ビジネスコミュニケーションを加速する
BtoB ニュース専門サイト | ビジコムポスト

テクニカルレポート
2019.08.02
シリーズ・さまざまな研究所を巡る(第8回)
海洋研究開発機構(その1)
厚木エレクトロニクス

 

 

3. 水中光無線通信

 

 海底の調査では無人探査機が活躍しているが、探査機の操作を海上の船から行う必要があり、また探査結果はただちに船の本部へ送りたい。

 そのような情報を伝える方法として、音波では通信速度が10kbpsと非常に遅く、動画などのデータ量の多い通信はできない。

 電波では海水の導電性のため水中の減衰が激しく、長い距離を通信することができない。

 そこで、光による無線通信の研究を行った。

 水中の光の減衰が少ない青、緑、赤の高出力レーザーを用い、その光を点滅させることにより情報を伝達する。

 海水中にはマリンスノーなどの懸濁物質がある場合、光の波長ごとに伝搬の減衰が異なるので、波長の異なるレーザ光でデータを取得した。

 透明度の高い水中では青色、透明度が若干低い沿岸や近海では緑色、透明度が低い湾内などでは黄色または赤色を用いるのが良い。

 受信には高感度の光電子増倍管(入射光が何万倍にも増幅される真空管)を用いた。

 その結果、わずかしか光が届かない100m離れた距離でのLAN通信に成功し、20Mbps速度のデータ伝送ができた。

 図5は水中光無線通信装置の写真で、表2は水中光無線通信装置の仕様である。

 

図5 水中光無線通信装置の写真(JAMSTEC提供)

 

表2 水中光無線通信装置の仕様(JAMSTEC提供)

 

 なお、この研究には(株)島津製作所及びエス・エー・エス(株)の協力を得た。

 

1.水中光無線通信の実地試験

 昨年7月、駿河湾の水深700?800m付近において試験を行った。

 図6の「かいこう」のランチャーとビークルの距離を徐々に空けてゆき、120mまで離れた場合で20Mbps速度のデータ転送に成功した。

 

図6 光無線通信の実験

 

2.水中光無線通信の今後の活用

 今回得られた100m以上も離れた移動体同士の水中光無線通信は、世界初の実用的な通信であり、水中のLAN通信が可能になったことから、水中光Wi−Fiや、有人潜水船からスマートフォンで水中の機器を操作することも可能となった。

 さらに、海洋観測をインターネットへ接続してIoTに使えることになり、海底資源探索やダイビング、港湾土木作業の水中作業など、広く活用できると期待される。

 また、従来は考えられなかった空中のドローンと水中機器が直接通信することもできる。これらの様子を図7に示す。

 

図7 将来的な水中光無線通信(JAMSTECの提供)

 

 

4. まとめ

 

 今月は、音波による広い範囲の海底探査に有効な合成開口ソナー技術と、レーザ光を利用した水中の高速情報通信技術を紹介した。

 この2つの技術は、今後の海底探査にとって極めて有用な基礎的な技術であり、海洋に関する産業の発展に寄与し、我々の生活も豊かにしてくれるものと思われる。

 来月からは、海底での熱水噴出や環境問題など、具体的なテーマについての研究を紹介する予定である。

 乞うご期待。

 

会社名
厚木エレクトロニクス
所在地