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テクニカルレポート
2016.12.27
海外拠点で生産した 実装品における信頼性の確保
流出不良が増加している現状とその対策
STCソルダリング テクノロジ センター

 

海外製造品におけるNi-P/Auフラッシュ基板の現状

図3 Auフラッシュめっき表面のピンホール

 

図4 粒界腐食観察箇所

図5 SEMによる粒界腐食観察 ①

 

図6 SEMによる粒界腐食観察 ②

  上述のように日本国内においては、これまでの過去トラブルの解析や研究結果から粒界腐食を抑制するための技術や管理などの対策が取られ、またNi-P/Auフラッシュ基板を使用する側も、発生し得る粒界腐食の程度を信頼性評価によって市場リリース後に問題となるか否かの検証を行い、量産体制に入るようになってきた。そのため、上述の通り粒界腐食が致命的な製品故障に発展しないケースが一般的になってきたといえる。

 第1節で記載したように、今現在、はんだ実装に関わる量産体制が大きく変貌しようとしている。ではこうした中で、前節で述べたような信頼性評価や品質管理を海外拠点においたとしたら、それを充分に機能させることは可能であろうか?今現在、当社の元に来る故障解析依頼やコンサルティングの内容をみる限り、充分に機能しているとはいえない。

 そこで、中国基板メーカーで製造されたNi-P/Auフラッシュ基板の評価事例を紹介する。Auフラッシュめっき部の評価として、アンモニア-過酸化水素によるソフトエッチング耐食試験を行った。常温によるソフトエッチングで浸漬時間は30secである。下図3に示すようにAu表面に多くのピンホールを確認した。

 Auは耐食性が高く、一般的な使用環境において腐食されることは少ない。しかし、Auめっき部にピンホールが発生していた場合、またそのピンホールがNiめっきまで到達している場合、Auが陰極となりNiが陽極となるガルバニ電池が形成され腐食が加速される。この場合の腐食は、電解腐食(ガルバニックコロージョン)と呼ばれる。通常、異種金属接触部を流れる電流は、イオン化傾向の小さい貴な金属から大きい卑な金属へ流れる。しかしガルバニ電池を形成している箇所では、卑な金属から貴な金属へ逆に電流が流れる。その結果、卑な金属は金属イオンとなり溶け出すと同時に、電子が貴な金属へ移動する。Ni-P/Auフラッシュ基板では、下地のNiが腐食し、腐食生成物がAuめっき表面へ移動していく。当然、この腐食生成物がAu表面へ達した場合、はんだぬれ不良である未はんだやはんだ弾きの原因となり得る。

 次に粒界腐食の程度を調査した。今回は鉛フリーはんだSn3.0Ag0.5Cuにて、白光(株)製のソルダリングポット『FX-301j』を使用し、240℃で5secはんだDipの後、断面によるSEM観察を行った。図4に金属顕微鏡写真によるはんだ接合部の全体像を、図5及び6にSEM写真による粒界腐食を示す。

 粒界腐食の程度として、腐食箇所が多く腐食の深さも大きいことが分かる。めっき浴の液管理やめっき条件にも原因はありそうであるが、上図の基板の場合、下地のCuめっき部に凹凸が多く、大きいことが確認できる。Niめっき部は下地の凹凸に沿うようにめっきされているため、銅張積層板として基材を受け入れた時点で均一な鏡面ではなかった可能性が高い。粒界腐食の発生箇所は、この凹凸差の大きい個所を選択的に発生しているため、基板メーカーのめっき条件のみならず、基材メーカーでの品質改善も必要となる。

最後に

佐竹 正宏 氏

  今後ますます加速していくであろう量産工程の海外拠点への移行に関して、警鐘の意味も含めて今回の記事を執筆させていただいた。もちろん海外での生産や、海外での現地調達すなわち海外の材料メーカがすべて悪いと言っているわけではない。しかし、これまで日本国内で通用していた手法や技術『のみ』では足りないとは考えている。メリット・デメリット、さらにはリスクの取り方が違ってくるのだと思われる。非常にきめ細やかな対応が必要とされるのと同時に、第2節末の方で記述したような曖昧さを払拭していく必要がある。

 こうした活動や対策にかかる工数や費用を加味すると、1機種の海外生産だけでは国内生産よりもコストアップになってしまうだろう。だとすれば海外拠点での生産移行を決めた時点で、初期にきっちり対策・整備しておく必要がある。しかし筆者が見てきた多くの企業では、1機種ごとに同じような問題で国内のスタッフが海外出張している現状を目の当たりにしている。生産品目数が多くなればなるほど、国内生産よりもコストメリットは出るはずであるが、こうした状況が多い中、本当にコストダウンに繋がっているかは疑問が残る。

 日本の技術・品質を今後も世界トップレベルで維持していくべく、今回紹介したような海外拠点における生産や、鉛フリーはんだの信頼性に関する事例などを今後も紹介していく所存である。

 今回の記事内容や、鉛フリーはんだ接合部の信頼性・実装技術に関する疑問・質問などあれば、お気軽にご相談いただきたい。

 

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STCソルダリング テクノロジ センター
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