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テクニカルレポート
2016.07.07
『地球環境』を守るための施策を探る
NPO法人 日本環境技術推進機構 横浜支部

 

EUのREACH規則

  REACH規則は、今まで別々に存在していた化学物質管理、規制の仕組みを統合して包括的なリスク管理を進めるとともに、

 ①人の健康と環境の保護
 ②欧州化学産業の競争力の維持向上

などを目的にEUで策定したもので、すべての物質を対象とした規制である。

 REACHとは、Registration、Evaluation、Authorization and Restriction of Chemicalsの略で、『リーチ』と呼称される。欧州における化学物質の総合的な登録・評価・認可・制限の制度で、農薬や医薬品はREACH規則の対象とはなっていない。

 年間の製造または輸入量が1トン以上の化学物質が対象で、図1に示すように予備登録が2008年12月1日で終了し、さらに第一段の本登録の締め切りが2010年11月30日に終了、第二段の本登録の締め切りが2013年5月31日と迫り、2018年までを最終期限として段階的に実施される規則である。

図1 REACH規則の登録スケジュール

  欧州に化学物質や成形品を輸出する企業は、このREACH規則の仕組みを理解しての対応が必要である。具体的には、2008年7月1日から2008年12月1日までの間に欧州化学品庁へ輸入者自ら、または指定代理人を通しての予備登録が実施され、この期間に65,000社が予備登録した物質は15万物質(受領した届出数は275万件)に達した。そして、2010年11月30日を締め切りとする第一段階の本登録期間が終了した。

 年間1トン以上使用する化学物質には、安全性評価が義務付けられ、3?11年以内に化学物質情報の登録が必要となり、未登録の化学物質を含有する製品はEUでは販売ができなくなるといった新しい化学物質規則である。REACH規則の高懸念物質は2008年6月から順次公表され、インターネットによる意見公募が実施され、2008年10月28日、2010年1月13日、2010年6月18日、2010年12月15日、2011年6月20日、2011年12月19日にそれぞれ高懸念物質のリスト(附属書 XⅣ)に収載され決定されたその総数は現段階では73物質となった10)。

 この高懸念物質を、製品に0.1%以上含有していると情報を開示する義務が発生し、結果的には、サプライチェーン上に位置する企業は川下企業からの問合せが始まると45日以内に回答が必要となる。

 次から次へと公表される高懸念物質に関して、製品に使用している材料や部品などに含有していないかの確認が必要となる。つまり、常日頃からの化学物質の管理が重要となることを意味し、各企業はデータベースを作成しての管理が必要となってきた11)。

エネルギー問題とその対処方法

  2011年3月11日に発生した東日本大震災は、日本人に対して考え方を変えないといけないと思うような大きな教訓をもたらした。地震で発生した津波によって多くの家屋が流され、そして福島原発事故へとつながり、甚大な被害をもたらし、今もって福島原発は収束に至っていない。

 原発事故によって原発の安全神話はもろくも崩れ去った。2011年の夏は電力不足によってエネルギー問題が浮上した。今や、基本に戻って考え直さないといけない時期となってきた。

 被災してすでに1年が経過し、復興が大きな課題として残るものの、被災地を美しい自然が蘇るように、また誰もが住みたいと思える町を築くことも重要である。

 ただ単に復旧する従来型の町づくりではなく、環境との共生や循環型社会の視点で、復興して震災前を超える経済発展を実現することが必要である。それを実現するには、まず目の前の震災がれきを資源として活用してリサイクルし、かつ付加価値の高いエコビジネスへとつなげることも大事である。

 塩害となった農地の回復には膨大なコストと時間がかかることも想定される。別の見方として広大な塩害の土地を太陽光発電設備としての利用も解決案の一つかもしれない。あるいは、塩害に強い植物を植えて食料にするのではなく、バイオエタノールの原料に使い、バイオエタノール製造の化学工場を建設することも復興策の一つかもしれない。

 ここで改めてエネルギー問題に焦点にあてて、環境問題に絡めてオイルショック後の対応に果敢に挑んだデンマークの事例を紹介することにより、新たな取り組みへのヒントとなるのではないかと思う。

1.デンマークのエネルギー問題解決の歩み

 デンマークといえば、平坦な土地で酪農の国、というイメージをもたれているのではないかと推察される。このデンマークは、1973年のオイルショックの時、エネルギー供給の約98%を輸入したエネルギー源に依存しており、エネルギー自給率はたったの約2%であったという。またこの当時は日本も同様に海外にエネルギーを依存しており、まったく同じ環境であった。石油に依存していた環境下だったのである。そのため、『油』を断つことは、まさに『油断』を意味することであった。

