ビジネスコミュニケーションを加速する
BtoB ニュース専門サイト | ビジコムポスト

テクニカルレポート
2025.04.21
半導体洗浄にオゾンはどこまで使えるか? 
〜ケミカル使用量を削減するウエハ洗浄・レジスト剥離〜
Siconnex Japan合同会社 日本市場開拓セールスマネージャー アングリア・ラスキン大学MBA ジェッセルトン大学経営管理学博士課程在籍中
八尋 大輔

①緒言

近年、半導体製造においても他の産業と同様にサステナビリティが課題となっている1)。ドライエッチング装置用チラーの冷媒であるPFASを環境規制によって大手メーカーが生産終了とする2)など、半導体製造には湯水のごとく化学品を使うという常識は過去のものとなりつつある。より環境負荷の低い製造プロセスが注目されている中、脚光を浴びているのがSiconnexのバッチスプレー装置『BATCHSPRAY®』によるオゾンでの洗浄とレジスト剥離プロセスである。

 

②オゾンによる洗浄とレジスト剥離プロセスの概要

オゾンは極めて強い酸化剤として知られており、有機物の酸化分解に力を発揮する。またそれ自体の分解が早い(環境中に共存する物質の条件次第ではあるが概ね大気中であれば1〜2時間程度、水道水中で20〜30分程度が半減期、他に反応する物質が皆無であればいずれも10〜12時間程度3))ため、使用後にほとんど環境負荷なしに排出することができる。そのため、気体としてオゾンを使用し、ドライプロセスでウエハ、LCD、光学部品などの洗浄に用いられるほか、ウェットプロセスでのオゾン利用、即ちオゾン水での洗浄も有機物 ・ パーティクル・金属汚染除去に対して用いられる4)。オゾンを水に溶かすと、水中での分解の過程でオゾンよりもさらに強力な酸化剤(表1参照)であるOHラジカルが生成される。

表1 主な酸化剤と酸化力1)

 

また分解された有機物は水溶性の有機酸となっており、水で除去できるため、温度条件等が同等ならウェットプロセスでオゾンを利用するのが理にかなっていると言える。オゾン水でのレジスト剥離も20年以上前から研究がなされており、オゾンの水への溶解度はそれほど高くないため除去レートには制約があり、またイオン注入のレベルによってはオゾン水だけで除去しきれないものもあることが分かっている。とはいえ、オゾン水である程度でもレジスト剥離できるのであればエネルギー消費・工程合理化の面でのメリットは大きいはずだが、未だ広く普及している方式はない。

その理由は、オゾンの失活が早すぎてプロセス設計が難しいことにある。オゾンの水中での半減期が20〜30分程度と先に述べたが、実用上は分解以上に液相から気相への拡散が早いことが問題となる。オゾンを水に溶解させ、移送し、プロセスに使用する間に濃度が低下してしまい、十分な反応時間を確保するのが難しい。またOHラジカルの寿命はオゾン以上に極端に短く(70ナノ秒と述べている文献あり5))、コントロールはほとんど不可能である。分解拡散が早いという特性は、環境負荷の観点からは好ましいが、他のケミカルと同じ扱い方ができないため、一般的なウェット装置での安定的なプロセス運用という観点からは悩ましいものである。そのため、オゾンアッシングとしてドライプロセスで用いられることもあるが、200℃以上の高温で紫外線を併用する等、専用のプロセス装置が必要で6)、プロセス後には結局洗浄が必要となる。その他、高濃度オゾン水の使用やオゾンガスと水蒸気を混合させるといった様々なプロセスが存在するが、やはり専用の装置が必要である。従来のSPM(硫酸過酸化水素水混合溶液)や有機溶剤と比べると化学品の使用量や廃液コストは下がるものの、プロセスの煩雑さという意味ではデメリットとなり、痛し痒しである。

会社名
Siconnex Japan合同会社 日本市場開拓セールスマネージャー アングリア・ラスキン大学MBA ジェッセルトン大学経営管理学博士課程在籍中
所在地