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テクニカルレポート
2020.03.06
シリーズ:さまざまな研究所を巡る(第14回)
NHK放送技術研究所(その2)

 

 

1. はじめに

 

 有機ELテレビは、液晶テレビに一部置き換わって一般家庭へも普及しつつある。 

 NHK放送技術研究所(以下、NHK技研と略す)でも、有機ELディスプレイについて、多くの面白い研究が行われている。

 今月は有機EL特集として、その基礎を勉強するとともにNHK技研の研究成果を紹介する。

 

 

 

2. 電子部品の固体化の歴史

 

 電子回路に用いられる部品は、固体化の歴史といっても過言ではない。

 古くは真空管がトランジスタやICになり、白熱電球や蛍光灯はLEDに置き換わり、コンデンサも電解コンデンサがセラミックになりつつあり、電池も、鉛蓄電池やリチウムイオン電池が数年後には固体電池になると思われる。

 今や、真空や液体を用いる部品はほとんどなくなっている

 ディスプレイも例外でなく、長くブラウン管が使われてきたが、21世紀になって半固体というべき液晶が主流となり、この先は固体の有機ELが主流になる可能性がある。

 このような情勢に対して、NHK技研では有機ELの研究に注力しておられる。

 

 

 

3. 有機ELディスプレイの基礎

 

1.有機ELの発光原理

 

 NHK技研の紹介の前に、読者の皆様は重々ご存知と思われるが、有機ELについての説明をしておきたい。
 有機物は一般に絶縁物と考えられていたが、ベンゼン環などの二重結合をもつ有機物ではπ電子(パイ電子)による導電性が白川英樹博士などによって発見され、ノーベル賞の受賞になった。

 その後、有機物でも半導体ができることが判明し、簡易的な塗布型で半導体回路を作製する検討が行われている。
 一方、固体半導体のPN接合で電子と正孔を再結合させると発光が起こり、レ-ザやLEDとして実用化されている。

 有機物半導体のPN接合でも、電子と正孔を再結合させれば発光することが見いだされ、ディスプレイ素子として利用するための性能の改善が世界中の研究所で行われ、輝度など改善が進み実用化された。
 有機ELの構造は、図1左のように上下の電極に直流電圧をかけ、発光層に電子と正孔を注入して再結合する際に発光する。

 

図1 有機EL素子の構造と、発光有機物の一例

 

 

 発光層は、図1右のように二重結合をもったπ構造のある有機物で、図のアルミキノリノール錯体は、1987年、コダック社のタン博士が有機ELの基礎になる実験を行った時に使用された発光有機物である。

 現在は、青、緑、赤など各種の波長の発光有機物が開発されているが、いずれもπ構造をもっている。

 有機ELで、ディスプレイを製作する方法は、イメージセンサとは逆にミクロン程度の微少なRGB(赤緑青)のドットを並べると、人間の目には1個1個のドットとは見えず、いくつかのドットの平均的な画として見えてしまう。

 ブラウン管でも液晶でも同じ原理を利用している。

 有機ELでは、このドットを並べる製造方法が簡単ではなく、大型テレビでは未だ実現していない。

 図2は、各ドットを発光させる画素回路である。選択用TFT(Thin Film Transistor)のスイッチング動作により保持容量(コンデンサー)に画像データ(明暗信号)を書き込み、駆動用TFTにより有機EL素子に電流を流し発光させる。

 

図2 有機ELディスプレイの画素回路

 

 

 

2.有機ELディスプレイの製造方法


 RGBの3色発光する有機EL材料が開発されているので、それらの微細ドットを並べればカラーディスプレイができるわけである。

 図3左に示す製法のうち、


 ① 白色有機EL膜を蒸着し、色フィルタで3色を得る方法
 ② 金属薄膜にアパーチャーを開けて3色を順に蒸着する方法(図3右)

 が実現されている。

 

図3 有機ELディスプレイの製造方法

 

