⑤全固体電池の試作と燃焼性試験
リチウムイオン電池においては、JIS C8715-2 耐類焼試験、UL2596の熱暴走試験などがあるが、現状では全固体電池を想定した燃焼試験の試験規格はない。また、全固体電池は、現状はウェアラブル機器用途のみが上市されており、小型の基板実装用途の数cmサイズのものが多い。
ここではコンデンサなどの基板実装部品など小型のデバイスなどに適用されるIEC 60695-11-5/JIS C60695-11-5/UL1694 ニードルフレーム試験について全固体電池への適用を試みた。
ニードルフレーム試験は、故障などのトラブルにより生じる小さな炎の影響を模擬した試験である。難燃性評価試験として代表的なUL94などの試験が実施できない小さな部品などを対象としており、コンデンサなどの基板実装部品をはじめ、電気・電子機器、その半組立製品、および構成部品に幅広く適用されている。
ニードルフレーム試験はバーナーを用いて12mmの炎で材料に接炎し着火や燃焼時間などを評価する。概要を図4に示す。
○ 仕様装置
使用するバーナーは内径0.5mm±0.1mm、外径0.9mm以内、筒長35mm以上である。炎の高さは12±1mmである。また、純度95%以上のブタンガス(またはプロパンガス)を使用する。本実験ではブタンガスを使用した。
○ 接炎個所
通常の使用状態でもっとも不利な位置または垂直に接炎を行う。本実験では垂直に接炎を実施した。
○ 接炎時間
ニードルフレーム試験ではサンプルの体積に応じた接炎時間を選択する。本実験ではサンプル体積から5秒を選択した。
○ 試作電池
本実験において使用した全固体電池サンプルは当社にて試作した。試作した電池の外観を図5に、構成を表4に示す。圧粉方式により作成したバルク型電池であり、電池サイズはφ10mmである。使用する固体電解質の違いにより、①酸化物系、②硫化物系、の2種類を用意した。なお、各材料は全固体電池においてよく知られている材料を使用した。
○ ニードルフレーム燃焼性試験の結果
①酸化物系試作電池では着火などは全く観測されなかった。一方で、②硫化物系試作電池では図6のように着火を確認した。硫化物固体電解質が水分と反応することにより硫化水素や亜硫酸ガスなどの可燃性ガスが発生したものと推察される。
本実験では、電池パッケージなしで集電箔をつけた電池のみをむき出しにして燃焼試験を実施した。実際に電池として使用する場合は、通常はパックされ内部の電池材料が空気に触れることはない。
しかしながら、車載用途に展開が期待されている硫化物系全固体電池は、万が一の事故の際に電池材料が空気中に露出する可能性も十分に考えられる。そういった場合の安全性についても考慮するべきであると考えている。
現在、車載用のリチウムイオン電池試験規格はIEC62660
シリーズ(電気自動車の推進用二次リチウムイオンセル)などが存在するが、全固体電池専用の試験規格は存在しない。安全性が高いとされる全固体電池であるが、材料構成や環境によっては安全性リスクが存在することを認識する必要がある。加えて、空気中に露出してはいけない全固体電池ではパッケージ材料の選択はより重要となる。
⑥最後に
本稿ではコンデンサなどの基板実装部品など小型のデバイスなどに適用されるニードルフレーム試験を小型の全固体電池で実施した例を紹介した。硫化物固体電解質で構成された硫化物系全固体電池では着火が確認された。
全固体電池は高温や低温など過酷な環境下で充放電ができるというメリットがある。使用環境が厳しくなればその分、材料の耐久性も要求される。当社では引き続き、燃焼試験をはじめリチウムイオン電池では適用されない安全性試験を検討することで今後の全固体電池の評価に適した試験条件を検討していく。
当社ケミトックスは1975年に設立し、第三者試験機関として、太陽電池モジュール、鉄道車両や航空機に使用されるプラスチック材料、プリント配線板、有害化学物質分析、プラスチック材料自身の燃焼性・各種機械的・電気的特性など、多岐にわたって製品の性能評価および安全性評価を行ってきた。
二次電池分野については充放電試験、サイクル耐久性試験などの各種性能評価、また、外部短絡試験、および釘刺し試験をはじめとした各種安全性評価サービスを展開している。次世代電池として有力な全固体電池については試作から試験評価・分析を含めたワンストップソリューションを開始した。
今後もより安全にそしてより効率よく製品を普及させるために「安心は安全から、安全は試験から」をスローガンに日本の産業発展に関わっていきたいと考えている。
- 会社名
- (株)ケミトックス
- 所在地
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