2.6 気流による渦の発生
図6に気流による渦の発生を示す。

図6 気流による渦の発生
この写真はClass100のクリーンルーム内において、グリーンレーザを用いて塵埃の挙動を可視化する実験の一つとして実施したものである。台上にペットボトルを置き、その上から別のペットボトルに詰めたタバコの煙を真上から落とした様子を、横側からグリーンレーザ光による散乱光を見たときの動画の1コマである。落下したタバコの煙は台上とペットボトル近傍で両側に潜り込み渦を巻いていることが分かる((+)部分)。渦の発生はペットボトル断面方向のR形状でも発生する。このように気流はR形状も含めてコーナー部や急激な拡大縮小形状部において渦を発生させる性質がある。一般的に塵埃は気流に乗って浮遊するため、このように渦巻きが発生すると気流の運動エネルギーはその部分で消費され、失速する傾向を示す。このため気流中の塵埃はこの近傍で落下しやすくなる。つまり(+)部分に塵埃が堆積する。実際の作業室では、壁側や装置の裏側など、気流が衝突し失速や停滞しやすい場所に塵埃が多く堆積することが多い。
図7にスモークテストによるコーナー部の気流の乱れを示す。

図7 スモークテストによるコーナー部の気流の乱れ
右図では実験に用いた40×40×40cm3の立方体の側面を示す。このコーナー部を角から8cmの部分から角度θを変化させ、スモークの流速を変えて気流の乱れ幅Xを計測すると、左図のようになる。θ=0、すなわち平面で直接スモークを当てると、気流の乱れ幅Xは風速0.5m/secで15cm、0.3m/secで12.5cmと広がる。θを変化させると、50°でそれぞれの流速での乱れ幅Xは約6cmと最小となる。このことからコーナー部の面取りは、気流の乱れを抑制する効果があることが理解できる。
現実には塵埃は気流とともに動くので、渦巻きによる乱れや拡散によって気流の失速とともに落下し堆積する。また、本実験結果はクリーンルームを想定した実験であり、実際の装置は一辺が2m程度と想定されるので、気流の乱れ幅は数倍に大きくなると考えられる。さらに、非クリーンルームではさらに風速が大きいので、メートル単位に及ぶ気流の乱れが生じることが予想される。仮に装置のレイアウトや装置の面取りが不適切だと、塵埃を含んだ気流はビル風のように突然変化し渦巻きを発生させることになる。装置のレイアウトはできるだけ気流の乱れを抑制し、スムーズな循環をさせる必要があるので、以下の配慮が必要である。
1. 装置は可能な限り面取り(R面、C面)を行う
2. 掃除しやすいスペースを取り、除塵・清掃が可能な配置とする。特に、装置や設備の後ろ側は作業者が入れるように余裕のスペースをとる
3. 上からの気流は床上に衝突し塵埃を舞い上げるので、気流 の吹き出し口の直下に装置を配置しないこと。止むを得ない場合は装置上部に気流の流れを変える、邪魔板等を設け 気流を逃がす工夫をすること
以上のように、塵埃汚染の制御には当初からのレイアウト設計が必要となる。
2.7 扉の開閉による気圧の変化
扉の開閉時に発生する気圧の変化を図8に示す。

図8 扉開閉時の気流発生
上側が扉を開けたとき、下側が閉めたときの写真である。L字の棒状のものは、熱線気流風速計で発生する気流の測定装置である。この棒の先端部分に細い糸を結び付けており、たなびく方向で気流の向きを、たなびく角度で気流の強さを判定した。この方法をタフト法と称し、現場で気流の流れを簡単に確認できる方法である。これは後方乱気流(wake turbulence)と同じ現象である。気流風速計で測定した結果、ドアを開くと近傍で陰圧となり0.85m/sの気流の発生を確認した。これはドアを外側に開けた時、ドアの内側の空気が扉とともに引きずり込まれたために、陰圧となり近傍の空気が流れ込んだことによる。一方、ドア閉め時にはドアの内側の空気はドアの外側に押し出されて、1.05m/sの陽圧の発生を確認した。陰圧の場合で外側の清浄度が低いと気流が大きく乱れることでたくさんの塵埃が巻き込まれて清浄度が高い方向に流入する。陽圧の場合はドアの外側近傍で気流が大きく乱れ塵埃が巻き上がることになる。このようにドアの開閉で発生する気圧の変化は比較的大きく、気流を大きく撹乱させる原因である。
ドア開閉による気流の乱れを防止するには、開けるときに一旦ドアを軽く開き、のちにゆっくり開けると効果がある。一方、閉めるときも同様に、ゆっくりとした速度で閉めることで抑制できることも確認した。この場合の気流風速は扉開閉時、それぞれ0.15m/s、0.12m/sであった。
一般のクリーンルームに当てはめて考えてみる。通常、出入り口のドアを開閉時には、瞬間的に概ね0.8〜1.3m/secの気流が発生する。このためドアの付近は乱流になり、気流とともに塵埃が巻き込まれる。気流の発生は作業室側から見て内開きよりも外開きの方が気流の発生大きいようである。内側開きの場合は、塵埃を含んだ気流が作業室内に流れ込むために汚染の可能性が高まる。したがって、ドアの開閉は静かに行うことが大切で、一度軽めに開けたのちに、続けてゆっくり開けるのが気流を乱さないコツになる。間違ってもいきなりの開閉は絶対に避けるべきである。
製品容器や梱包箱・袋の開け閉めも同様の理由で気流発生の原因となるので、開閉はゆっくりする行う必要がある。
2.8 作業室内へ侵入する塵埃
作業室内へ侵入する塵埃について、図9に示す。

