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テクニカルレポート
2016.09.09
透明フレキシブル基板で イノベーションする
シライ電子工業(株)

 

透明プリント配線板材料の開発と生産方法

  先ほども述べたように、透明フレキシブル基板『SPET』は開発した透明プリント配線板材料の加工品である。

 この透明フレキシブル基板『SPET』を理解していただくために、まず透明プリント配線板材料について説明する。

 透明プリント配線板材料のベース技術となるのは、新開発したプレポリマである。基板加工を主とする我々の業界では、銅張積層板は材料メーカから購入するのが一般的である。その銅張積層板は、材料メーカーが原料から開発、キャスティングしたり、材料となるフィルム、接着剤、銅箔などをラミネートする場合がある。このような一般的な仕事の流れが社内においても『常識』といわれ、揺るがざる事実である。この『常識』も結果的にはイノベーションの邪魔になるため、企業家精神と大きなパワーを他にも注ぎながら、透明フレキシブル基板材料のプレポリマを開発した。

 モノマ、プレポリマの開発は、実は化学とは無知の集団からの試行錯誤のスタートとなった。この無知の集団が、既成概念を知らなかったゆえに偶然見つけ出せたのが、今回開発したモノマ、プレポリマである(これ以上の詳細な情報はこの場では割愛する)。

 開発当初は、このプレポリマを銅箔に塗布し、硬化させるキャスティング法で透明フレキシブル基板材料を形成していた。よって、温度特性は一様に高く、大変柔軟な特性を備えていた。しかし、プレポリマーを多く使用することによるコスト高の問題と高柔軟性による工程での扱いにくさがあった。マーケティングの結果、この二つの課題では市場採用が少ないことが分り、キャスティング法での基材形成は見直すことになった。幸運にも、この見直しが透明フレキシブル基板材料をさらに市場ニーズにあった基材へと進化させた。

図2 透明フレキシブル基板材料

  また、プレポリマは、銅箔と透明度の高いPETフィルムとの密着性を高めるとともに、リフローはんだ部品実装時の熱でも透明性を維持することが特徴である。このプレポリマの密着性は、引き剥がし強度試験で1N/cm以上、リフロー炉通過後の透明度は、全波長域での透過率は85.0%以上、ヘイズは7.0以下である。

 このプレポリマを用いて、厚さ18μm、幅1m、長さ数百mの銅箔と厚さ100μmのPETを、ラミネート法とキャスティング法の良い所を取り入れた独自の方法で、プレポリマを塗布している。また、プレポリマの厚みコントロールは均一にするための特殊処理を行い、プレポリマー厚みは30μmで均一となるように設定している(図2)。

ラージエリアエレクトロニクスの基板生産方法

   透明フレキシブル基板材料をベースに、透明フレキシブル基板『SPET』の加工品の生産方式も、Roll to Roll方式を採用した。また、パターニングの工法は、印刷法と写真法の両工法でパターンニングができる工法とし、要求されるパターン密度などで最適工法を選定できるようにした。このパターンニングの印刷法と写真法の両工法の両立は、主力事業のプリント配線板の加工・管理能力を充分に活用できるコア技術の利点を活かした。

図3 透明フレキシブル基板『SPET』

  さて、次工程のレジスト塗布工程では、当初塗布用の透明レジストインキの開発も行った。このレジストインキも新開発したプレポリマを用いた透明インキで、先ほどの透明接着剤と類似したプレポリマを用いたため、透明フレキシブル基板材料との相性が良く、透明性も全波長域での透過率で90.0%以上、ヘイズが5.0以下である。現在はRoll to Rollの生産効率をさらに高めるために、このレジストインキから異種のプレポリマを用いたレジストインキに変更し、透過率、ヘイズも見直した。またレジスト塗布は、同様にRoll to Roll方式で塗布は印刷法を採用した。

 以降の工程は、要求仕様によって異なるが、表面処理、外形加工、検査などの工程を踏んで、透明フレキシブル基板『SPET』になる(図3)。

透明フレキシブル基板の実装・組み立て生産方法

図4 採用事例((株)日建設計様)

  透明フレキシブル基板『SPET』はベースフィルムにPETを採用しているため、ポリイミドなどと比較しても耐熱温度が低い。そのため、リフローはんだ実装する場合は、加熱収縮なども考慮してリフローはんだ実装を行う必要がある。通常、ポリイミドなどを用いたフレキシブル基板は搬送用ボードにフレキシブル基板を貼り付け、その柔軟性を補う実装方法を採用する場合が多い。この方法で、透明フレキシブル基板『SPET』をリフローはんだ実装する場合は、加熱収縮の影響を加味して低温クリームはんだを推奨している。これら透明フレキシブル基板『SPET』ならではの実装・組み立てによる注意点もあるため、部品実装・組み立てによる生産対応も行っている。

 その実装評価として、連続振動、短時間振動、輸送振動、輸送衝撃試験をClass Sで実施して、実装・組み立ての信頼性を高める取り組みも実施している。

 この透明フレキシブル基板『SPET』の採用事例は、アミューズメント機器の照明・イルミネーション、液晶・有機EL周辺ドライバ、車載LEDミラー・テールランプ、ディスプレイ表面(静電センサ)、コンサート・空間イルミネーション、携帯プレイヤ、アンテナ、医療用機器などがある(図4)。最近では、太陽光発電用のベースフィルムとしての引き合いも多い。しかし、あくまで1製品ごとでの採用であり、目指すべき総量としては、まだ満足が得られるレベルには達しておらず、まだ開発商品の域を脱していないのが現状である。

 

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