応用商品への展開
図5 部品内蔵基板
図6 『SPET』の導体透明化への試み
将来の産業ビジョンとして、ラージエリアエレクトロニクスや部品内蔵基板などが成長戦略として必要といわれている。ラージエリアエレクトロニクスとしての成長戦略である透明フレキシブル基板『SPET』をコア技術として、さらなる成長戦略として独自な部品内蔵基板への展開も進めている。図5は、部品を内蔵することにより防水効果があることが特徴である部品内蔵基板である。また、部品を内蔵する封止インキを様々な特徴のあるインキに変更することで、放熱特性のある部品内蔵基板や、LEDの光を拡散することができる部品内蔵基板などへの展開も行っている。この部品を内蔵する基板の作成方法は、いたって簡単な方法で行い、防水効果以外に透明かつ柔軟であることが特徴にもなる。
また、透明フレキシブル基板『SPET』は、厳密にいえば、導体に銅箔を用いているため、完全に透明ではない。導体を透明にする方法として透明導電膜インキを印刷することで導体を透明にすることは可能である。しかし、透明フレキシブル基板『SPET』の特徴である高耐電流、低導体抵抗を特徴としているため、この方法は用いることができないし、イノベーションにはならない。今、新たなイノベーションで透明フレキシブル基板『SPET』の導体を透明にすることを試みている(図6)。これができれば、文字通りの透明フレキシブル基板『SPET』が完成となる。
今後の展開
透明フレキシブル基板『SPET』も応用商品への展開をはじめ、さらなる進化した透明加工品の市場提案を進めていきたい。また、コア技術である透明プリント配線板材料は、国内市場のみをターゲットとせず、世界市場で材料販売を積極的に展開をしていく予定である。また、透明フレキシブル基板材料の張り合わせ技術から、さらに進化した材料の研究・開発も進めている。
図7 高熱伝導基板断面写真
また、この透明フレキシブル基板『SPET』以外にも、様々なイノベーションの基板を開発し、市場展開を進めている。透明フレキシブル基板『SPET』とはまったく異なるイノベーション基板となるが、図7のような高熱伝導基板『銅ピン挿入基板』を開発し、市場展開をはじめている。高熱伝導基板『銅ピン挿入基板』は、FR-4の基板上に塔載する発熱体の熱源直下に、銅コア(銅コア径Φ1.0?Φ10.0mm)を形成し、その発熱体の熱源を銅ポストの熱伝導率である380W/mKを活かして、表面の熱を裏面に伝えることが特徴の基板となる。従来のFR-4基板であれば、熱伝導率が0.3W/mKから1.0W/mK、金属ベース基板であれば1.5W/mK?5.0W/mK、セラミック基板では3.0W/mK?200W/mK程度の熱伝導率である基板から比較しても、熱伝導率の点ですぐれていることが分かる。また、同構造をめっきや金属エッチング加工品からの製作も可能であるが、価格が高くなるため、この方法の採用はせず、独自の方法で構成及び平坦度を高めた。
また、熱設計(最近はシミュレーションともいうようである)と実際の試験においても、熱コンダクタンスが低く、高熱伝導率の効果はてき面である。この高熱伝導特性を利用して、LED照明の分野や、パワーMOSFETなどの電源部、エンジン・コントロール・ユニットの熱対策に採用がはじまっている。今後はさらに効果を高めるために、広がり熱抵抗を考慮した銅コアの形成方法、接触熱抵抗の低減を考慮した高熱伝導基板の構造にもチャレンジしていく予定である。
最後に
昨年は、東日本大震災という未曾有の災害のみならず、集中豪雨による被害も多く発生した。一エンジニアリングマネージャである自分は、復興に向けて何をすべきかを重々考えた。そして、新商品・新技術を世の中に送り出すことにより日本の先行きを透明にすることで、この混沌とした市場の変化と新たなビジネスモデルによる裾野産業の活性化での雇用確保と社会貢献であると結論づけた。
今回、ご紹介した透明フレキシブル基板『SPET』は、不透明な世の中をも文字通り透明にするポテンシャルをもった新商品・新技術の一つで、新しい価値を創造しつづけて、将来この挑戦と創造を振り返り新しい良い風を日本に吹かすことができたのかが大変楽しみである。
日本の製造業は、海外進出が進みさらに海外進出が加速している。海外には、市場があり、まだ従来のビジネススタイルでも成功するチャンスがある。しかし、日本と同様に将来はビジネススタイルを大きく変える日が来る。そのためにも、意識改革が必要で、従来の縮小していくであろう現状路線から、いかにイノベーション路線の戦略がとれるかがポイントであろう。
今回紹介した透明フレキシブル基板『SPET』の開発・生産を行うために、樹脂配合、レジストインキ開発、Roll to Roll生産方式、実装・組み立てなどは、弊社ではイノベーションであり、これらを行ったノウハウは財産である。この商品をはじめ、将来の産業ビジョンとしての確立を進めていくのであるが、これは時代が求める運と市場提案力に尽きる。時代と市場の運がたまたま合わずとも、また合致する時代が来る可能性も高く、様々な開発を行ってノウハウを蓄積し、時代が求めた時に技術確立・量産できるように先回りして運を導く術が必要であるとも考える。
また、これらを行うにあたり、多数の企業の方と協力して頂ける人々との出会いがあった。結果的に従来は、ある内容や工程のみの企業協力であったものが、たとえば透明フレキシブル基板「SPET」の商品がグローバルリーダーとなり、大きなコンソーシアムを形成できる可能性がある面では、将来戦略的連携が出来る可能性が高い。
これもまた運であるが、運を導くための地道な開発と多くの人との出会いを大切にしていきたい。これらを行うことによって、善い風を吹かして善い方になびき、成功に辿り付けるのではないかと考える。
風は吹いている。
参 考 文 献 1)岡田浩一『高速化するプリント配線板のEMC設計』、電磁環境工学情報EMC、Vol.160、pp63−70(2001.8) 2)岡田浩一『柔軟かつ透明な超柔軟配線板』、エレクトロニクス実装技術Vol.250、pp28−31(2009.3)
- 会社名
- シライ電子工業(株)
- 所在地
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