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テクニカルレポート
2024.05.21
プリント配線板の将来性
特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
梶田 栄

⑤部品内蔵基板

部品内蔵基板(device embedded substrate)は、部品が直接基板に内蔵された形態の基板である。2006年4月に(一社)エレクトロニクス実装学会(JIEP)にEPADs(Embedded Passive and Active Devices)研究会が設立され、産学共同で部品内蔵基板の設計・製造などについて議論する場ができたことが発端である。

部品内蔵基板は通常のPWBとは異なり、部品が表面実装されるのではなくPWBの内部に部品が埋め込まれるため、部品が外部から見えないようになっているのが特徴である。この技術は、PWBの高密度化や小型化を実現するための最新技術の一つである。部品内蔵基板の主な特徴について以下に述べる。

 

(1) 高密度化と小型化

部品が基板の内部に埋め込まれるため、基板上にスペースを確保する必要がなくなる。これにより、PWBの設計空間が最大限に活用され、より多くの部品を同じサイズのPWBに配置することが可能となる。

 

(2) 外部干渉の軽減

部品が基板の内部に埋め込まれるため、外部からの電磁干渉や信号の干渉を軽減することが可能となる。また、配線の長さが短くなるため、信号の伝送劣化や遅延を抑制することができる。

 

(3) 信頼性の向上

  部品が基板の内部に埋め込まれるため、外部からの物理的なダメージや環境変化から部品を保護することができる。これにより、部品内蔵基板の信頼性が向上し、長期間の安定した動作が期待できる。

 

(4) 設計の自由度の向上

部品が基板の内部に埋め込まれるため、基板の表面に部品が露出しないための設計上の制約が緩和される。これにより、より自由度の高い設計が可能になる。

 

(5) 課題と制約

部品内蔵基板にはいくつかの課題や制約が存在する。部品の交換や修理が困難になることや、部品内蔵基板の製造コストが増加する可能性がある。また、部品の実装密度が高い場合、基板の熱設計や冷却の問題が発生することもある。

 

以上のように部品内蔵基板は、特に高密度化や小型化が求められる電子機器の設計において有用な技術であるが、設計上の検討や製造プロセスの選択には慎重さが必要となる。

 

⑥PWBの材料の動向

PWBの材料の動向は、技術の進歩や市場のニーズに応じて常に変化している。以下にPWB材料の動向に関するいくつかの重要なポイントを挙げる。

 

(1) 高周波用材料の需要増加

  高速データ伝送や高周波アプリケーションの普及にともない、高周波用の特性をもつ材料への需要が増加している。これらの材料は、低誘電率、低静電正接(タンジェントδ)などの特性をもち、高周波信号の伝送損失を最小にして信号伝達性能を最適化するために選択される。

低誘電率や低静電正接の特性をもつPWB材料は、高周波信号や高速データ伝送などのアプリケーションにおいて重要である。次に代表的な低誘電率材料と低静電正接材料の例を挙げる。

ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系材料は、非常に低い誘電率と低静電正接をもつことで知られている。主に商標名で知られるテフロン(Teflon)がその代表例である。これらの材料は高周波やマイクロ波対応機器に使用され、優れた信号伝送性能を提供している。

FR-4 HTG(高耐熱ガラスエポキシ)は、一般的なFR-4基板よりも高温に耐えることができるガラスエポキシ基板である。低誘電率と低静電正接の特性をもちつつ、高温下での信頼性を確保している。高周波アプリケーションや高密度PWBに広く使用されている。

ポリイミド(PI)は、高温耐性、耐薬品性、柔軟性などの特性をもつ高性能なポリマー材料である。低誘電率と低静電正接の特性をもつタイプのポリイミドは、高周波アプリケーションや高温環境下での使用に適している。

 

