これまで3年間、本誌に企業紹介を行ってきたが、今後は折に触れ、半導体に関する話題を提供することにしたい。第1回は超有名なインテル社の状況を報告する。
1. インテルの歴史は半導体の歴史
1947年、ベル研究所でトランジスタが発明された。発明者の一人であるショックレーは、サンフランシスコの南にショックレー研究所を設立した。もし、ショックレーがシカゴやテキサスに研究所を設立していたら、世界のエレクトロニクスの中心は、シカゴのシリコンレークか、テキサスのシリコンデザートになっていたであろう。ショックレーは優れた学者だったが、人使いには問題があったらしく、翌年には7名の有力技術者が研究所を飛び出してフェアチャイルド社を設立した。しかし、そこも安定ではなく、多くの技術者が独立してベンチャー企業を興し、現在のシリコンバレーの基礎となった。そのうちの一つがインテルである。
インテルの創業は1968年7月18日で、プレーナーICの発明者であるロバート・ノイス、ムーアの法則(図1)で有名なゴードン・ムーア、第1号の社員として入社したアンドルー・グローブの3名が、その後のインテル発展の指導者となった。翌年には、64ビットのSRAMを、1970年には1キロビットのDRAMを商品化している。当時のコンピュータのメモリには磁気コアが用いられていたが、半導体化により体積で恐らく1/100になり、コストも大幅に下がることになった。
翌年、インテルの将来を決定づける(世界の半導体業界にとっても重要な)話が、日本のビジコンという電卓の会社から提案された。電卓の機種が代わるごとにICを製作するのではなく、ソフトウエアで対応できるICを作りたいとビジコンの嶋正利氏が提案し、インテルはこの案を真剣に検討して、現在のCPU(Central Processing Unit)を開発した。1971年、インテルは世界初の4ビットプロセッサ「4004」を発表した。それは3×4mmのチップに2300個のトランジスタを集積し、10μmプロセスで製造されたものであった。
その後、順調にDRAMとCPUのメーカーとして成長していたが、1980年代になって日本の半導体メーカーがこぞってDRAM市場に参入した情勢を見たインテルの指導者は、1985年、DRAMを捨ててCPUに特化し経営資源を集中する戦略を決めた。世界一を自負していたDRAM関係者にとって、ビジネス中止とは納得いかない決定で社内で大きな議論が巻き起こったと想像するが、この決断がその後のインテル躍進の元になったわけで、あらゆる産業を見ても、これほど素晴らしい決定はないと筆者には思える。これこそ文字通りの「選択と集中」であった。
それ以後のインテルの躍進ぶりはご存知の通りで、1990年代にPC時代になるとだれもが争って“Intel inside”を標榜することになった。ここ数年、スマホに押されてPCがやや陰ってきているが、データセンター用のプロセッサはインテルが圧倒的なシェアをもって、クラウド時代を支えて発展している。さすがのインテルも、スマホ時代の到来を読み違えたといわれている。クァルコムとメディアテックが圧倒的に強くて、インテルの出番がなかったわけである。しかし、今後は自動運転などにも開発を集中させて、新ビジネスの開拓を行っている。また、LSI素子の進歩はムーアの法則に従って続いており、新構造のFinFETもインテルが世界に先駆けて生産開始している。
以上、長々とインテルの歴史を紹介したが、これは半導体の歴史と言い換えてもよい。なお、インテルとはIntelligenceの略ではなく、Integrated Electronicsの略だそうである。
図1 ムーアの法則
2. PCからデータセンターへ
スマホに押されてPCの売り上げに陰りが見え、PC用CPUの売上が多いインテルの業績を心配する声があるが、PC用CPUで培った技術はクラウド時代を迎えてデータセンター用に生かされて需要が大きく伸びており、この分野で圧倒的に強いインテルの業績は相変わらず絶好調である。機械学習向けに導入されているサーバの97%以上にインテルのプロセッサが搭載されている。最近、サムスンの売上がインテルを超えたといわれるが、これはメモリの市場価格が一時的に暴騰しているためであり、市場が落ち着けばインテルが不動のNo.1であることに変わりがないだろう。
3. IoTやAIの分野に対応
インテルはリアルタイムOSのVxWorks製品をもつWind River社を数年前に買収した。同社はネットワーク機器や工業用機器、コネクテッドカー、宇宙航空の分野で実績がある。これにより、インテルはIoTシステムのデータ分析と、見える化ソフトを作るためのツールAXON Predictをもつことができ、IoT向けチップとソフトウエアツールの両方を提供できることになった。AXONとVxWorksで、IoT端末のモニタリングができ、製造業をはじめ、多くの産業界の用途で、生産の安定化やリスク対策に対応している。
人工知能用に多く用いられているXeonシリーズは、ディープラーニング用のStratix 10 FPGAとともに大いに活用されている。
- 会社名
- 厚木エレクトロニクス
- 所在地
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