図4 伝送線路の表現
図5 R, L, Cによるインピーダンスの周波数特性
電源コードもアンテナケーブルも電気的な特性を細かく表現すると図4のようになる。ここでのRは電線の導体抵抗、Lは電線のインダクタンス(コイル成分)、Cは電線間のキャパシタンス(コンデンサ成分)、Gは電線間の絶縁抵抗である。LとCは2本の電線の寸法、幾何学的配置と、電線周りの絶縁物質の特性によって決まる。図のR、L、C、Gはいずれも単位長あたりの大きさであり、電源コードもアンテナケーブルもこのようなブロックが連なったものと考える(これを伝送線路と呼ぶ)。
このような線路に交流電圧が印加されると、R、L、C、Gはどれも電流の流れを妨げる『抵抗』として働く。交流に対する抵抗をインピーダンスと呼ぶ(単位は直流抵抗の単位と同じオーム)。R、L、C、Gによるインピーダンスの特徴は周波数特性である。RとGは直流でも高周波でも値が変わらないが、Lは周波数に比例し、Cは周波数に反比例するのである(図5)。
これを50Hzの電源コードと500MHzのアンテナケーブルにあてはめると、電源コードの場合、図4のLによるインピーダンスはゼロ、Cによるインピーダンスは無限大、つまり伝送線路はRとGだけで構成されているとみなせる。他方、アンテナケーブルの場合は、Lによるインピーダンスが抵抗Rにくらべてずっと高くなるため、抵抗Rは無視できる。また、Cによるインピーダンスは線間の絶縁抵抗Gに比べてはずっと低くなるため、絶縁抵抗は無視できる。
図3で電源コードとアンテナケーブルの信号伝送特性の違いは、前者は実質抵抗RとGだけの線路、後者は実質的にインダクタンスLとキャパシタンスCだけで構成される線路(無損失線路と呼ぶ)であることに原因している。伝送線路には特性インピーダンスと呼ばれる重要な電気特性があり、その値は L/C で決まる。高速信号を伝送する配線では特性インピーダンスの値が信号の送信端からプリント配線板、コネクタ、ケーブルを経て受信端(負荷)に至るまでそろっていることが要求される。配線中にもし特性インピーダンスの異なる個所があると、その接続点で信号の反射が起こるのである。そうすると、受信端に届く信号レベルが下がるだけでなく、信号が何個所かで反射を繰り返し、時間的に遅れて次々受信端に届くと受信端での信号波形は形がくずれ、幅が広がって高速伝送ができなくなるのである。
図6 プリント配線板の伝送線路
プリント配線板の伝送線路を図6に示す。特性インピーダンスは図の信号線幅W、信号・ラウンド間距離Hおよび誘電率εで決まるので、所定の特性インピーダンスが得られるようこれらのパラメータを調整しなければならない。
一般的な電子機器では特性インピーダンスは50Ωに設定されており、通常、プリント配線板に対する要求仕様は50Ω±10%とされている。なお、テレビのアンテナケーブルの特性インピーダンスは75Ωである。
以上述べてきた伝送線路の扱いはどのような場合に必要になるのか。信号周波数が高い(波長が短い)場合でも、送受信端距離が波長にくらべて十分短い場合(IC内の配線など)は伝送線路の扱いをしなくても済むのである。送受信端距離が長くなり、波長に近くなると、送信端と受信端で電圧の位相がずれてくる(山が谷になったりする)ので、伝送線路の扱いが必要になる。地デジ、パソコンの信号やそれ以上の高周波では波長が数十センチ以下となるので、プリント配線板の配線については伝送線路の扱いが必要になる。プリント配線板のパターンは細線化がすすむが、特性インピーダンスを一定に保ちつつ導体幅(図6のW)を小さくしていくためには、絶縁層厚さ(H)、誘電率(ε)も含めた全体調整が必要になる。JPCAのアンケート調査によると、特性インピーダンスのコントロールは要求度の高い電気特性のトップとされている。
SoCとSiP
ICの集積度アップの影響について考える。集積度が上がるとは、これまで以上に多くの機能が搭載できる、したがってより複雑・大規模なシステムを1個のIC上に実現できる、ということである。LSI集積度アップの規模とスピードは目覚しい。図7はCPUの集積度アップの推移であるが、最近のCPUのトランジスタ数が20億個に達するのに驚く。
図7 CPUの集積度の年次推移(インテル)
半導体はシリコンウエハ(高純度のシリコン単結晶の板)の上に作り上げられる。この技術はモノリシック技術と呼ばれる。モノリシックはモノリス(一枚岩、柱などの一本石)からきている。図7に示すような急速な半導体の高集積化を牽引してきたのはスケーリングと呼ばれる技術である。スケーリングはICチップ上のトランジスタや配線の物理寸法(デザインルール)を縮小して、より狭い領域に従来と同等の機能を実現するという技術である。たてよこ寸法を一律に1/2にすることにより、必要な面積をざっと1/4にできるのは理解できても、それで元通りの(あるいはそれ以上の)IC機能を発揮できるというところがすごい。
ところで、前述のように、半導体産業の特徴は微細加工による高機能チップの大量生産である。その一方、設計・開発期間が長い、開発コストがかかる、つまり小回りがきかないという性格ももつ。したがって、ICの高集積の能力を活かすには大量生産できる大規模なシステムがあれば好都合である。残念ながら、どんなシステムでも大規模化するほどニーズが多様化し、同じシステムでいくつものニーズに対応させることはできない。かくして巨大システムはすべて注文生産、個別開発となる。
他方、プリント配線板と各種の電子部品を組み合わせて作り上げるシステムでは、システムごとに設計しなければならないのはプリント配線板だけであり、プリント配線板上に品質確認済みの部品を搭載すればシステムの機能を実現できるので、工期もみじかく、低コストでシステムを構築することができる。規模の大きいシステムはすべてこの方式で構築されている。もっとも、そのサブシステムについては、比較的量がまとまる部分から逐次半導体チップ化がすすめられている。
スケーリングを武器に膨大な数のトランジスタを作りこめるようになったLSIがCPU(中央演算処理装置)以外の分野(メモリ、入出力回路、アナログなど)も取り込んで、システム全体をワンチップ化する方向に向かうのは自然の成り行きである。このようにしてモノリシック技術でつくられたLSIをSoC(System on a chip)と呼ぶ。SoCは半導体技術だけでつくるので、上述のように大量生産向きであり、中量、少量のニーズ向けには技術的に製造できても、開発コスト、開発期間がかかるため、経済的なメリットが出せない。またSoCでは論理回路以外にメモリ、アナログ回路など機能や製法の異なる回路も作りこまなければならないという製造上のむずかしさもある。
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