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テクニカルレポート
2021.05.14
デジタル式音響コム型アコースティック・エミッション(AE)センサの開発とそのインフラへの適用について
第2回 AEおよび音とはなにか、AE計測の概要について
(株)武藤技術研究所

 

3. AE計測の概要

 

 AE計測の概要を知る上で、図8に示すように、物体内部の超音波計測と対比するとわかりやすいので、以下について見てみる。

 

1.物体内部の超音波計測

 

 超音波計測は図8の左図に示すように、一般に送信部と受信部を持つ超音波探傷センサ(トランスジューサ(※10)、プローブ、探触子)で材料中にある静的状態のクラック(キズ、巣、空洞)などに対して超音波を送信させ、そのクラックなどに反射あるいは通過した超音波(エコー)を受信する能動的(active)計測方式である。

 送信波はパルス発生器からRFなるパルス波が送信され、図8に示したように材料中のキズ、および底部からのエコーが受信派としてモニタ(表示器)に表示される。

 材料中の欠陥(キズ、クラック)検出することを超音波探傷試験といい、日本工業規格JIS3060などで規定されている。

 超音波探傷試験UTは第1回の図2で見たように欠陥の検出における発生後の試験方法である。

 その試験の種類には、(1)パルス反射法、(2)透過法、(3)共振法があり、(1)のパルス反射法には波の種類により、①垂直探傷法(図8の左図、図9)、②斜角探傷法、③表面波探傷法、④板波探傷法の4つの反射法ある。

 さて、図9に示すようにその送信と受信の時間からキズ(クラック)の位置を、得られたエコー高さをモニタに表示し、モニタ上の波形からキズの大きさや位置を推定する。

 超音波探傷センサの送受信周波数は測定しようとするキズの大きさで異なり、小さいキズになればなるほど周波数は高くなるが、一般的には20[kHz]~数十[MHz]付近であることが多い。

 0.1[mm]位のキズの探傷測定が限界である。

 超音波探傷の身近なところでは妊産婦の胎児の状態や胆嚢・腎臓・尿道などの結石をチェックするエコー検査はその代表例である。

 その他、自動車等の塗装の膜厚などの測定にも使われる。


 (※10)トランスジューサ(transducer)は、測定量に対して処理しやすい出力信号を与える変換器と定義される。一方、センサ(sensor)とは本来、物理量(あるいは化学量)を検出するもので、JIS Z8103では対象の状態に関する測定量を信号に変換する系の最初の要素とされている。しかし、現在ではトランスジューサもセンサとして取り扱われており、センサの解釈が広くなっている。
 

(※11) RFとは、(radio frequency)の略で、ラジオ波のことで、高周波ともいう。周波数30~300MHz(波長100km~1m)の電磁波である高周波のことである。

 

図8 物体内部の超音波探傷試験と音響試験 1)

 

図9 超音波探傷計測の概要 1)

 


2.物体内部のAE計測

 

 これに対し、AE計測は、物体の内部(材料中)に外力が負荷されている動的状態で、材料中のクラックが塑性変形あるいは破壊するときに発生する超音波(これをAE源という)が固体中を伝播する弾性波、即ちAE信号をAEセンサで受信する受動的(passive)計測方式である。

 AE計測の試験は第1回の図2に示したように欠陥の検出における発生中の音響試験AETである。

 この規格に関しては、日本工業規格JIS Z2342があり、ここでは2003圧力容器の耐圧試験などにおけるAE試験方法及び試験結果の等級分類方法が規定されている。

 AE計測は図10に示すようにクラックの進展をリアルタイム(実時間)で計測できるオンライン・モニタリングが可能でてる点が特徴である。

 そのため、あらゆる分野の構造物などのトライボロジー現象を連続的に監視でき、地震、軸受などで異常が発生するようなヘルス・モニタリング計測が可能で、人間の暮らしの安全、安心、そして事故の未然防止に役立てられる。

 しかしながら、AE計測は測定対象の材料や構造物に外力が負荷される動的状態で行われるため、計測中に外乱やノイズ(雑音)が多いため、計測上これらの問題をしっかりと対策する必要がある。

 つまり、超音波探傷と異なり、材料や構造物中に発生したAE波は比較的長い距離を伝播するため減衰し、微弱になる。

 このようにノイズの多い環境の中から微弱なAE信号を計測するために、SN比が小さくなるので、図10に示すようにAE計測では信号をアンプ(増幅器)によって増幅し、さらに不要なノイズや雑音を除去するために種々のフィルタ、それらの信号処理装置が必要となる。

 超音波領域では微小な割れ(クラック)等に伴うAEを検出することが可能であるため、破壊に至る前の予知が可能となるわけである。

 

図10 AE計測の概要 1)

 

<引用文献>

1)武藤一夫、「図解わかる機械計測」、共立出版、2016

2)武藤一夫、「高度モニタリングへのAE技術の進化~その基礎からデジタルセンサ開発まで(上)- AE 技術の基礎からセンサ/素子の動向と課題-」(有)工業技術社、計装、 Vol.59 No.7、pp.53-58(2016)

3)武藤一夫、「高度モニタリングへのAE技術の進化~その基礎からデジタルセンサ開発まで(下)- LN を用いた音響コム型デジタル式AE センサの開発-」(有)工業技術社、計装、 Vol.59 No.9、pp.57-61(2016)

 

 

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