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テクニカルレポート
2019.05.24
シリーズ さまざまな研究所を巡る(第6回)
鉄道総合技術研究所(その1)
厚木エレクトロニクス

 

5. モータ効率化

 

 現在広く用いられている誘導モータの効率を向上するための研究開発を行った。

 材料の選定等の基本的な設計手法により高効率化を図ることを検討し、次に磁界解析を行い、回転子導体の表面において、出力に寄与せずに損失を発生させる電流が流れていることを明らかにし、これを低減する新しい回転子構造を考案した。

 そして、高効率誘導電動機を試作し(図7)、性能を評価した結果、その効率は約96%であり、従来機に比べて約3%効率を向上できた。

 走行シミュレーションにより電車で使用した場合の省エネ効果として消費電力量を6~11%削減できることが分かった。

 鉄道総研の開発ではなく、民間の企業の開発であるが、モータを駆動する回路の電力用素子として、シリコンによるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transisitor)に替わって、内部抵抗が小さいSiC(炭化ケイ素)によるトランジスタが新幹線に採用され出した。

 SiCは量産が難しくてまだコストが高いが、乗り物と限らず多くの電源回路に使われれば、省エネ効果が大きい。

図7 誘導モータの改善(図は鉄道総合研究所の提供によるもの)

 


6. 電力

 

 太陽光発電や風力発電をはじめとする自然エネルギー発電を鉄道の運転用電源として活用することが考えられている。

 しかしながら、自然エネルギー発電は気象条件によって発電電力が変動するため、安定に電力を供給可能なシステムが要求される。

 自然エネルギーによる余剰電力が発生した場合や、ブレーキ回生エネルギーなどを蓄電する必要がある。

 また、水素を利用した燃料電池の利用が検討されている。

 

1.蓄電用フライホイール

 エネルギーを蓄える方法として、フライホイール(はずみ車)の回転運動を利用する方法がある。

 軸受の摩擦で回転運動が徐々に減少するのを防ぐため、超電導磁気軸受けによってフライホイールを浮かせれば摩擦がゼロの運動となる。

 既に実証実験が行われており、電車の回生エネルギーの蓄電への応用が検討されている(図8)。

図8 超電導磁気浮上による蓄電用フライホイール(図は鉄道総合研究所の提供によるもの)

 

2.燃料電池鉄道車両の開発

 エネ・環境負荷低減を目的として、水素を燃料として発電を行う燃料電池を、鉄道車両の電源に適用する研究を行っている。

 すでに2005年度、図9のような走行用電源を想定した燃料電池システムと、高圧水素(350気圧、総量約17.2kg)を貯蔵し、システムへ供給する高圧水素タンクシステムを試作した。

 100kW級固体高分子形燃料電池システムである。

 鉄道車両の電源として利用するためには、始動性、負荷追従性などさまざまな要求があり、低温動作が可能な固体高分子形を採用し、高温部をなくして始動時間を90秒程度と短くした。

 鉄道車両特有の変動負荷に対して、空気量を変化させて負荷に追従させている。

 システム内には4本の高圧容器が搭載されており、一段で10気圧未満に減圧して燃料電池へ供給し、燃料電池内部でさらに1気圧に減圧して使用する。

 エネルギー変換効率は、走行条件によらずほぼ50%程度の高効率になることが分かった。

図9 試作した燃料電池鉄道車両(図は鉄道総合研究所の提供によるもの)

 

 以上で今月の紹介は終わり、来月には列車の乗り心地の改善、安全運行、リニア新幹線の技術などを紹介する予定である。

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厚木エレクトロニクス
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