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テクニカルレポート
2026.10.26
前田真一の最新実装技術 あれこれ塾 
第188回 エレクトロニクスとAIが戦争を変える ①

③戦争エレクトロニクス技術の発展

戦争は、多くの科学技術を発展させる大きな原動力となってきました。

その代表的な例の一つがコンピュータです。第二次世界大戦では、ドイツ軍が使用した暗号機「エニグマ」の暗号解読を引き金に、イギリスなどで大規模な研究が行われました。暗号解読のための計算機の開発は、その後の電子計算機技術の発展を大きく促すことになりました(図4)。

図4 Enigma machine(Wikipedia)

 

特にエレクトロニクス分野では、第二次世界大戦中から戦後にかけて「電子戦」に関連する技術が急速に発展しました。

レーダが実用化され、その性能が向上すると、それに対抗するためのレーダ対策技術が開発されました。一方で、レーダによって目標を探知・追尾し、その情報を利用して誘導する兵器も発達しました。さらに、それらの誘導兵器を妨害したり、撃墜したりする対抗技術も開発されました。

このように、一つの技術が開発されると、それに対抗する技術が開発され、さらにそれに対抗する技術が生まれるという、いわば「いたちごっこ」のような技術競争が続いてきました。

現在の航空機では、レーダから照射された電波をできるだけ反射しないように機体の形状や材料を工夫し、レーダによって発見・捕捉されにくくする「ステルス技術」が採用されています。

一方、航空機やミサイルなどを探知する側も、ステルス技術に対抗するためのさまざまな技術を開発しています。また、航空機やミサイルなどでは、レーダを欺くための囮(おとり)や、チャフ、フレアなどの防御手段も使用されています。チャフは多数の細かな金属片などを散布してレーダ波を反射させ、レーダ上に偽の目標を作り出すものです。フレアは主に赤外線誘導ミサイルに対して使用され、航空機から高温の熱源を放出することでミサイルの誘導を妨害します。

当然、レーダ側もこれらの対抗技術に対応するため、電波の周波数や波形を変化させる技術、複数のセンサを組み合わせる技術などを発展させています。さらに、レーダだけでなく、光学センサや赤外線センサなどを組み合わせることで、相手の妨害を受けにくくする技術も開発されています。

このように、探知する側と、それを妨害・回避する側との間で、各国が「いたちごっこ」のような技術競争を続けています。

さらに現代では、人工衛星も軍事活動において重要な役割を担っています。偵察衛星によって宇宙から地上の部隊や施設を監視し、敵部隊の動向を把握したり、重要人物や指揮・司令施設などを特定したりすることが可能になっています。また、衛星通信や測位システムなども現代の軍事活動に不可欠なインフラとなっています。

さらに、人工衛星や地上の電子機器に対する妨害、いわゆるジャミングなども行われるようになり、戦場は陸・海・空だけでなく、宇宙や電磁波の領域へと広がっています。

このように、電磁波を利用して相手を探知し、通信やレーダなどの電子機器を妨害し、あるいは相手の妨害を回避するための技術と、それらを利用した戦闘・作戦行動を総称して「電子戦(Electronic Warfare:EW)」と呼びます。

電子戦は、単に「レーダを妨害する技術」ではありません。相手の電磁波利用を探知・分析し、自らの電磁波利用を防護し、必要に応じて相手の電子機器や通信・レーダなどを妨害する、現代の戦争における重要な戦闘領域となっています。

 

④ドローンとAIが戦争を変える

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから5年近くが経過しましたが、この戦争で急速に発達した兵器の一つがドローンです。

一方、この戦争を通じて明らかになったのは、戦車や装甲車を中心とした機甲部隊が、従来考えられていたほど自由に行動できなくなったことです。

ロシアは開戦当初、戦車を中心とした圧倒的な軍事力によって、10日程度でウクライナの首都キーウを制圧し、ロシア寄りの政権を樹立して戦争を終結させることを想定していたとされています(図5)。

図5 ロシアは短期で戦争を終結するつもりだった(朝日新聞GLOBE 2023.1.17)※2

 