図9 作業室内へ侵入する飛来・塵埃
工場内に飛来してくる浮遊塵埃の侵入経路は、大きく3つに分けられる。1つは窓や扉を開けておくと気流とともに侵入する経路で、主に土壌・花粉・スス・砂塵などの大気中の浮遊塵埃が流入する。2つ目は通箱・容器・梱包などの表面あるいは内面に付着している塵埃の流入がある。3つ目は作業者の衣服・靴などに付着した塵埃の持ち込みがある。
クリーンルームがあれば流入を防止できると思われがちだが、信頼はできない。まず、1つ目の大気中の浮遊塵埃は確実に阻止できるが、2つ目の通い箱・容器・梱包に付着した塵埃は持ち込む前の拭き取り作業やパスボックスなどで除塵を行ったとしても、完全に除塵できたとは限らない。3つ目はエアシャワーを浴びているからと言って、その除去効果は60%程度である上、靴底や足元の部分の除塵が完全である保証はまったくない。つまりクリーンルームは、外気からの浮遊塵埃の除去にはフィルタを通すことで除塵効果はあるが、それ以外の経路での除塵効果については信頼できる保証がない。現実に通箱・容器はパスボックスを使えば除塵できると安心しているが、静電気によって吸着した塵埃、通箱や容器の外底面には清浄エアが当たらないのであって、除塵効果が期待できない。また、それぞれの箱・容器の内側の底部や側面に対しての除塵はきわめて難しい。
一方で、クリーンルームは作業室内の空気をリターンし再度フィルタ除去に戻す場合、循環回数に応じて清浄性は維持できるが、作業室内で発生した数々の塵埃が理想通りに全部リターンされ作業室が換気できるとは言い切れない。総合的に考えると、塵埃の3つの侵入ルートを阻止するためには、もっと多くの注意を払いながらクリーン化対策を講じる必要がある。非クリーンルーム、つまり一般環境作業室の場合、外気フィルタを設置していないのが普通であるが、仮に中性能などのフィルタが設置されている場合でも、リターンによる再除塵の効果はあまり期待できないのは当然である。しかし2つ目の通箱・容器・梱包を上流側の工程や供給メーカーに遡ってクリーン化対策を見直すことは可能であるし、3つ目の作業者からの持ち込みは無塵服(防塵服)の着用や必要なクリーン化対策を導入することで改善も可能である。広義に言えば、30μm以下の目視で見えない塵埃の流入防止は期待できないので軸足を置かずに、それよりも大きいサイズの目視可能な塵埃の流入に対しては抑制が可能であるので注力する。この場合、窓・扉の隙間の塞ぎ込みや不必要な扉の開閉、通箱や容器、梱包の上流側での徹底清掃、床・装置周りの清掃など、投資しなくても、すぐにでも実施できる項目が多くある。
③終わりに
今回は、塵埃・異物について述べたが、そもそもクリーンルーム内では作業者や装置が動く限り発塵を定常的にゼロにすることは難しい。この意味でクリーンルームを過信してはならない。クリーンルームの清浄度を維持・管理するのに最良の方法は、「作業者が主体的にクリーン化対策に必要な維持・管理を担う」ことであると考える。
本稿で述べた内容はすべて現場での実験データを通してまとめたものである。本当のクリーン化対策を行うときに参考となれば幸甚である。
- 会社名
- クリーンサイエンスジャパン
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