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テクニカルレポート
2025.02.26
新連載 家電メーカーの分析屋が観た 鉛フリーはんだ実装技術〈第1回〉

①はじめに

環境問題に厳しいヨーロッパで、有害物質6種(水銀、鉛、六価クロム、カドミ二ウム、臭素系難燃剤2種)の使用を禁止する「RoHS指令」が施行されたのは、2006年7月であった。欧州の環境規制の開始に対応するため、1998年頃から日本国内の家電・電子・電機・産業機器の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)と日本溶接協会が中心となって、規制の対象物質の一つである「はんだ」に含まれる鉛を全廃するために「鉛フリーはんだ実装技術の構築」の共同研究・共同実験を行ない各業界をサポートしてきた。筆者はJEITAの共同研究に参画して「鉛フリーはんだ実装」に関連する最新の技術・知識・ノウハウを習得した。前職企業では物理分析・材料解析業務、市場で発生した家電製品の不具合解析業務を担当させていただいた。これらの経験を生かして2004年に『ソルダーソリューション株式会社』を設立し、早くも19年が経過した。この間、会社の規模を大きくすることはできなかったので、経営者としての才能は無かったようである。

2021年1月、新型コロナに感染してICU室で12日間を過ごして生死をさまよい、74日も入院生活を強いられた。生還できたことは幸運であったが、この間、お客様には大変なご迷惑をおかけしてしまった。58歳直前に早期退職して起業した際、75歳位までは現役を続けていたいと希望していたが、気が付くと喜寿を迎えてしまった。コンサルティング事業を廃業するにあたり、筆者がこれまでに経験してきた事業を振り返り、日本が今後も“技術立国”として発展を続けていくための私見を述べさせていただくことにした。

共同研究に参加していた当時のメンバーの多くは定年退職され、或いは人事異動等で「鉛フリーはんだ実装技術」の第一線を退いておられるようである。更に、当時、あれほど好調であった電子 ・ 電機 ・ 家電 ・ 半導体の業界は韓国、中国、台湾の台頭で大打撃を受けた。国内の製造現場を閉鎖して海外に拠点を移し、或いは実装基板の製造そのものを海外OEM先に委託する等、経営環境も激変してしまった。

自動車業界では「電気自動車」や「自動運転」の研究開発が加速的に進められているが、「制御基板の実装技術」が確立していることが前提であり、もし自動運転用の制御基板が誤動作や故障すれば、直ちに大事故につながる。

一方、スマホ等の電子通信技術が進歩して便利な社会が構築されることには賛成であるが、ひとたび災害に遭遇して停電に至れば、デジタル化によるネット化社会は簡単に破綻し、極めて不便な社会に陥る危険性もはらんでいる。地震、台風、集中豪雨等の自然災害の多い日本国内では、デジタル化社会だけでははあまりにも不便をもたらすのではないだろうか。一方、太陽コロナに異常が発生するだけでも、電子情報技術を駆使した「豊かな社会」は、通信障害をもたらすことも指摘されている。

これまでの鉛フリーはんだ実装技術の開発経験と技術コンサルティング事業を展開してきた実装現場の実務経験を踏まえた内容にするため、可能な限りこれまでの専門書の記述内容からとは異なる観点から書き進めたいと思う。

あらかじめお断りしておきたいのだが、ここに示す内容は高尚な技術論文でも技術報告書でもない。「鉛フリーはんだ実装」という技術テーマに出会った一介の技術者が、過去の経験談を回想録的に書き示したものであり、今後の国内の実装業界が進むべき方向を憂いた個人的な独断と偏見に満ちた“独り言”であることをお断りしておきたい。

筆者が勤務していた家電メーカーは吸収合併された後に清算されたため、在職中にまとめた研究ノート、技術報告書、出張報告書、会議議事録、特許申請書等の全ての技術資料は廃棄処分されて検証の手段がない。この原稿を執筆するにあたり技術的には大筋では誤りはないと思うものの、一部には正確さを欠く表現があるかも知れないことをお許しいただきたい。尚「solder」を日本語で表現する時「はんだ」「ハンダ」「半田」といくつもの表示方法があるが、日本電子工業振興協会(JEIDA)の最初の会合で「ひらがな表記」することで意見集約されているため、本稿でもひらがな表示の「はんだ」を採用する。

会社名
Gichoビジネスコミュニケーションズ株式会社
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