するため、分析専門会社に委託することが賢明であろう。
(つづく)
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