 1973年当時、デンマークの電気エネルギー事情は、国土に渓谷らしきものが存在しないため水力発電はないため、石炭火力発電と石油火力発電によって得ていたのである。

 同国では石油危機から間もない1976年5月、国外の産油国への依存度を低減することを目的とした『エネルギー計画 1976年』の政策を公表した。その骨子は、

 ①北海油田の開発
 ②発電余熱と天然ガスを利用した給湯計画の実施
 ③補助金制度を導入した省エネの奨励
 ④エネルギー税の導入

といったものであった。

 エネルギー自給率が低く、石油の依存度が高いことから、1970年代の石油危機を契機としてエネルギー自給率を高めるため北海油田の開発や効率化/省エネの推進などを検討することになったのである。

 実はデンマークでは、第1次オイルショック直後の1973年、エネルギー不足を補うため電力会社では国内の15カ所に原子力発電所を建設する計画があったものの、1979年に発生した米国スリーマイル島原発事故の発生によって、世論は原子力発電に頼るのではなくその放棄に傾き、1985年には原子力発電に依存しない公共エネルギー計画を議会が決議した。つまり、原子力発電によって電気エネルギーを得るのではなく、別の道を歩むことになった。そのためデンマークは原子力発電機を1基も保有していない国である。

 1986年のチェルノブイリ事故の前年にデンマークは原子力発電ではなく、再生可能エネルギーによる道を選んだのだ。そこで登場したのが平地と長い海岸線を利用しての『風力発電』である。早くから風力発電に注力したためデンマークには風力発電の優秀な企業が育っている。

 1981年12月、『エネルギー計画1981年』ではエネルギーの効率的利用の促進、エネルギー源の分散化の促進などを発表するとともに、1982年4月には、北海油田の開発に力をいれることを決議し、15カ所の採掘の許可を出すまでになった。1992年になると北海油田の開発に成功し、石油の純輸出国となったのである。

 さらに1996年に、『エネルギー21」では、

 ①2030年までに海上風力発電所を合計400万キロワット建設
 ②2000年の設備量170万キロワットと合わせて電力消費量の50%を風力発電で賄う

といった計画を立てたのである。

 2005年8月頃には、風力発電機の導入は5,325基にも達し、約7割は市民が参加した組合方式で運営している風力発電機となっている。2008年になるとデンマークのエネルギー自給率は130%になり、電力はノルウェーやドイツに輸出するまでになった。

 エネルギー自給率2%であった国が、今や130%の自給率となったのである。方針を決めて目標向けて努力してそれを見事に達成したのである。

 デンマークは小さな国である。そのため、風力発電によって得た電力は不安定な電力であるという問題を抱えてはいるものの、陸続きという地の利を活かして、欧州の巨大電力市場に風力発電した電力を販売することによって相殺している。つまりデンマークは、海外に輸出した風力発電電力よりも多くの安定電力を海外から購入しているのである。国内は変動で処理できない約8割程度の風力で得た電力を海外に廉価で販売し、その代わりに安定した電力を海外から購入して自国用に消費しているのである。それゆえ、風力発電を高めても、その変動を自国内で吸収するのではなく、欧州の全体の中で吸収するといった仕組みを活用している。

 水力発電も保有できないハンディを持ちながら、原子力発電を保有していなくてもエネルギー自給率を130%(2008年)までなったその努力を見習わなければならない。もちろん、デンマークは555万人の人口であり、日本と比較すると規模が小さいという点はあるものの、その実績には頭がさがる12)。

2.デンマークに学んだクリーンエネルギーの町『葛巻』

 このデンマークの取り組みを参考にしてエネルギー自給率を78%までに高めた町が、日本にある。『北緯40度 ミルクとワインとクリーンエネルギーの町』として知られる岩手県葛巻町である。

 主な産業は酪農で、人口8,200人で面積の9割が山林で占める町である。人間よりも牛の数の方が多く、1.1万頭の乳牛が飼育され、東北一の酪農郷である。葛巻町は、地域の資源を宝に、自然の恵みを生かした『ミルクとワインとクリーンエネルギー』に取り組み、地球規模での課題である『食料・環境・エネルギー』の問題解決に挑んだユニークな町である。

 風力、太陽光、木質、メタンの4つのエネルギーを活かしての活動の成果が、この町にある。葛巻にはデンマークを見習って15基のデンマーク製の風力発電設備を導入し、さらに太陽光発電設備も導入している。また、間伐材の8割は山に捨てられていたが、から松の間伐材を使った木質系バイオマスガス発電設備も導入して森林資源を有効に活用している。さらに、くずまき高原牧場では乳牛の糞尿があり、その糞尿を利用してのメタンを発生してのバイオガス発電設備なども導入されている。

 その結果、電力自給率は180%となり、余った電気は売電している。エネルギー全体の自給率はなんと78%、食料自給率は200%にもなっている町なのである。食料自給率は39%となった日本の現状を見るにつけ葛巻の取り組みには大いに参考となる12)。

 

会社名
NPO法人 日本環境技術推進機構 横浜支部
所在地