 

 3色の有機ELを用いる方法と、色フィルタ法の構造を図4に示す。

 


図4 カラー画像を得る3色発光方式と色フィルタ方式

 

 

 スマートフォンなどの小さいディスプレイには図3の②の方法が実用化されているが、テレビのような大面積になると、金属薄膜の熱膨張などの影響で、RGBドットが所定の位置からずれて蒸着されてしまう。

 そこで実用化されているのは①の方法である。

 ③の塗布方法が完成すれば理想的で、生産ラインの構築の話題が出てきている。

 すなわち、紙に印刷するような調子でテレビディスプレイができればきわめて安価に大量生産が出来、材料の使用量も無駄がない(②の蒸着法では、蒸着する材料の2/3以上が無駄となってしまう)。

 ただ、蒸着法が低分子有機物なのに対して、塗布法は高分子の材料が要求されて開発途上である。

 一部の企業では実用化すると発表されているが、本格的な量産にはまだ問題があるようで、さらなる検討が要求されている。

 しかし、将来は塗布法が主流技術になる可能性もある。

 

 

 

4. NHK技研での研究

 

 4Kの放送が現実のものとなり、8KもBS8Kで放送されて、解像度の良い美しい画が見られるようになったが、大画面化に伴いディスプレイ装置が重くなり、家庭で手軽に持ち運びすることが難しくなった。

 液晶に比べて有機ELは極めて薄型にできるので軽量化に有利で、画質も優れている。

 そこでNHK技研では、有機ELが将来の本命ディスプレイとして鋭意研究が行われている。

 

 

1.薄膜化でフレキシブル化


 8Kはハイビジョンの16倍の画素数(すなわち、7680×4320)なので、非常に大きな画面でも十分な解像度が得られる。

 そこで、大画面化しても重量が軽くて投影スクリーンのように丸めてしまえるフレキシブルディスプレイが有効である。

 液晶ディスプレイでは、バックライトなどがあって薄くすることが困難であるが、有機ELでは超薄型の可能性があり、ガラス基板の代わりにプラスチックが利用できれば、液晶に比べて1/10程度の超軽量となる。

 現在、検討されているのは図5のような構造である。

 

図5 フレキシブル有機ELの構造 

 

 

 基板はプラスチックで、その上に有機EL、画素ドット選択用のTFT、有機ELに電流を供給する駆動用TFTを並べて、その上に陰極の電極を被せ、封止を行う。

 プラスチックの選択が重要で、ポリイミドは最近の製品では500℃の耐熱性があり製造での高熱に耐えるので望ましいが、耐熱性が高いほど着色されて光の透過率が悪くなる。

 PET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)などは、透明性が高く低コストであるが、耐熱性が低いため、TFTの製造に適さない。

 このように、どのプラスチックも一長一短で、さらなる開発が要求されている。
 薄膜化にはプラスチックの性質を考慮しながら、TFTを製作しなければならない。

 表1に各種のTFT材料の特性を挙げた。移動度が10㎝2/Vs程度あり、500℃以下の温度で処理できる材料としては、酸化物半導体が適していることが分かる。

 

表1 画素駆動用TFTの材料の特性
※a-Siは、無定形(Amorphous)シリコン
※LTPSは、Low Temperature Poly Silicon
※酸化物は、IGZO(In-Ga-Zn-Oxide)など
※有機は、ペンタセンなどπ電子をもつ有機物

 

 

 酸化物TFTについては先月号で紹介したのでここでは詳しく述べないが、IGZO(In-Ga-Zn-Oxide)は移動度が高くよく用いられる材料である。

 大規模な真空装置が不要な塗布プロセスにより作製できる酸化物TFTとして、酸化物半導体(In-Zn-O)へフッ素を添加するとともに、水素導入と酸化処理を適用することにより、半導体の膜質を改善したTFTを作製した。

