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テクニカルレポート
2024.11.25
電子デバイス洗浄剤におけるSDGs -低リスク性能と洗浄性能の両立-
ゼストロンジャパン(株)
加納 裕也

⑤洗浄をより確実にするための「化学分析」

SDGsの観点から考えた場合、不良を早期に発見し是正することで損失を最小限とする、精度の高い開発を行い製品の歩留まりを向上させるといった行動が求められる。

電子デバイス洗浄分野において長年慣習的に行われ、現在変革を求められるのが「清浄度評価」である。洗浄後の出来栄え評価として、目視や拡大観察による確認評価が「基本評価」であるのは未来永劫不変と言えるが、絶対的な評価となり得ないことはマーケットでも広く認識されている。しかし、コスト・人材・設備といった壁に阻まれ、統一した対応はなされていないのが現状である。

旧来の公的基準としてはIPC(米国電子回路協会)制定の評価基準が設けられているが、制定されてから年数が経過しており現代の電子デバイス洗浄の要求度に十分対応できていないのが実情である。そこで世界的な動きとして清浄度基準の見直し機運が高まっており、アメリカ ・ ドイツ ・ イギリス ・ 中国においてフラックス洗浄をはじめとした清浄度評価に関しての議論がなされ、日本発信のISO規格の提案も行われ一定の成果を得ている。現在各国との最終調整が進められ、正式に認定される見込みとなっている。

 

ISO/DIS 9455-18 Part 18 :

Test methods of cleanliness of the soldered printed circuit assemblies before and/or after

cleaning

https://www.iso.org/standard/83127.html

 

新しく認定される見込みとなるISO規格の最大の特徴は、化学分析を洗浄性評価の手法に規定している点である。現代の電子デバイスの洗浄では複合的なコンタミネーションへの対応が求められており、外観観察のみでは十分に対応できない場合も多く見られる。適切な分析手法を用いることで各成分を有効的に評価できる(図19〜図21)。

図19 ソルダリング後の残渣

図20 ISO/DIS 9455-18の評価手法概要

図21 ゼストロン保有設備(当社のISO/DIS 9455-18に基づいた分析)

 

⑥当社洗浄剤のSDGs機能と取り組み

本誌では数回に渡って当社独自の技術「MPC®(マイクロフェーズクリーニング)」の紹介を行ってきたが、本稿ではSDGsに焦点をあてた形で改めて紹介させていただく。MPC®洗浄剤は低リスク性能と洗浄性能の両立を果たしている洗浄剤である(図22)。

図22 MPC®洗浄の基本概要

 

6.1 低VOC・生分解性

MPC®洗浄剤は構成成分の80%以上が水で、低VOCを達成しており、近年VOC強化が進められている中国の洗浄剤におけるVOC規制の検討基準値は100g/L以下となっているが、この値を達成できている。また、洗浄剤成分として使用されている有機成分は生分解性を担保しており、各国の法令もクリアしたグローバルな適応が可能な仕様となっている。

 

6.2 ロングライフ・再付着抑制

MPC®洗浄剤は水系洗浄剤であるがゆえに有機成分の溶解度は溶剤系洗浄剤に見劣りしてしまうが、MPC®洗浄剤は独自技術で有機性コンタミネーションを剥離しながら急速洗浄できる効果があり、コンタミネーションが高負荷となってもなお洗浄性を維持しながら再付着を防ぐ効果が得られる。このため洗浄性は衰えにくく、難解となる低スタンドオフ洗浄においても良好な洗浄性が得られる。また、剥離洗浄方式が主体であるため、難溶性のアミド化合物やポリマといった新素材にも柔軟に対応が可能である(図23、図24)。

図23 MPC®洗浄剤の利点

図24 低スタンドオフ洗浄の様子

 

6.3 包括的な化学分析

5章で紹介したように、当社では高機能マイクロスコープに加え、顕微FT-IR、IC、SEM-EDSと各分析装置を導入しており、洗浄評価時に包括的な化学分析が可能である(図25)。また、お客様からのご要望にお応えする形で洗浄課題のある製品の解析を通じ、洗浄工程の改善に取り組む活動も行っている。

図25 当社の包括的サポート

 

⑦SDGsが問う倫理観

現代は急速なテクノロジーの発展と同時に「倫理観」が問われる事象が増加しており、電子デバイス業界においても例外ではないと言える。「公平な検査手法」「生成AIの活用法」「電子テクノロジーの軍事転用」と話題は尽きない。SDGsは利益と利便性を第一としてきた現代生活の潮流を、痛みをともないながらも適性化させるといった側面がある。相容れない要素を取りまとめるのは至難となるが、あきらめず取り組んでいく姿勢を維持できるかどうか問われているのではないだろうか(図26)。

図26 SDGsが問う倫理観

 

電子デバイスは現代必需品であるからこそ、様々な課題に実直に取り組んでいく宿命にあり、生産活動に限らず広報活動も含め公正公平な対応が必要であると考える。当社は絶対的な清浄度技術を今後も探求し、この活動と理念に寄与できるよう尽力させていただく。