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テクニカルレポート
2024.09.26
次世代電子部品 ~受動部品の役割と進化~
特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
梶田 栄

③電子部品の用途

3-1.パワーデバイス

パワーデバイスとは電力供給用の半導体を指す。半導体は元来、真空管の置換用途として微弱電流を扱っていた。一方、国内では1960年代頃から鉄道の交流電化が始まった。当時鉄道車両は直流電動機であったため、交流を直流へ整流する必要があった。当初整流に使用されたのが水銀整流器であったが、保守点検など課題があり、早期に半導体に置き換えたいという要望があった。

その後トランジスタを高圧対応化したサイリスタが発明され、大電流を入切できるようになった。その結果インバータが発明され、電圧と周波数を自由に制御できるようになり、電動機は小型軽量で効率的な誘導電動機(交流電動機)に置換が可能となった。省電力化に貢献できるため、鉄道だけでなくすべての電動機に応用されてきている。

 

3-1-1.インバータと電子部品

インバータ(inverter)とは、直流または交流の電源から任意の周波数と電圧の交流を発生させる電源回路、またはその回路をもつ装置のことである。制御装置と組み合わせることにより、省エネルギー効果をもたらすことも可能なため、利用分野が拡大している。インバータの基本回路は安定した直流電源を作り、そこから半導体を組み合わせて半導体のスイッチ作用で電流を入切する時間を制御してパルスを作り出し、疑似的な交流を作り出すというものである。

代表的なインバータ回路の例と必要なコンデンサを図7に示す。インバータ回路を構成している主な電子部品には、

(1) スイッチング素子

(2) スイッチング素子を逆起電力から保護するための還流ダイオード

(3) 電流を平滑化するためと、スイッチング時に瞬時に現れるスパイクノイズ(スナバ)を除去するためのコンデンサ

などがある。

図7 インバータ回路の例

 

3-1-2.インバータ回路を構成する主な電子部品とコンデンサ

(1) スイッチング素子

現在多く利用されているスイッチング素子は、「MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)」、あるいは「IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)」と呼ばれる素子(トランジスタ)である。IGBTはMOSFETのスイッチング速度をさらに早くした素子である。シリコン(Si)がベースのトランジスタであるため動作温度は200℃付近が限界となり、大きな課題となっている。大電流が流れるため温度上昇が大きく、現在は物理的に冷却する手段が用いられている。この対策のため、高温に対応できるSiC(シリコンカーバイド)を用いたスイッチング素子が開発されている。

(2) 還流ダイオード

「フリーホイールダイオード」とも呼ばれる。電動機が回転すると逆起電力が発生するが、その逆起電力により素子が破壊されることを防ぐためのダイオードである。高圧電流が流れるため、高圧に対応できるものである。

(3) スナバ用コンデンサ

電子回路で電流を高速で切り替えるトランジスタや、交流電流を一方向の電流に整流するダイオードなどからもノイズが発生する。このノイズを抑制するコンデンサを「スナバコンデンサ」と呼ぶ。

(4) 平滑用コンデンサ

交流電流をダイオードなど整流作用をもつ素子で直流電流に変換すると、脈流という状態の直流電流になる。脈流は直流機器や半導体の電源として使用できないため、きれいな状態の直流電流にしなくてはならない。そのために平滑用コンデンサを挿入するとコンデンサが充放電を瞬時に行い、乱れのない直流電流を得ることができる(図8)。平滑用コンデンサは静電容量が大きなものが要求されるため、アルミ電解コンデンサが通常使用される。またシステムによっては数百ボルトから数千ボルトなど高圧電流が流れるため、耐圧の大きなアルミ電解コンデンサあるいはフィルムコンデンサが使用される。

図8 整流及び脈流電流平滑化の原理

 

3-2. 高周波モジュール

高周波モジュールは、スマホをはじめ無線機の心臓部の機器である。アンテナで微弱な電波を捉えて高周波信号に変換する、また高周波信号を電波に変換して、アンテナを介して空間へ電波として送るために必須の装置である。

この中には多数の電子部品が使用されている。昔はすべてディスクリート部品で構成されていたが、20年ほど前から半導体化が進み、現在では半導体の組み合わせで構成されている。

このときに、半導体と半導体をつなぐところにはカップリング用のコンデンサが使用される。またノイズ除去及び半導体への安定した直流電源供給のために、デカップリング用途として多数のコンデンサが使用される。これらのコンデンサは高周波特性が良いことからMLCCが使用されている。その他高周波モジュールにはインダクタ、抵抗器、水晶発振器などが使用されている。

 

④コンデンサ

4-1.アルミ電解コンデンサの構造と原理

パワーデバイスには欠かせないのがアルミ電解コンデンサである。アルミ電解コンデンサは片面にエッチングで無数の溝が彫られたアルミ箔を電極として、電極間に電解液を含ませた紙でできたセパレータを挟んで、それらをケースに封入した単純な構造のコンデンサである。図9に模式図を示す。

図9 アルミ電解コンデンサの構造と原理

 

見かけ上は上述のような構造であるが、コンデンサとしての重要な要素である静電容量は群を抜いて大きいことで知られている。その理由はエッチングされた表面に薄い(10−9mのオーダー)酸化膜を形成し、それをコンデンサの誘電体としているからである。小さなMLCCでも誘電体の厚さは10−6mのオーダーであり、その薄さのほどが想像できる。加えてエッチングで表面積を大きくできていることも、静電容量を大きくできる要因である。ただし酸化膜が誘電体であるため整流性、極性をもつことが使用上注意しなくてはならない点である。また真の陰極はアルミ箔ではなく、電解液であることも理解する上で注意する必要がある。

 

4-2.アルミ電解コンデンサの課題

アルミ電解コンデンサは真の陰極に電解液を用いているため、ケースの封入部の経年劣化などで電解液が漏れてしまうこと、またコンデンサがもつ永遠の課題である寄生抵抗(ESR)による発熱で、電解液が気化し蒸発してしまうことがある。

特に高圧部に使用されることが多くあるため、発熱に対しては注意が肝要であり、多くのアルミ電解コンデンサには爆発防止のための安全弁が装着されている。

寄生抵抗はアルミ箔の抵抗、電解液の抵抗、電解紙の抵抗で主に構成される。一番大きな抵抗は電解液である。したがって電解液を改良することで、寄生抵抗は改善が可能である。また構造上、小型化に難があり、スマホなどの薄い製品には使用されてないことも課題である。