しかし、ロシアが侵攻に先立って行った衛星通信への妨害や偵察活動などをアメリカなどが把握し、ウクライナ側も侵攻に備えてある程度の準備を進めていたとされています。

その結果、ウクライナ軍は侵攻初期からロシア軍の戦車や装甲車、航空機などに大きな損害を与えました。さまざまな兵器の中でも、特に重要な役割を果たしたのがドローンです。

ドローンは、有人航空機や戦闘ヘリコプターなどと比較すると、非常に安価に製造・運用できるものがあります。そのため、数十万ドルから数百万ドルにもなる高価な戦車などを、比較的安価なドローンによって攻撃するという、従来とは異なる戦い方が可能になりました。

また、欧米各国から供与された戦車についても、戦場で大きな戦果を上げることが必ずしも容易ではないことが明らかになっています。

ウクライナは比較的平坦な地域が多く、従来は大規模な戦車戦に適した地域と考えられていました。しかし、ドローンによる偵察や攻撃、地雷、対戦車ミサイルなどが組み合わされることで、戦車は容易に行動できなくなっています。

これは、戦車や装甲車を中心とした機甲部隊の役割がなくなったということではありません。しかし、ドローンによる上空からの監視と攻撃が常態化したことで、機甲部隊の運用方法そのものが大きく変化していることを示しています。

ドローンの重要性を示す事例として、NATO諸国などが行う軍事演習でも、ドローンを利用した偵察や攻撃を想定した訓練が重視されるようになっています。

特に2026年の演習ではウクライナ軍のドローン部隊がアメリカ機構部隊を撃破したとの報道があり、ドローンの有用性が改めて認識されました(図6)。

図6 ロシアは短期で戦争を終結するつもりだった(朝日新聞GLOBE 2023.1.17 )

 

ドローン兵器の評価が高まるにつれて、ウクライナだけでなく初期の進行でウクライナのドローンに手酷い被害を受けた(図7)ロシアも敗北の教訓から急速にドローンの開発・生産・実戦投入を進めています。

図7 ウクライナ戦争でのAIドローン兵器 福山 隆 JBpress

 

さらに、ドローンによる敵の位置や状況の把握は、先に述べた精密誘導砲弾や誘導弾を運用するうえでも重要な役割を果たしています。ドローンが目標を発見し、その位置情報を攻撃側に伝えることで、遠距離から精密な攻撃を行うことが可能になるためです。

そして、このドローンとAIを統合することは、自然な技術発展の方向といえます。

従来の長距離攻撃ドローンでは、操縦者がドローンから送られてくる映像を見ながら無線で操縦し、目標を追尾する必要がありました。しかし、無線通信をジャミングによって妨害されると、操縦者からドローンを制御できなくなる可能性があります。

ドローン兵器の普及と進歩に伴って、ドローンを探知・妨害・撃墜するための対ドローン技術も急速に発達しています。つまり、ドローンを使用する側と、それを無力化しようとする側との間でも、新たないたちごっこが始まっています。

このようなドローンの弱点を補うため、ドローンにAIを搭載し、発射後は通信による常時操縦に頼ることなく、AIによって目標を探知・識別・追尾する自律型システムの開発も進められています。

こうしたAI搭載ドローンは、通信が妨害された環境でも一定の自律性を維持できる可能性があります。そのため、将来の戦争では、単に「人間が遠隔操縦するドローン」から、「AIによって自律的に行動するドローン」へと発展していく可能性があります。

すでにロシアとウクライナでは、AIや画像認識技術などを利用したドローンの開発・実戦投入が進められており、両国の間でドローン技術をめぐる競争が激しくなっています。

さらに、アメリカやイスラエルなどでも、AIを利用した無人システムや自律型兵器の研究・開発が進められています。今後、AIとドローンを組み合わせた兵器が戦場でどのような役割を果たすようになるのかは、現代の戦争を考えるうえで重要なテーマとなっています(図8)。

図8 イラン戦争でのAIドローン兵器(朝日新聞)

 

<参考文献>

※1「MEGATECH: Technology in 2050」

  英「エコノミスト」編集部 2012年刊、

  「2050年の技術」 2012年刊、

  土方 奈美 訳、文芸春秋社、2017年刊

 

■マエダ シンイチ

KEI Systems。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手がける。

会社名
Gichoビジネスコミュニケーションズ株式会社
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