 フィルム基板に適用可能な低温(300℃)プロセスでも、従来の真空プロセスで作製したTFTに匹敵する高い移動度(12.8㎝2/Vs)を実現した。
 

 さらに画素の駆動素子であるTFTとして、酸窒化亜鉛(ZnON)を用いた高移動度TFTの開発を進めた。

 ZnONへ微量に不純物を添加することにより、ZnON-TFTの電気特性が大幅に改善することを見いだした。
 具体的には、窒素との結合エネルギーが大きい元素(Taなど)の添加により、TFTのスイッチング特性が改善するとともに、高い伝導性に寄与する元素(Inなど)の添加で、移動度が向上することが分かった。

 Inを添加したZnON-TFTにおいて、最大で59㎝2/Vsという高い移動度を実現した。

 

 

 

2.長寿命化


 ガラス基板上に有機ELを形成する従来のディスプレイでは、電子供給材にアルカリ金属を使用している。

 基板をプラスチックフィルムにすると、酸素や水分が透過し易く、アルカリ金属が劣化して製品の寿命が短くなってしまう。

 そこで、アルカリ金属に代わる長寿命の塩基性物質を開発した。

 この電子供給材料は、水素結合が作る分極の効果によって電子をスムーズに供給できることを世界で始めて明らかにし、今後のフレキシブルディスプレイの早期実現を加速することになる。

 開発した電子供給材料について、図6に示す。

 

図6 有機ELディスプレイの長寿命化

 

 

 

3.量子ドット


 量子ドットを用いると、広い色度図をカバーできて色再現の優れたディスプレイができるので、NHK技研でも研究されている。

 そこで、まず参考までに量子ドットとは何かを簡単に解説しておく(実は筆者は専門外なので参考書からお知恵を拝借だが)。
 量子ドットは、直径が2~10?程度の微結晶で10~50個ほどの原子で構成されている。

 普通の結晶では、原子の数は無数にあると考え、その性質はバンド構造で説明されるが、量子ドットでは限られた数なので、もはやバンドではなく、図7のように離散的なエネルギーレベルとなる。

 

図7 バルク結晶と量子ドットのバンド構造

 

 

 紫外線などの大きなエネルギーが与えられると、明るく鮮やかに発光するが、量子ドットの大きさによって図7に示したように発光スペクトルが変わる。

 量子ドットは、ディスプレイ以外にも、トランジスタ、太陽光発電、固体メモリ、照明など色々な応用が検討されているが、有毒なCd(カドミウム)を用いることが問題で、Cdを含まない材料の検討が行われている。

 

 

 

4.量子ドットの改善


 2018年度は、Cdを含まない低毒性量子ドットとしてリン化インジウム系材料を用いた量子ドットEL素子(QD-LED)の試作に取り組んだ。

 緑色発光のZnInGaP/ZnS量子ドットを用いたQD-LEDにおいて、電子をブロックしながら効率良く正孔を発光層に注入できる正孔輸送層を導入することにより外部量子効率3.4%を実現した。

 また、構造を工夫した量子ドット(ZnInP/ZnSe/ZnS)を用いることで、緑色の色純度を改善した。量子ドットとEL素子の構造を図8に示す。

 


図8 量子ドットの構造と、検討のため試作したEL素子

 

 

 

5.ディスプレイの将来


 図9は、NHK技研から示されているディスプレイの将来像である。

 


図9 家庭用ディスプレイの開発ロードマップ

 

 

 2030年ごろにはテレビ放送も8Kが一般的になっていると思われるので、大画面で解像度が良い、色の特性が良い、省エネ、家庭に入るに相応しい形状や重量などが要求される。

 その候補としては、有機ELが最も有望であろう。

 NHK技研で現在進めておられる研究が実ることになるだろう。

 なお、本稿に掲載した、図1、2、5、6、8、9と表1はNHK技研様から提供していただいた(参考:https://www.nhk.or.jp/strl/)。

 

 

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