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テクニカルレポート
2014.12.05
トヨタ自動車デザイン部におけるデジタルマニュファクチャリング ②
豊橋技術科学大学・武藤研究所

1.意匠におけるCAM工程(モックアップ工程)

 自動車のエクステリア全体のワイヤフレームデータができると、このデータを利用して、面作成し、クレイモデルのモックアップ用のNCデータを作成する。そして、クレイモデルの作成では、カースタイリングCADで作成されたワイヤフレームモデル(3次元形状データ)を基に、同時5軸制御加工機でNC加工を行うためのCL(Cuter Location:工具軌跡)を作成する。

 図11)にCLの一例を示す。モデルは古いが、初代スープラである。図1(a)は実際のモデルから800mm程上にずらして、モデル上部の全体のCLを表示している。図1(b)はフロントガラス、ルーフ、サイドウィンドのCLの詳細を示す。特に、この図の(b)を見ればわかるようにCLは等間隔のピッチになっており、フロントガラスではそのピッチが細かく、Aピラーに行くにつれて湾曲している。モデルは3次元自由曲面になっているので、CLも3次元自由曲線になっている。このCL上を工具がなぞるように動き、クレイモデルの不要部分を削り、目的のモデル形状に仕上げてゆくのである。

図1 クレイモデル作成のためのNC加工用CLの事例(トヨタ自動車(株)提供)

 この際、CLチェックを行う。すなわち、このモデル形状に対してCLが食い込むなどの余計な加工していないか、あるいは削り残しなどの未加工部分がないか否かなどのチェックを行う。CLチェックがOKであれば、はじめてクレイモデルの実加工を行う。

 図21)に示すのはソアラの1分の1のクレイモデルを加工しているところである。

図2 1分の1クレイモデルの同時5軸制御加工実施の一例(トヨタ自動車(株)提供)

図3 1分の1クレイモデルの足蹴作業(トヨタ自動車(株)提供)

  加工機は同時5軸制御のガントリ型CNC工作機械である。クレイモデルを削る工具を支える主軸ヘッドが首を振る型の機械である。その主軸ヘッドはフロントバンパやフェンダ、フロント(前)ドア、リア(後ろ)ドア、リアクフォータ、そしてリアバンパの下側まで回り込んで加工ができる。これをアンダーカットあるいはオーバーハング加工という。このようなアンダーカットができることが同時5軸制御加工機の最大の特徴である。そのために、モデルは床より高くして、中に浮かしたように設置されている。特に、フロントバンパのエアインテーク部分、フォグランプ部分、ボディサイドなど、アンダーカットになっているところでは、同図のような同時5軸制御加工機がなければ加工ができない。

 近年では、加工時間短縮のために加工ヘッドを2つ備えたガントリマシンも作られ、自動車の前と後ろから同時に加工している。また、電動式回転モータによるボールベアリング駆動ではなく、電磁石を応用したリニアモータ駆動でバックラッシュ誤差を回避して、さらに一段上の高速・高精度化を実現した工作機械が開発され、デザインの現場にも活用されている。

 デザイナー個人のアナログ情報が、会社共有のデジタル情報に置き換えられたことで、クレイモデル作成における作業の効率化が図られた。

 工具の形状・サイズや加工条件(工具回転数、工具送り量、ピッチ送り量、切り込み量など)で、切削後のクレイモデル表面の面粗さ(『カプスハイト』)が変わるので、図31)に示すような手作業でクレイモデル表面を仕上げる。

 

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豊橋技術科学大学・武藤研究所
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