5. 固体撮像デバイスの超高感度化
イメージセンサの感度を大幅に向上させる技術として、入射した光によって発生した電子を加速して光電膜内の原子に衝突させて雪崩のように多量の電子を発生させるアバランシェ増倍現象を利用する技術がある。
電子加速に必要な電界を膜内に形成させるため、膜厚方向に電圧を印加して(図7(a))、10倍程度の電荷増倍率が可能である。
図7 増倍膜積層型撮像デバイスの構造
膜内の電界をさらに強めるためには増倍膜の厚みを薄くする必要があるが、従来構造では印加できる電圧には制限があり、膜厚が薄くなるほど光の吸収が低下し、光の利用効率低下を招く。
そこで、膜の厚さに依存することなく内部の電界を強めることができる新しいデバイス構造の検討に着手した(図7(b))。
本構造では、電圧を印加する電極(陽極)を、画素電極(陰極)と同一面上に形成することで、膜内の横方向に強い電界を得ることができる。
これにより光電変換膜の厚みを保持したまま、光の吸収特性を低下させることなく、高い電荷増倍率を得ることが期待できる。
これまでに、電荷増倍率を100倍程度得るために必要な膜内の電界強度を予備実験の結果を基に推定するとともに、所望の電界強度を得るための電極構造を、電界解析を用いたシミュレーションにより検討した。
図8に解析により得られた有効な電極構造を示す。
図8 解析に用いた電極構造
ひとつの陰極-陽極対の大きさは非常に小さくなると想定されるため、1画素は複数の陰極-陽極対で構成し、陰極を囲うようにサブミクロン(0.1μm以下)の微細な間隔をあけて陽極を配置したものを多数並べた。
この電極構造で電極サイズを最適化することにより、およそ100倍の増倍率を得るための強電界(108V/m)を陰極の近傍に均一に形成できることが分かった。
高感度化には、光に感度の良い材料の検討も必要である。
図9 セレンとシリコンの光吸収係数
図9のように、結晶セレンはシリコンより可視光の吸収特性が優れている。
ただ、セレンは暗電流が多いので、この解決に向けた研究に取り組んでいる。
セレンは、真空蒸着で得たアモルファス膜を加熱(約200℃)して結晶化している。
この際、テルルを450℃以上に加熱して真空蒸着した薄膜(1nm以下)の上で結晶化させるとセレンの結晶の配向性が改善され、暗電流を1/100に減少させることができた。
6. RGB積層型撮像デバイス
イメージセンサの信号から色信号を得るには、図10左のように入射光をプリズムで赤(R)、緑(G)、青(B)に分解してそれぞれを3個のイメージセンサで読み出す3板式と、図10右のようにイメージセンサの前にRGBの色フィルタを貼り付けるべイヤー式といわれる方法が一般的である。
図10 現在用いられているカラー撮像方式
3板式の場合は、性能面では優れているが、プリズムが必要で、多画素化でチップサイズが大きくなると全体の体積が増えるためカメラが大型になってしまう。
いっぽう、べイヤー式の色フィルタの場合、Rのフィルタを通った光はGとBの光を捨てており、G、Bも同様に他の2色を遮断しているので、感度を1/3に落としている。
そのような問題を解決するため、小型・軽量で機動性に優れた単板カラーカメラの実現に向けて、RGB積層型撮像デバイスの研究を進めている(図11)。
図11 RGBに感度を有する有機膜積層撮像デバイス
本デバイスは、RGBのそれぞれに感度を持つ有機光電変換膜(有機膜)と、各有機膜で発生した信号を読み出す薄膜トランジスター(TFT)アレイとを交互に積層したものである。
第1層のB感光膜は、Bに感度をもち、GとRは透過する。
G感光膜はGに感度がありRを透過する。
GとRを透過するには、Bの補色のイエロー(黄色)の膜となり、Gの補色はマゼンタ(赤紫)、Rの補色はシアン(水色)の有機膜が用いられる。
RGBの有機膜の光の吸収/透過率は、図12のようにほぼ理想的なカーブが得られている。
図12 有機感光膜のRGB光に対する透過/吸収特性
7. 透明薄膜トランジスタの開発
各有機膜で発生した信号を読み出す透明な薄膜トランジスタ(TFT)アレイを開発した。
入射光がR感光膜まで届くためには、TFTは透明でなければならない。
IGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛複合酸化物)は、この目的に合致した半導体である。
IGZOのTFTの微細化を進めるためには、保護層が不要で、従来のエッチストップ構造よりもチャネル長を短くできるバックチャネルエッチ構造(図13(b))を採用した。
図13 (a)エッチストップ構造TFTと(b)バックチャネルエッチ構造TFT
本構造では、半導体上に直接ソース/ドレイン電極を加工する必要があるため、電極形成プロセスに耐性のある半導体材料としてインジウム・スズ・亜鉛複合酸化物(ITZO)を選択した。
これらの製作手法や材料を導入することにより、チャネル長を従来の6μmから2μmに短縮し、撮像デバイス用の信号読み出しTFTとして十分なON-OFF比が得られた。
TFTアレイの画素ピッチも、従来の50μmから20μmに微細化することができ(図14)、128×96画素のB用有機膜撮像デバイスを試作した。
TFTのさらなる微細化は可能と思われるので、将来は8K用の高解像度の撮像素子も可能であろう。
図14 試作したTFTアレイの顕微鏡写真
8. まとめ
現在、放送されている②Kの映像は美しく、まったく問題がないように見えるが、より美しく、そしてより臨場感溢れる高精細映像の4K、そしてさらに超高精細映像の8Kには大きな期待がかかる。
今後8Kなどの多画素化に対応した小面積画素、1/数百秒よりさらに高速のフレームレートなどが要求されると、入射光がどんどん減少するため、高感度化が要求される。
さらにグローバルシャッタや、暗い部分と明るい部分を同時に撮影できる広ダイナミックレンジ化など、研究テーマは多い。
NHK技研が、これらの開発の先頭に立って活躍されることを期待したい。
なお、掲載したほとんどの図は、NHK技研様から提供していただいた。
<参考出展>
https://www.nhk.or.jp/strl/
- 会社名
- 厚木エレクトロニクス
- 所在地
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