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テクニカルレポート
2024.09.26
次世代電子部品 ~受動部品の役割と進化~
特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
梶田 栄

⑤次世代電子部品

電子部品は今後とも社会生活を維持していく上で必須の部品であることは間違いないが、取り巻く環境が大きな変化をしているために、その変化に対応した部品が開発されなくてはならない。上記4.2に述べた要件はその一部である。従来の技術を掘り下げて行う改善や、まったく異なる理論からイノベーションがなされ、これまでの延長線上にはない新規の電子部品が生まれてくることもある。そのいくつかを紹介する。

 

5-1.シリコンキャパシタ

シリコンキャパシタは、国内では村田製作所やロームから製品が出されている。トレンチ(溝)型と平面のプレーナ型がある。村田製作所の高密度シリコンキャパシタはトレンチ型で、半導体のMOSプロセスを応用して3次元化することで電極面を大幅に増やし、基板単位面積当たりの静電容量を大きくしたものである。この3次元構造を非結晶基板に一体化する技術を保有し、この高度な3Dトポロジーにより、100µmという驚異的な薄さの中に、セラミック層80層分に相当するアクティブな静電容量領域を実現している。特徴は、

(1)温度に対する高い安定性:250°Cまでの環境下

(2)周波数に対する信号安定性:最大220GHzでの用途

(3)電圧に関する安定性:1,200Vでの用途

(4)経年変化に対する安定性:最低寿命10年

(5)極薄:50µmに薄型化

(6)MLCC技術の10倍の信頼性

などがある。

半導体MOSプロセスと同じ工法で作られたシリコンキャパシタは、実証された一貫性のあるデータに基づいた標準モードがあり、それゆえ予測可能で信頼性の高い卓越した性能を提供している。このシリコンキャパシタ技術は、高温硬化時に発生する酸化物により、他のキャパシタ技術に比べ最大11倍の信頼性を実現している。さらに、電気テスト各種をすべて製造工程の最後に行うことで、初期不良の発生を防いでいる(以上、村田製作所ホームページより抜粋)。

 

5-2.薄膜キャパシタ

薄膜キャパシタは、プリント配線板など基板に内蔵するタイプのコンデンサである。TDK及び三井金属から製品が市場へ出ている。MLCCより薄型でフレキシブルタイプのシートタイプコンデンサである。特にLSIパッケージ基板に内蔵可能であり、デカップリング用途として用いられる。厚さは50µm以下。構造は誘電体をニッケル箔で挟んで構成したものに銅電極を重ねてある。高結晶化チタン酸バリウム系誘電体を採用して高誘電率を実現している。作り方はニッケル箔の上にチタン酸バリウム系の誘電体をスパッタリングして薄膜を形成し、その上に銅を薄膜形成することで、シート状のコンデンサができる。(図10)。

図10 薄膜キャパシタ(断面)

 

5-3.導電性高分子コンデンサ

導電性高分子とは電気を通す樹脂類の一つである。この樹脂が導電性をもつメカニズムは半導体と似ている点がある。すなわちシリコンの中に原子レベルでドーピング材を融合させると、きわめて高い導電性を示すようになる。このメカニズムを応用してアルミニウム電解コンデンサの電解液の代りに用いたのが導電性高分子コンデンサである。溶液ではないので蒸発や沸騰する危険性がないことが特徴である。アルミニウム電解コンデンサやタンタル電解コンデンサと同様にアルミ箔にエッチングを施して正極として酸化膜を誘電体としている。したがって極性をもつ。優れた点として低ESR、低インピーダンス、大容量などがある。温度特性も安定している。電源回路の平滑用や電源バックアップ回路などに適している。

 

5-4.スーパーキャパシタ

スーパーキャパシタは、電気二重層キャパシタの原理を利用した二次電池である。二次電池と言ってもキャパシタなので化学変化をともなわず、コンデンサの特徴を生かした電池である。電気二重層キャパシタの原理は図11に示すように、正極と負極の固体電極がありその間に電解液が満たされ、通常のコンデンサに必須である誘電体はない構造である。両電極へ電圧を負荷すると電解液に陽イオンと負イオンが発生し、各々移動する。電極へイオンが付着すると電極界面と電解液界面の間にきわめて薄い膜の層を生じる。このため二重層と呼ばれる。

スーパ—キャパシタは電極にグラフェンを用いており、大きな表面性を持たせることができる。またグラフェンは高い導電性をもつため、出力密度を増大させることができる。現在独立行政法人物質・材料研究機構で開発中であるEV用電源としての開発目標は、航続距離200km、充電時間数分以内、エネルギー密度300Wh/kg、出力密度100kW/kgである。

図11 電気二重層キャパシタの原理図

 

5-5.コニカルインダクタ

東北大学と日本原子力研究開発機構は,量子相対論効果である「スピン軌道相互作用」により,創発インダクタ機能がより普遍的な(空間的に一様な磁気構造をもつ)磁性材料で生じることを理論的に明らかにした。従来インダクタでは,コイルを流れる電流と,その電流によってコイルの周りに生じる「磁場」との間の電磁誘導の法則を介したエネルギー変換が利用される。それに対して,らせん磁性金属で観測された創発インダクタでは,電流と,らせん磁気秩序を形成する「磁気モーメント」との間のエネルギー変換を利用する。ミリ波帯までインダクタとして機能し、高インピーダンスを示す(図12)。

図12 円錐型インダクタ

 

⑥まとめ

電子部品(受動部品)は電極が2つだけで、見かけは単純な構造をしているが、誕生してから環境の変化に合わせて進化を続けてきている(図13)。一般の方々には目にする機会がほとんどないが、目立たないところで地道な研究・開発の努力を続け、今日の状況を築いてきた。縁の下の力持ちである。今後の課題はたくさん残されているが、一番の課題は若いエンジニアの育成である。目立たないだけに、若人にとって魅力となる点が一朝一夕には見出すことができないのが、人材募集に苦労しているところである。本稿を読み、電子部品業界に関心をもっていただけたら、幸いである。

図13 電子部品の進化

 

<参考文献>

1)半導体・デジタル産業戦略 経済産業省 2023年5月

2)改訂 半導体戦略 経済産業省 2023年6月

3)村田製作所ホームページ(シリコンキャパシタ)

4)TDKホームページ(薄膜キャパシタ)