1-1-4. 六価クロム : Cr+6
クロムの金属は化学的に価数はゼロである。クロムイオンとしは三価(Cr+3)と六価(Cr+6)が知られている。「クロメート」は亜鉛やアルミの表面処理した「化成被膜」で、耐食性を向上させる処理方法の1つであり、三価クロムや六価クロム用いたものがあるが、六価クロムのみが発がん性がありRoHSの規制対象となる。勿論、化成被膜とめっきとは全く異なる物質である。
六価クロム(Cr+6)を特定して定量分析することは困難である。非破壊で分析する手法として、EPMA、SEM-EDX、蛍光X線分析器などで分析する方法があるが、いずれも元素種を特定することはできても価数を分別 ・ 定量することはできない。非破壊で且つ価数を判定できる方法としてXPS(X線光電子分光分析法 : X-ray photoelectron spectroscopy)があるが感度が悪く、RoHSの規制値である0.1%の含有量を検出できる感度があるか、或いは定量的に判定できるかは不明である。X線回折法でもクロート皮膜の化合物を同定できるが、ある程度の試料量が必要であり感度も不明である。 東芝(株)の沖らの研究では、クロメート化成被膜(六価)を50℃の水酸化リチウム(LiOH)溶液に5分浸漬した溶液をジフェニルカルバジド吸光光度法で定量分析する方法を確立している。本分析方法の妥当性を評価するため、XAFS(スプリング8)で検証している。
筆者が前職企業に入社し研究室に配属された最初の2年間「クロコン洗浄液」を調製していた。この洗浄液は重クロム酸カリウム(K2Cr2O7 : 六価クロム)500gを濃硫酸20ℓに溶かした液であり、2週間毎に調合していたと思う。この洗浄液は有機物の洗浄には特に効果があり重宝していた。当時、研究所の敷地内に排水処理施設の設置義務は無く、排液はそのまま淀川を経て最終的には瀬戸内海に垂れ流していた。水質汚濁防止法が施行されたのは昭和46年であり、富栄養価で赤潮が発生したことを契機に瀬戸内海環境保全特別措置法が成立したのは昭和48年であり、それ以前には環境汚染を目的とした排水の規制は無かった。化学を専攻してきたにもかかわらず「公害」の加害者としての認識は低かったのは事実であり、痛恨の思いである。その反省が私を環境対策の1つとして「鉛規制」を駆り立てている。
1-1-5. 臭素系難燃剤 : PBB、PBDE
前職企業に勤務している時、家電商品の市場クレーム品の解析を担当してきたが、ほとんどの発火事案では紙フェノール基板が焼損していた。競争の激しかった家電業界では、安価な紙フェノール片面基板は重宝されていたが、唯一の難点は耐火性が劣っていた。難燃性を向上させるために添加されたのが、安価な臭素系難燃剤である。
ポリ臭化ビフェニル類(PBB類)の分子構造を解説すると、ポリ : 多数、臭化 : 臭素(Br)、ビ : 2個、フェニル : ベンゼン環(C6H6)となり、2個のベンゼンが連結し水素(H)の一部が臭素(Br)に置き代わった構造であることを示している。ベンゼンは六角形の形状をしており各角には炭素(C)が存在し、慣用的に番号をつけている。Brが置換している位置と数によって、多くの異性体が存在する。この内、難燃剤として使われているのはヘキサブロモビフェニル(臭素が6個)である。ポリ臭化ビフェニルエーテル(PBDE類)は2個のベンゼンが1個の酸素で結合(エーテル結合 : −O−)した構造である。
これらの構造は猛毒のダイオキシン類と非常に似ている。ダイオキシン類は2個のベンゼン環が結合した構造で水素が塩素に置換したものであるが、塩素の代わりに臭素が置換したのが臭素系の難燃剤である。
ダイオキシン類は天然には存在しない化合物である。ゴミ却炉でプラスチック類を焼却する際に400℃程度の低い温度で焼却した場合に、不完全燃焼となりダイオキシン類が合成されることが知られている。又、ベトナム戦争当時、アメリカ軍は作戦上の目的でジャングルに大量の枯葉剤を散布したが、枯葉剤を製造する際の副産物としてダイオキシン類が含まれていたため、奇形児が出産し慢性毒性も発生した。ダイオキシン類の毒性の重さと濃度を表すのに「ピコグラム」と言う単位が使われる。1ピコグラムとは1gの1兆分の1(1/1000000000000)の重さであり、最も強い毒性があると言われている。
ベンゼンとは炭素6個と水素6個からなる物質で、分子式ではC6H6で、構造式は図1-2の(a)或いは(b)のように表示する。(a)と(b)の違いは二重結合の位置が異なっているだけであり、その他は同じである。ベンゼン環を示す時、毎回(a)や(b)のように書くのは面倒なので(c)や(d)に書くことがあるが同じ意味である。

図1-2 ベンゼンの表示方法
ダイオキシン類の基本構造は2つのベンゼン環を2個の酸素で連結し、水素の一部を塩素に置き換えたポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(図1-3(a)、PCDDs : 異性体75個)、2つのベンゼン環を1個の酸素で連結し、水素の一部を塩素に置き換えたポリ塩化ジベンゾフラン(図1-3(b)、PCDFs : 異性体135個)、2つのベンゼン環を直接連結し水素の一部を塩素に置き換えたコプラナーポリ塩化ビフェニル(図1-3(c)、co-PCBs : 異性体10数個)である。コプラナーとは同じ平面上にあるという意味である。ダイオキシン類は塩素がベンゼン環のどの位置の炭素(番号で表示)についているか、何個ついているかによって構造が異なり毒性も異なり、多くのパターン(異性体)が存在するためスモール(s)をつけている。したがって、ダイオキシンという単体の化合物は存在しない。毒性を評価する時、最も毒性が強いのはベンゼン環の2,3,7,8,の炭素の位置の水素が4個の塩素が置き代わった四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシンであり、この化合物の毒性を1として他のダイオキシン類の毒性を比較したのを毒性等価指数(TEF)と呼ぶ。勿論、臭素化難燃剤のように、塩素が臭素に置き換わった場合の毒性についても調査されている。

図1-3 ダイオキシン類
かつての日本の高度成長期は、大量生産 ・ 大量消費 ・ 大量廃棄の時代であった。その負の遺産として工場排水の垂れ流し(例えば有機水銀汚染)、産業廃棄物の山間部への埋め立て処分(例えば鉛の汚染)、焼却処分(例えばダイオキシン類の合成)等である。ゴミ焼却場では運転コスト削減や耐火煉瓦の劣化を防ぐため、400℃以下の比較的低い温度で焼却していた場合は不完全燃焼となり、発がん性が指摘されているに示すダイオキシン類が生成されたことが判明している。現在では、大型ごみ焼却場では炉内温度を800℃以上で焼却しているたため、ダイオキシン類が合成されることは少なくなっていると思われるが、簡易型の小規模焼却機では、取扱者側の無知も伴い、低温で焼却するためにダイオキシン類が発生しているようである。
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