(2) 高温耐性材料の需要増加

  高温での動作やはんだ付けプロセス耐性を持たせるため、高温耐性の基板材料への需要が増加している。これには、高温ガラスエポキシ(FR-4 HTG)、ポリイミド(PI)、セラミック基板などが含まれる。

 

(3) 柔軟性と軽量化への関心

移動体通信機器やウェアラブルデバイスなどの市場の成長にともない、柔軟性と軽量化を重視したPWB材料への需要が増加している。フレキシブル基板などの柔軟性をもつ材料が注目されている。

 

(4) 環境規制への対応

材料の選定においては、環境規制や持続可能性への対応も重要な要素となる。RoHS指令やREACH規制などに準拠し、環境負荷の低減や廃棄物の削減を考慮した材料が求められる。

 

(5) 新しい材料の開発

  新しい材料の開発も進行中であり、高性能、高信頼性、低コストなどの要求に応えるために、新たな材料や製造プロセスが研究されている。たとえば、有機EL(OLED)や柔軟なエレクトロニクスなどの新しい技術に対応するための材料が開発されている。

 

総合的に見て、PWB材料の動向は高性能化、高周波化、高温耐性化、柔軟性の向上、環境規制への対応などの方向に向かっている。これらの動向は、電子機器の性能や信頼性を向上させるために重要な役割を果たしている。

 

⑦まとめ

上記「2.期待される市場」でも述べたが、PWBは電子機器にとって必須の部品である。これからも環境問題やエネルギー問題など全体としてのQOL(Quality of Life)向上に向けての課題は山積みである。それらを解決するのはエレクトロニクス技術をもってする以外には考えられない。対策を具現化するためには、半導体をはじめ電子部品が必須となり、それらを取りまとめる中心になるのがPWBである。したがい今後もPWBは大いに活躍が期待されている。そのような将来性のある市場で、国内のメーカーがビジネスで勝つためには、以下のような方法が考えられる。

 

(1) 技術革新と研究開発への投資

国内の企業や研究機関は、PWBの技術革新や新しい材料・製造プロセスの開発に積極的に投資することが重要と考える。高密度化、高周波対応、軽量化など、市場の需要に応えるための革新的な技術や製品の開発が求められる。

 

(2) 高品質と高信頼性の確保

国内のPWBメーカーは、高品質で信頼性の高い製品を提供することで競争力を維持することが重要と考える。品質管理システムの強化や信頼性テストの実施、製品の持続的な品質向上に取り組むことが必要となる。

 

(3) 顧客ニーズへの柔軟な対応

顧客のニーズや要求は多様化しており、それに応えるために柔軟性をもったサービスや製品提供が求められる。顧客との緊密なコラボレーションやカスタマイズされたソリューションの提供により、顧客満足度を高めることが重要と考える。

 

(4) グローバル市場への積極的な展開

国内のPWBメーカーは、国内市場が激減しているためグローバル市場への積極的な展開が必要となる。海外市場における需要の拡大や競合他社との競争に対応するため、海外進出や販売網の拡大など戦略立案が必須となる。特に現在は円安が海外進出にとって追い風になっている。

 

(5) 産業連携とイノベーションエコシステムの構築

国内のPWBメーカーは、他の産業との連携やイノベーションエコシステムの構築に積極的に取り組むことで、新たなビジネスチャンスを創出する可能性が出てくる。

これらの方法を組み合わせることで、日本のPWBビジネスが競争力を維持し、成長市場でのリーダーシップを確立することを期待している。

 

<参考文献>

1)高木清、大久保利一、山内仁

“トコトンやさしいプリント配線板の本”、日刊工業新聞社(2012)

2)高木清、大久保利一、山内仁他

“トコトンやさしい半導体パッケージとプリント配線板の材料の本”、 日刊工業新聞社(2023)

3)友景 肇

第28回 エレクトロニクス実装学会春季講演大会講演資料、5B-11

4)梶田 栄 監修

“先端デバイスマテリアルトレンドレポート3”、AndTech(2024)

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特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
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