不具合事例（ぬれ性不良）紹介

実装業界での環境問題に取り組みは、いずれの解決策もはんだのぬれ性を引き起こしている。その具体的な不具合事例を紹介する。

●事例紹介①
図3に示すコネクタは東南アジアの実装工場で実装されたが、リードの側面ではんだが十分にぬれていない。この状態を放置していると、リード−はんだ界面にクラックが発生し、不具合を引き起こすことは明らかである。東南アジアの気候は高温・多湿であるため、部品表面の酸化膜は厚く、実装条件が適正範囲からずれると酸化膜を除去できず、ぬれ不良が多発する。QFP、BGAのような高価な部品は密封保存されており、開封してからは一定期間以内に使用することが義務付けされているため、このような不具合を発生することは少ない。しかし、コネクタやチップ部品のような汎用部品を温度と湿度が管理された環境下で保存しているところは少なく、そのほとんどがダンボールに入れ、高温・高湿の部品倉庫で保管している。鉛フリーはんだ合金を採用することにより合金のぬれ性の低下を引き起こしている現状では、すべての部品を乾燥器で保管・管理することが望ましい。

図3　コネクタのぬれ不良

●事例紹介②
図4は、本部品のリードはぬれず、はんだの上に浮いた状態になっている。温度プロファイルをチェックしたが特に問題はない。調査すると、本部品は『流通品』を使用していることが判明した。『流通品』は部品メーカーで製造後の、部品商社間での流通・保管履歴が不明であるため、活性力の弱いフラックスではリード表面の金属酸化膜を完全に除去できなかったものと思われる。

図4　リードのぬれ不良

産業機器用実装基板への洗浄復活

産業機器は15年あるいは20年以上と家電製品と比較して、はるかに長期間にわたって製品を稼動させることが求められることが多い。活性力の低いフラックスを使用した場合には銅パッドや部品表面の金属酸化膜を完全に除去できず、ぬれ不良を起こして初期のぬれ不良や長期信頼性低下の原因となるため、以前のように活性力の強いフラックスの復活が望まれる。そのためには、腐食の原因となる実装基板上に残ったフラックスは洗浄するために、フロンを使用しない新たな『基板の洗浄』について考える必要がある。

図5　洗浄剤の要求特性

1.代替洗浄剤の要件
フロンに代わる実装基板の洗浄剤の導入にあたっては、地球環境に対する負荷は限りなく小さいことはもちろんであるが、技術的な観点からは図5、並びに下記に示す性質を有することが求められる。

　①白色残渣除去能力
すずはフラックス成分のロジンや有機酸と反応して溶剤や水に難溶性のすず塩を生成する。鉛フリーはんだではすず—鉛共晶はんだと比較してすずの含有量が約3倍のすず塩が生成される。すず塩は白色残渣やマイクロはんだボールの原因物質であり、リンス工程で再付着し不具合にいたる。したがって、洗浄剤には金属塩を溶解する能力が要求される

　②発泡性
洗浄剤に発泡性があると洗浄対象物との接触面積が小さくなり、洗浄効率が低下する。したがって、洗浄剤としては発泡性が低いほうが洗浄効果は大きくなる

　③隙間洗浄性
カーエレクトロニクス、携帯電話、デジカメをはじめ、実装基板の高密度、薄型化に伴い、狭間隙化に対しても洗浄剤が浸透しで洗浄できる能力がなければならない。特に、白色残渣は実装部品の隙間に残存しやすく、高い隙間洗浄能力が要求される

　④リンス性
アルコール-水リンスは蒸留再生できるとともに、活性炭、イオン交換樹脂による吸着処理で短時間に循環再生できる。そこで、プレリンス工程では蒸留再生、仕上げリンスでは吸着循環再生の洗浄装置システムを構築することで、経済的な洗浄が可能となる。

以上の洗浄を実施するために開発された製品としては、荒川化学（株）製のパインアルファ（『ST-180』『ST-180K』）があり、すぐれた洗浄能力をもつ洗浄剤である。

2.代替洗浄剤の候補溶剤
フラックスを洗浄・除去するための新しい洗浄剤として、飽和炭化水素系やグリコールエーテル系があるが、グリコールエーテル系が多く採用されている。その理由として、
　①フラックスの主成分であるロジン（松脂）を良く溶かす
　②クリームはんだの主溶剤で添加物も良く溶かす
　③水溶性で引火点が高く水添加で非危険物
　④水分量・フラックスの管理装置が完備
が考えられる。

まとめ

実装関連の環境対策技術の開発は、家電業界が中心に開発された経緯がある。これははんだの使用量が家電業界に圧倒的に多かったからに他ならない。しかし、家電製品にとってはメリットな環境対策技術であっても、産業機器用実装基板の製造にはメリットにならないものもある。産業用機器の信頼性に対する要求は家電製品と比較すると圧倒的に厳しい。これらの背景を考慮するとき、産業機器用実装基板の製造にあたっては家電製品と異なる配慮があってしかるべきであり、その一つとして『実装基板の再洗浄』を提案するものである。

 

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