1. はじめに
東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故から1年が経過した今年4月、厚生労働省は放射性物質を含む食品からの被ばく線量の上限値を『5mSv/年→1mSv/年』へ、1/5の引き下げを実施した。これに伴い、同省は事故後の緊急的な対応ではなく長期的な観点から、表1の通り新たに食品における放射性物質の基準値を設定1)した。
表1 食品中の放射性物質に関する暫定基準値(左)と新基準(右) (単位:Bq/kg)
変更のポイントは、食品群の分類自体の変更と、基準値が大よそ1/5に低くなっている2つの点である。ただし、米・牛肉・大豆については媒体ごとに経過措置を設定している。なお、この基準値を超えると食品衛生法違反として処理される。食品中の放射能に関する自主検査は、科学的に信頼できる分析結果を得るため、また、食品衛生法の基準値に基づいて判断できるように登録検査機関へ依頼するよう農林水産省が業界団体へ通知2)している。
また、事故以来この1年間で放射能汚染は多方面へ広がり、廃棄物に関する基準が8000Bq/kg、肥料・培養土が400Bq/kg、再生砕石の基準が100Bq/kgと決められるなど、食品以外の基準やこれらに対応する分析方法が発表された。
本誌の読者の多くが関わっておられる工業製品については、食品とは異なり、体内に取り込む内部被ばくのリスクがないために、放射性物質の濃度である放射能(ベクレル/kg)そのものを測定するのではなく、放射線量率(シーベルト/h)または表面汚染密度(ベクレル/cm2)の測定結果が、海外で製品を輸入する際に求められることが多い。日本では国土交通省の『輸出時の港湾における放射線対策について』3)において、港湾における輸出コンテナ・船舶のための放射線測定ガイドラインを発表している。これはポータブルのサーベイメータでコンテナや船舶の放射線量率を測定するもので、測定操作については簡便だか輸出する国によって要求される単位や基準値も異なっているので注意が必要である。日本貿易振興機構(JETRO)のウェブサイトでは各国の基準4)が記載されており、それによるとEUでは受け入れの基準が0.2μSv/hとなっている。
現在では、医薬品や化粧品など食品に準じて測定が要求される製品を除いて、工業製品についての放射線分析は終息に向かっていると考えられる。しかしその一方で、食品については、最近でもタケノコやきのこなどで基準値オーバーが頻出しているなどの事態が起きている。たとえこの業界との関わりがなくても、日々の生活に直結する問題であるため、特に関心が高いのではないだろうか。
本稿は、放射能分析方法の概要とその実際を、食品を中心に報告するものである。ご参照いただければ幸いである。
2.放射能分析方法の概要
食品中の放射能分析は、1986年のチェルノブイリ事故による食品汚染のモニタリングを中心に、これまで文部科学省の放射能測定法シリーズ5)に基づき実施されてきた。しかし、福島原発の事故以降は、平成23年3月17日付けの厚生労働省 食安発0317第3号『放射能汚染された食品の取り扱いについて』6)にて、緊急時の食品中の放射能濃度の基準値が発表されると共に、分析方法として『緊急時における食品の放射能測定マニュアル(以下、緊急時マニュアル)』7)を参照することと通知された。上述の通り、平成24年4月1日より新基準値が導入されたことにより、食品中の放射性物質の試験方法もゲルマニウム半導体検出器を使用する『食品中の放射性セシウム検査法(以下、新マニュアル)』8) と、NaI(Tl)スペクトロメータを使用する『食品中の放射性セシウムスクリーニング法(以下、スクリーニング法)』9)に変更された。なお、食品を含めて放射能の代表的な分析方法を表2に示す。
表2 放射能の分析方法一覧
- 会社名
- 日本環境(株)
- 所在地
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