①エレクトロニクスとAIが戦争を変える
2012年2月9日にイギリスで発刊された『MEGATECH: Technology in 2050』(『2050年の技術』)※1には、次のような章があります。
*「曲がる弾丸と戦争の未来」
ベンジャミン・サザーランド(フリーランス・ジャーナリスト)そこでは、2050年の戦争について、次のような予測が示されています。
●フィン付きの弾薬によって、長距離射撃だけでなく、物陰に隠れた標的にも命中させられるようになる。
●ドローン、軽航空機、衛星などによる偵察能力やミサイルの誘導能力が高まるにつれて、非正規軍が山間部などに潜伏することが難しくなり、都市部へと活動の場を移すようになる。
●陸・海・空の各領域において、人間に代わって次第にロボットが使用されるようになる。
●ロボット技術とロケット技術が融合することで、より「正確で、スマートで、ステルス性の高い」ミサイルが開発される。
●こうした安価な「非対称兵器」であるミサイルによって、アメリカの空母が無力化される可能性がある。
●網膜への直接表示などの視覚化テクノロジーによって、兵士は周囲の状況から目を離すことなく、作戦に必要な情報や、即席爆発装置(IED)が仕掛けられている場所などを確認できるようになる。
●衛星によって詳細な地上の戦術情報を取得し、さらに衛星から直接攻撃を行うようになる。また、それを阻止するための攻撃衛星や、衛星を守るための衛星も登場し、衛星同士が戦う「宇宙戦争」が起こるようになる。
②曲がる弾丸
実は、「曲がる弾丸」と呼ばれる技術はすでに実用化されています。代表的なものが、アメリカ陸軍が運用する155mm精密誘導砲弾「Excalibur(エクスカリバー)」です(図1)。

図1 M982エクスカリバー (Wikipedia)
1992年から開発が始まり2007年から実戦投入されています。GPSと慣性航法システム(INS)を利用して飛翔経路を制御します。米陸軍の資料によれば、最大射程は39.2km、CEP(Circular Error Probable:半数必中界)は10mとされています。また、GPSが妨害される環境への対策として、耐妨害性を向上させた型も開発されています。
CEPが10mということは、すべての砲弾が目標から10m以内に命中するという意味ではありません。多数の砲弾を発射した場合、その半数が目標を中心とする半径10mの円内に着弾することを意味します。
このような精密誘導能力によって、通常の砲弾では多数の弾を発射して着弾地点を修正しながら攻撃する必要がある場合でも、少ない弾数で目標を攻撃できる可能性があります。また、GPSなどによって目標位置を正確に指定することで、従来の砲撃よりも高い精度で遠距離の目標を攻撃できます。
一方、Excaliburには大きな問題があります。それが価格です。
米陸軍の予算資料を見ると、M982A1 Excaliburの調達単価は年度によって大きく異なります。2025年度予算では167発に対して約6,011万ドルが計上されており、単純計算で約36万ドル/発となります。また、2026年度予算では69発に対して約2,900万ドルが計上されており、約42万ドル/発に相当します。ただし、これらは米軍の予算資料における「Gross/Weapon System Unit Cost」であり、単純な砲弾そのものの製造価格とは区別する必要があります。
この価格は、一般的な155mm砲弾と比較すると非常に高価です。そのため、精密誘導砲弾は、すべての砲撃に使用するのではなく、重要な目標や、通常の砲弾では攻撃が困難な目標などに限定して使用することになります。
このことから、将来の戦争では「高性能な兵器を少数使用する」ことと、「比較的安価な兵器を大量に使用する」ことのどちらを選択するのかが、大きな問題になると考えられます(表1)。

表1 通常弾と誘導弾の比較
一方、本文※1にもあった「物陰に隠れた標的にも命中させられるようになるライフル弾」については、米国で「EXACTO(Extreme Accuracy Tasked Ordnance)」という、飛翔中に軌道を修正する小口径誘導弾の研究・開発が行われました(図2)。

図2 誘導ライフル弾 EXACTO(DARPA)
EXACTOは、狙撃用ライフルから発射した弾丸を、飛翔中にリアルタイムで誘導するシステムです。DARPAによれば、.50口径の弾丸と光学式照準システムを組み合わせ、風や目標の移動などによる弾道のずれを補正することを目指していました。2014年には、照準点から外れた位置にある目標へ弾道を修正して命中させる実射試験に成功し、2015年には移動する目標に対する実射試験も行われています。EXACTOプログラムは2015年に終了しました。
このような誘導弾には、高い命中精度が期待できる一方で、通常の弾薬に比べて弾丸そのものだけでなく、誘導・照準システムも必要となるため、システム全体としてのコストが高くなるという問題があります。
そのため、一般の歩兵戦闘で大量に使用するというよりも、通常の弾薬では命中させることが難しい重要目標に対して、限定的に使用する方が合理的と考えられます。つまり、「命中精度を高めれば高めるほど、弾薬やシステムのコストも増加する」というジレンマがあります。
戦争はある意味消耗戦で非常に多くの武器、弾薬を消費します。高性能な武器だからといって少数では効果が出ません。ある程度まとまった量で敵を制圧する必要がります。武器弾薬が不足すれば、戦争遂行能力は著しく低下してしまいます(図3)。

図3 アメリカ軍は兵器を使い尽くした
また、物陰などに隠れて直接見ることのできない目標を攻撃するためには、射手自身が目標を確認するだけでは不十分です。ドローンなどの無人機や、射手とは離れた位置にいる観測者などによって目標を発見し、その位置を正確に把握・伝達する必要があります。
この意味では、「曲がる弾丸」そのものの技術だけでなく、目標を発見するセンサー、位置を伝達する通信システム、そして弾丸を誘導する技術を一体化したシステムとして考える必要があります。
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