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テクニカルレポート
2024.11.25
電子デバイス洗浄剤におけるSDGs -低リスク性能と洗浄性能の両立-
ゼストロンジャパン(株)
加納 裕也

①はじめに

2024年の夏は日本各地で猛暑日を記録し、暦の上では秋とされる9月に入っても残暑が大変厳しく体調を維持するのも難しい日々となった。地球温暖化の影響を体感する機会は年々増加している。近年の大規模な気候変動は世界的にも大きな課題となり、SDGs(Sustainable Development Goals)への取り組みが活況となっている(図1)。各メーカーは策定した環境保全への取り組みを本格的に実行しつつあり、消費エネルギー量の効率化から使用する化学物質の独自規制まで多岐に渡っている。

図1 SDGs

 

このような動きの中で、日常も含めた各生産活動におけるエネルギー効率の最適化は重点項目であり、パワー半導体・制御基板などといった電子デバイスの役割はよりいっそう重要な要素となっている。本稿ではSDGs達成のため電子デバイスにはどのような要求があり、SDGsの視点から考えた電子デバイスの洗浄はどのようにあるべきなのか技術的観点から論じる。

電子デバイス洗浄は用途により多岐に渡るが、本稿ではシンター接合およびはんだ接合による高信頼性が求められる製品群、接合性の確保などの目的から洗浄が必要となる電子デバイスを対象として記載させていただく。

 

②電子デバイス洗浄とSDGs

2.1 電子デバイスは最大の貢献者

電子デバイスは、電動化が急速に進んだ各分野における省エネ効果に必須な部材である(図2)と同時に、その製造によってもエネルギーや希少価値が高い原料が必要とされるため、SDGsの視点から考えた場合、製造工程も含めた適正化はかなりの利点があると言える。

図2 電子化の効率化事例:DX(Digital Transformation)

 

電子デバイス業界における製造工程の環境負荷低減の例としては、各製造機器の省電力化に加え、はんだペースト・フラックスといった接合材料の低温域での運用、使用原材料の適性化や、副資材の有効活用も注目されている。その1つとして電子デバイスにおける洗浄も様々な観点から適正化の要求がなされており、見直しの機運が高まっている。

 

2.2 電子デバイスの洗浄に求められる大前提

電子デバイスにおける洗浄目的は、接合が終了し余剰となった有機物・活性剤などに代表されるイオン成分を除去し、デバイスが正常作動できる恒久的な安定性を維持することである。しかし、洗浄性能と環境適正に代表される低リスク化の関係性は実質的にトレードオフとなることが多く、「価格」「使用感」といった現行工程との多数の変更点から忌避感を抱かれる場合もあり、新規工程への転換はかなりハードルが高いと言える。

また、過度なコスト削減や環境フレンドリーを無条件とした洗浄工程の選択は、大前提である「恒久的な安定性を得る」という本来の目的を軽視した結果となりかねない。行き過ぎた取り組みはむしろ逆行的である(図3)。例として「節水」を挙げてみたい。「節水」を過剰に求めたあまり、「手を清潔にする」という本来の目的が疎かになり、食中毒や病気といった新たな問題が発生するリスクが高まるケースも考えられる。結果として過大なコストを支払う本末転倒になるであろう(図4)。

図3 過度なコスト削減・環境フレンドリーが洗浄工程にもたらす問題

図4 目標を達成できることが前提(手洗いの例)