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テクニカルレポート
2025.05.26
プリント配線板の進展と精密<縦型現像機>
特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
斎藤 公彦

④iPhoneXとMSAP60μピッチの出現

(1)iPhoneX

2017年に発売されたiPhoneXには、有機ELが採用され電池を大きくする必要があり、iPhone8と比べて30%プリント配線板の投影面積を減らす必要があった。そのためにプリント配線板を2階建てにし、上下にプリント配線板を配して実装面積を稼ぐ構造になった(写真2)。さらに配線の面積を縮小するために配線ピッチを60μピッチ(L/S  30/30μ)にする必要がありMSAP工法が採用された。

写真2 iPhoneXの裏面と2階建て基板

 

MSAPはiPhoneXに採用されるまでは主としてCSPのパッケージやメモリー基板に採用されていた。MSAPをスマートフォンのメイン基板に使用したのはiPhoneXが初めてであり、その後、他社も同様の2階建て構造とMSAPを採用し、この方式がスマートフォン配線板のデファクトスタンダードとなった。

iPhoneXの2階建て構造のプリント配線板はスペーサーにより接続され、その空間には多数の部品が搭載されている(写真3)。2枚の基板のひとつはロジック基板でアプリケーションプロセッサを搭載したメイン基板で、他は通信ICなどを搭載したRF基板となっている。ロジック基板は10層でRF基板は8層、各基板の表層から2・3番目がMSAP基板の60μピッチになっている1)、 2) 、3)、4)

写真3 iPhoneXの2階建て構造の断面(上下方向を2倍に拡大)

 

写真4にiPhone14Pro Maxのロジック基板の断面写真を示す5)。メイン基板は10層で、各上下から2 ・ 3層目がMSAPで、断面の形状からMSAP方式であることが解る。MSAP部の銅厚は15μで、他の配線より銅厚が薄い。iPhone14 Pro Maxが発売されたのは2022年で、MSAP部は60μピッチで配線がやや細くなっている、5年前に発売されたiPhoneXと配線ピッチは同じである。

写真4 iPhone14の10層基板の断面

 

(2)MSAP工法と<縦型現像機>の必要性

プリント配線板の現像機は、通常ローラ送りの水平タイプが使用されている(写真5)。

写真5 ローラタイプ水平型現像機

 

図4にDFR現像後のサブトラクティブとMSAPの断面を示す。図で判るように、MSAPの60μピッチのDFRは縦に長く下地との密着面積が小さい。ローラ搬送タイプの水平現像機をMSAPに使用すると、ローラがDFRに接触しDFを傷つけて歩留まりを低下させてしまう。そこで、MSAP用の現像機として無接触でDFRを傷つけない<縦型現像機>が登場した。

図4 DFR現像後の断面比較

 

<縦型現像機>は、先ず基板をロボットでフレーム(枠)に取り付け、フレームをマシーンに垂直に取り付け無接触で現像・水洗・乾燥工程を搬送させる。基板からの取り外しもロボットを使用する(図5)。

図5 <縦型現像機>