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テクニカルレポート
2015.10.02
資源循環型社会のためのものづくり『ソーシャル・マニュファクチャリング』
東京造形大学

 

1. 集中一方向から分散双方向社会への転換

図1 集中一方向から分散双方向へ

  私たちの日常生活は、ものや情報、サービスの提供を受ける受動的なしくみの社会から、能動的にものや情報、サービスを創出して、しくみをつくりあげる社会へと転換しようとしている。受動的な社会では階層構造が存在し、上位階層から一方的に供給され、私たちはそれを需要する立場にとどまる。これに対して、能動的な社会では、ある時は供給する立場であり、また、ある時は需要する立場にある。

 初期の情報化社会においても、ホームページなど情報を発信する側と、その情報を見るという受信する側の立場がはっきりしていた。しかし、今や日常の出来事や知識を言葉や動画などによって発信する供給側であると同時に、他の人の情報を受信して楽しむ需要側との両側面をもつ双方向の社会へと進化してきた。

 このように両側面をもった双方向の社会は、環境分野においても見られる。エネルギーを電力会社から家庭に供給する社会から、太陽光発電などの普及により、家庭で発電されて余ったエネルギーを供給すると同時に、足りない時には他から補う効率的なネットワーク社会である。

 こうした構造は、図1に示す通り、資源循環型社会においても、あてはめて考えることができる。今まで家庭から出るごみの処理は、地域の自治体やメーカーなどが集中して行なってきた。すなわち、私たち生活者は排出者であり、自治体やメーカーは処理者という一方通行の流れだった。このため、自治体やメーカーへの負担が大きく偏り、リサイクルの普及はなかなか進まなかった。また、排出者である生活者もリサイクルへの意識が希薄になりがちであった。

 もし、排出者である私たち生活者がリサイクルの一部に参加し、排出する立場であると同時に処理する立場をかねそなえていたらどうだろうか。使えなくなった製品をそのまま棄てしまうのではなく、部品の一部を分解して分別することである。

 このように、メーカーが生活者でも簡単に分解できる製品を開発し、私たち生活者が分解などのものづくりに参加する社会システムが構築できれば、リサイクルの構造は変化していくであろう。生活者が、リサイクルはもとより、生産、メンテナンス、アップグレードなどのものづくりに参加することは、いうなれば、『ソーシャル・マニュファクチャリング(Social Manufacturing)』と呼ぶことができる。まさしく、ソーシャル・マニュファクチャリングは『生活者参加型ものづくり社会』である。

 ソーシャル・マニュファクチャリングに基づき、生活者でも組み立てが容易な製品開発により、メーカーは生産コストを低減することができ、生活者も安価に手に入れることができる。

 また、生活者でも分解しやすい製品開発をすることで、生活者は従来のごみの分別方法で取り扱うことが自宅で日常的に無理なくできる。そして、リサイクルに参加したという社会貢献への心地やすさも実感するかもしれない。一方、メーカーや自治体では新たな回収、リサイクルルートを構築する必要がなくインフラへの投資が軽減される。さらに、事前に製品をある程度の素材別に分解していることから純度の高い希少資源が抽出することが可能であり、リサイクルコストの軽減やリサイクル率を向上させることができる。

 そして、自分だけのカスタマイズや、簡単な修理、使わないときに収納できるなどの付加価値を生み出す。長期的な視野では、子供たちへのものづくりへの興味を深めたり、科学教育にもつながることだろう。

 このように、ソーシャル・マニュファクチャリングは、メーカーだけではなく、さまざまな生活者によるものづくりの集合知として新たな社会が創出されるであろう。

2.ソーシャル・マニュファクチャリング製品の種類

図2 ソーシャル・マニュファクチャリング製品の種類

  日常生活を見まわしてみると、意外にも生活者自身が製品の組み立てや分解に参加するものづくり参加型製品がすでにあることがわかる。いうなれば、ソーシャル・マニュファクチャリング製品の元祖といえる。

 図2に示す通り、これらは、その特徴から、製品のライフサイクルといえる生産、使用、排出の各段階で見ていくと分類することができる。

 まずは製品の生産段階から見ていくことにしよう。近年、イケアに代表されるように、北欧家具メーカーの販売スタイルは大人気である。生活者自ら店舗で好みの椅子、テーブル、棚などの家具を選び、その家具の部品を購入して持ち帰り、自宅で組み立てを行う。ねじが共通化されているためドライバー1本で組み立てが可能である。もし、組み立てがわからなくなっても安心である。イケアのサイトにアクセスすると、組み立て方法の動画やコツなどのアーカイブを見ることができるようになっており、ものづくりとネットワークがうまく融合しているのである。生活者にとって、おしゃれな家具を安価で手に入れることができ、家具メーカーにとっては、生産、輸送コストの低減を実現している。『リデユース』という言葉は『減らす』という意味から、ごみを減らすなどの環境問題に用いられるが、この場合、まさしく、生活者の経済的な負担や、メーカーのコストを低減する意味として『リデユースモデル』と呼べるだろう。

 生産段階においては、この他にも、組み立てる過程を楽しむ『ホビーモデル』がある。もともとPCは自分で部品を購入して組み立てを行ってきた。今もその名残りともいえるように、ハードディスクなどの周辺機器はオプションを追加している。古くは、ラジオも組み立てキットがあった。ソニーでは、長らく、組み立てラジオキットという製品を販売してきた。ラジオの機能としての魅力と同時に、造る楽しみを提供する製品である。こうした価値が長い間の隠れたヒット製品へとつながったのだと思う。

 次に、製品の使用段階である。扇風機やこたつなど、夏季、冬季に限定して使用し、それ以外の期間は分解収納して使い続ける『ロングライフモデル』がある。換気扇は外装カバー、ファンなどを取り外し清掃することを前提として工具を用いずに分解できる構造になっている。また、消耗品を交換するプリンタのインクカートリッジも同様のことがいえる。こうした、清掃、消耗品の交換を目的とした製品は『メンテナンスモデル』といえるだろう。

 PCは、メモリの増設を行うために、カバーを取り外すとすぐにセットできる配置の構造になっている。スマートフォンの着せ替えケースは自分の好みの色へのカスタマイズである。こうした製品は、『アップグレードモデル』といえる。

 最後に、排出段階では、シャンプーボトルに代表されるように、容器の中身を詰め替えにより繰り返し使う『リユースモデル』がある。

 さて、『リサイクルモデル』であるが、ここでもさまざまな例がある。たとえば、食品ラップは、包装箱と金属刃を分離することが容易なっており、包装箱、中芯の紙類と刃の金属に分別することができる。ペットボトルは、キャップとボトルに分離されるが、さらにボトルに貼り付けられているラベルはミシン目がついているため容易に分離できる工夫がされている。また、ボックスティッシュも同様にミシン目がついており、コンパクトに折りたためる。小型家電の電動歯ブラシは、内部電池を適正に処理するためにドライバで取り出すことができる。

 このように私たちの身の回りには、生活者自身がものづくりに参加するさまざまなソーシャル・マニュファクチャリング製品があることがわかる。

 排出段階での『リユースモデル』や『リサイクルモデル』は資源循環に有効であるが、使用段階での『ロングライフモデル』『メンテナンスモデル』『アップグレードモデル』も長寿命化になることから有効な方法といえる。また、生産段階における『リデユースモデル』や『ホビーモデル』は、生活者自身が組み立てることにより製品に対する愛着がわき、やはり長く使い続けることが考えられる。このようにソーシャル・マニュファクチャリング製品は資源循環において、大きな役割をはたすのである。

 

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東京造形大学
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