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テクニカルレポート
2015.10.15
放射能分析の概要とその実際
新基準に対応した食品試料を中心に
日本環境(株)

 

4.食品中の放射性セシウムスクリーニング法

  同法のオリジナルは、平成23年7月29日発表の『牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について』にて発表されたもので、同年11月10日の改正を経て、平成24年3月1日の2回目の改正版『食品中の放射性セシウムスクリーニング法』が発表された。基本的には、NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータを用いる方法で、高純度のNaIに微量のTlを加えた結晶がシンチレータ(放射線を発光に変換する装置)として使用される。直径1~2インチ程度の検出器が多く、検出器の冷却も不要で非常に簡便に測定が可能である。半面、核種弁別ができない(一部できるものもある)ために、他の放射性核種が混在する場合にはコンプトン効果などにより、過大評価となることに注意が必要である。たとえば、放射性カリウム濃度が高い乾燥昆布や干ししいたけ、ほうれんそうなどは、その影響を強く受ける可能性がある。ほとんどの装置では、専門のソフトウエアにより計算された放射線核種の量が簡易な操作で得られる。なお特徴は次の通りである。

 ●簡易法としてではなく、目的に応じたスクリーニング法として適用可能
 ●測定の対象は基準のある食品群の内で『一般食品』のみ
 ●測定下限値は25Bq/kg(基準値の1/4)が確認できる測定器で分析すること
 ●装置も安価であるため分析費用も安く提供可能
 ●乾電池使用によるオンサイト測定が可能

 なお、NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータは、ベクレルモニタなどとも呼ばれ、スクリーニング法であるものの検出部を鉛の遮蔽体で覆っているためバックグラウンドを低減した高感度測定が可能で、主に食品中の放射能分析用として使用されている。核種の分離ができないシングルチャンネルの計数装置(図5)と、核種の分離が可能なマルチチャンネルの計数装置(図6)もある。本法では基本的にCs-134とCs-137の個別定量は行わないが、マルチチャンネルであればK-40の影響を除いて定量することができる。(社)日本アイソトープ協会のウェブサイト10)には、食品中の放射性セシウムスクリーニング法に対応可能な機種の情報として取り扱い業者の一覧が掲載されている。

図5 NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータ(シングルチャンネル波高分析)

図6 NaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータ(マルチチャンネル波高分析)

5.精度管理

  報告値の信頼性をあげるために、精度管理は常に考えねばならない。まず、標準物質については、トレーサブルなものを用意する必要があるが、現在、日本アイソトープ協会から購入することが可能である。また、日常的な内部精度管理としては、主にブランク及び二重測定を行っている。共に一定の割合で実施し、ブランク値が上昇していないこと、また、二重測定のかい離が一定範囲内であることを確認する。特に、高濃度試料を分析する場合は、装置及び試料調製室のコンタミネーションに充分注意が必要である。外部精度管理としては、これまでは国際原子力機関(IAEA)が実施する技能試験しかなかったが、事故後は公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)でも実施を始めた。

6.試験所における実際

  ゲルマニウム半導体検出器をもった分析機関は食品衛生法の登録機関で40社、一般社団法人 日本環境測定分析協会の調べで97社であり、財団法人を含めて少なくとも全国で100機関以上がコマーシャルベースで放射能分析を実施していると考えられる。事故前は検疫所を中心に全国で10機関程度だったと考えると、10倍以上に増加した。一方、食品大手製造業ではすでにゲルマニウム半導体検出器を、中小の食品メーカーでもNaIシンチレーションサーベイメータなどを導入しており、新基準値導入により検査依頼の需要は広がっているものの、それを上回る分析の供給過多の状況にある。

 検査機関は、検疫所や自治体の衛生研究所などの公的機関、検疫所の業務を代行する登録検査機関、その他民間の分析機関に大別できる。政府や自治体などが中心にモニタリングの目的で実施する収去食品の調査については、基準値超過の場合は食品衛生法違反として出荷停止処置などが取られるため、登録検査機関が実施することと食品衛生法(第28条)に定められており、試験機関については厚生労働省のウェブサイトに公表されている。緊急時ということで、事故直後は収去食品についても一般検査と混同され、登録検査機関以外が分析を実施することもあったが、現在はこのような例は是正されている。また、実際の市場ニーズとしては、自治体を含め検出限界として新基準値の更に1/10(一般食品の場合は、10Bq/kg程度、水道水は1Bq/kg)が求められている。特に、学校給食は教育委員会が窓口を担当することが多いが、地域によっては一般食品にも関わらず検出限界として1~5Bq/kg、納期も2~3日間、緊急度などから場合によっては即日報告が求められることがある。

7.当社の特徴

  当社は1974年の創業以来、環境分析を中心に実施してきたが、2008年に食品衛生法の登録検査機関を取得し、主に横浜港に荷揚げされる輸入食品の命令検査や残留農薬などの分析を実施してきた。食品中の放射能検査について、現在ではゲルマニウム半導体検出器の他、本報で紹介したNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータやNaI(Tl)シンチレーションスペクトロメータも導入し、これまで牛肉、米、製茶、たけのこ、きのこ類のほか、圃場や肥料・牛肉の飼料など食品の周辺の試料についても多くの測定を行っている。

 また、当社は神奈川県に本社がある、民間では唯一の登録検査機関であり、自治体からの分析依頼も多い。先般公表された平成22年度の登録検査機関の検査実績では、全国で第15位、民間企業に限ると第3位の検査数がある。さらに精度管理の項にて解説したIAEA及びJABの技能試験にいずれも参加しており、試験所認定の国際規格であるISO/IEC17025の取得に向けての準備も行っているところである。


<参 考 文 献>

1)食安発0315第1号平成24年3月15日、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令別表の二の(一)の(1)の規定に基づき厚生労働大臣が定める放射性物質を定める件及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について
 http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/tuuchi_120316.pdf

2)食品中の放射性物質に係る自主検査への対応に関する通知
  http://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/ryutu/120420.html

3)国土交通省 輸出時の港湾における放射線対策について
 http://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji01_hh_000101.html

4)原発事故にともなう欧州における日本発海上貨物(工業品)への放射線検査について
  http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/manufacturing_inspection.html

5)文部科学省 放射能測定法シリーズ1957~
  http://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/pdf_series_index.html

6)厚生労働省医薬食品局食品安全部長
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf

7)厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課平成14年3月緊急時における食品の放射能測定マニュアル
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

8)食安発0315第4号平成24年3月15日食品中の放射性物質の試験法について
 http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/shikenhou_120316.pdf

9)医薬食品局食品安全部監視安全課平成24年3月1日食品中の放射性セシウムスクリーニング法の一部改正について
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000246ev.html

10)日本アイソトープ協会食品中の放射性セシウムスクリーニング法に対応可能な検査機器取扱事業者の情報について
  http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,17072,110,1,html

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日本環境(株)
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