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テクニカルレポート
2013.12.10
トヨタ自動車デザイン部におけるデジタルマニュファクチャリング①
武藤技術研究所、豊橋技術科学大学

このように、世界の経済や上記の日本の製造業における7つの環境の非常に大きな変化によって、製造関係のプロセスのみならずデザインプロセスにおいてもCEによる設計主体の組織や仕事のやり方の大変革が余儀なくされている。そのため、世界戦略として組織改革や原価削減の断行をするうえでもデジタル情報技術のフル活用が必須となるのである。

 開発期間を縮めるためにだけではなく、世界市場をにらんだ品質・コスト・納期(QCD)はもちろんのことで、さらにグローバル化、高付加価値化、高スピード化の要求はデザイン部門にも波及し、ますます厳しくなってきている。

 自動車メーカー各社は、新規企画の車のデザインコンテンツを決めるのに、デザイン部門内での数多いスタッフ同士の意志疎通が取りにくい、開発期間が長い、デザイナ偏重など、深刻で大きな問題を抱えてきた。

 現在、トヨタ自動車では鋭意情報化を推進することでデザイン業務の一層の効率化を図るべく、試行錯誤の最中である。デジタル情報を使えば、いつでもどこへでも瞬時に送れるようになり、その情報確認や検証は出張せずとも的確に行えるようになる。

 すでに実クレイモデルの時代からクレイモデルレスのデジタル情報の時代に移行している。主たる目的は、上述した開発期間の短縮以外に、リードタイムの短縮、品質の向上である。現在、企画後18ヶ月の開発期間が必要であるとされるが、これを12ヶ月、6ヶ月というように短縮することである。リードタイム短縮に関しては部内の仕事の流れはもちろん、後工程との密接な連携、すなわち設計部門とのコンカレントエンジニアリング(CE゙)やサイマルテイニアスエンジニアリング(SE゙)の推進が積極的に行われている。

2.コンカレントエンジニアリングとは

 図3は、新車開発の全工程を短縮するための『コンカレントエンジニアリング(Concurrent EngineeringCE)』(または『サイマルティニュアス(Simultaneous EngineeringSE)』)の概要である。

3 トヨタ自動車におけるサイマルテイニアスの推進状況

以下、トヨタ自動車におけるSE技術についてみてみる。

CADシステムを中核として、各種資料、モデル、イメージスケッチ、図面などをリンクした、統合デザイン支援システムとして展開している。

■『後工程との連携』
 ボディ開発工程との連携を緊密に図るために、形状データをタイムリーに設計、生産技術といった後工程に提供するために、新車開発のリードタイム短縮を支援する態勢を調えている。

①設計へのアイデアの初期段階から、意匠面データの提供、設計検討の支援を行っている

②生技部門へ、マシニングセンタ等の工作機械への直彫り 可能な高品質な面データの提供を行う

 ①、②における各機能別のCADシステムをトヨタ自動車全社的に『統合CADCAM』化する。つまり、プラットフォームの標準化を進める。「昔は企画で決まったスケジュールに沿っておこなうことがおおかたので、比較的楽だったように思う」(第1デザイン部長)。

 つまり、基本的には4年に1回のフルモデルチェンジ、2年くらい経過後のマナーチェンジに対応してスケジュールを組んでデザインをしていれば良かった。ところが現在は、カスタマのニーズに即対応するため、「開発する車種のスケジュールがすぐに変わる。計画よりも1年延期になるかもしれないし、前倒しになるかもしれない。デザインはしても発売されないかもしれない」。第一デザイン部長のコメントを整理すると次のようになる。

 (1)マーケットの動向に合わせてプロジェクトの変更を検  討している。具体的には、ABのプロジェクトがある場合、RV車の人気などの影響で順番の入れ替えが頻繁  にある。こうした変更に柔軟に対応できるようにしている。

 (2)通常、市場ニーズを踏まえた企画からデザインコンテンツが決まる。しかし、デザイン期間短縮から派生して、デザイン内部から、デザイン・コンセプトが決まることもある。まさに、今回のアルテッサはそのように決まった。

 (3)デザイン部門だけの期間短縮だけではなく、新車開発の  全工程を短縮するために(図3に示したように)コンカレントエンジニアリング、サイマルテイニアスなどを積極的に推進している。デザイン後の工程は短ければ短いほど良い。つまり、フリーズ後の期間短縮。このために、デザイン部としても次工程の設計部門で使えるデータを作成している。

 サーフェイスの面情報としてスタイル面があり、基本的にはこれらが設計に渡される。トヨタでは後述するV-Commによって、デザイン、生技、組立各部門から組長クラスの熟練メンバによってコンカレントエンジニアリングが推進されている。これによって、むだの徹底排除とともに精度の高い整合、高スピード化実現のための垂直立ち上げ(フロントローディング化)を可能にしている。

 コンカレントエンジニアリングとは、図3のように製品の開発工程に際して、その企画、設計、製造、販売、サービスなどの各工程を同時に、しかも並列に進行する形態をいう。特に、異業部門における同一時刻でのパラレル(並列)作業が推進でき、作業の統合化及び効率化を図ることが可能となる。このコンカレントエンジニアリングは『コラボレーション(Collaboration)』と同義で扱われる。

 図3の横軸は、デザイン、試作、製品設計、金型設計、生産加工といったモノづくりのプロセスを示す。縦軸の上部は各プロセスにおける自動車の外観関係(ボディ、ボデー)、下部は自動車の内部関係(エンジンやシャシー、足回りなど)を示す。『3次元ソリッドCADCAECAMCATNetworkシステム』をプラットフォームの中核ツールとしたとした『PLMProduct Lifecycle Management)』データベースによる基幹システムである。


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