4. ALD技術によるインプラントコーティング評価
バイオマテリアルとしては金属・セラミック・高分子材料が用途に応じて使われるが、3項に挙げた特色のため、近年ALDセラミック膜による封止の研究が進んでいる。一口にALDといっても、材料によってその特性は様々である。250℃にて各種材料を20nmALD成膜した場合の評価を表1に示す(試験条件の詳細は本項末尾の脚注を参照)。
表1 ALD成膜の細胞毒性・気密封止性・耐食性など評価(Herrera, 2016, p.119)
Al2O3、HfO2、TiO2、Al2O3・TiO2のいずれのフィルムもISO10993-5に定める試験では細胞毒性がないことが確認された。Al2O3はPBSに対する耐食性は良好で気密封止性は非常に優れているが、塩水に対する耐食性は悪い。TiO2は耐食性ではPBS・塩水いずれにも非常に優れているが、気密封止性はAl2O3に劣る。HfO2はPBS・塩水に対し良好な耐食性と非常に優れた気密封止性をもつが、総合的な評価では、表1に示すとおりAl2O3・TiO2の複合膜が最も良好な結果を示した。拡散バリア性はAl2O3・TiO2いずれも満足できるレベルではないが、一般的に拡散バリア膜としてはTiNやTaNが使われるため、材料の検討で今後クリアされる問題であろう。
ALD膜は複数の膜材料を組み合わせて積層していくナノラミネート(図3)という手法も一般的であり、材料単体では発揮できない性能をもたせることもできる。
図3 ナノラミネート(Al2O3/TiO2)SEM写真
Picosun社(フィンランド)とBrown大学(米)の共同研究において、ALD法にて2種類の酸化物を10nmずつ100nmまでASICに積層コーティングさせ塩水中での耐久性を評価した試験では、際立って高い耐久性が確認された。成膜後継続して87℃の塩水に浸漬させ、ワイヤレスにて通信し漏電していないかを測定することで、水分がパッケージ内に侵入していないかをn=4にて評価した結果、最短寿命のもので168日、最長では250日以上(継続中)問題なく作動している。体内温度を37℃とし、温度が10℃上がれば反応性が2倍になるという考え方により、87℃での耐久性試験での耐久日数×25を実際に体内で使用した際の寿命とみなすと、14年から20年以上も耐えうるということになる。研究は端緒についたところであり、更なる寿命の延長やばらつきの低減などが今後期待される。
※脚注:In vitroでの細胞毒性はL929線維芽細胞を37℃血清中で24時間培養させ生存率を測定した。気密封止性はヘリウムの透過率を質量分析計にて測定。PBS耐食性は、KH2PO4を10.6mM、Na2HPO4・2H2Oを30.0mM、NaClを1.54M含む10倍PBS溶液を、抵抗率18.2MΩ・cmの水で希釈し、54℃?60℃の範囲に昇温した液中に浸漬させ、8週間経過後の膜の減少量を観察した。塩水耐食性はNaCl0.9%に10vol%ウシ胎児血清を補充した生理食塩水37℃に4週間浸漬させ、膜厚及び組成の変化を観察した。拡散バリア性は、被封止物のSi基板を厚み1.5μmのCu膜でPVDコーティングしたものに対して細胞毒性と同じ評価が行われた。
- 会社名
- PICOSUN JAPAN(株)
- 所在地
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