6. ⑥FPM-Trinityの製造プロセスと設計環境の最適化 8
FPM-Trinity 9)10) 11)は(株)FUJIが開発した電子モジュール製造装置である。
3D樹脂プリンタの技術、回路印刷の技術、部品実装の技術を複合したもので、すべての工程にデジタルデータを使うため、マスクツールや専用の治具の準備をすることなく、一品モノの試作や立体的な電子デバイスの製造が可能である(図8)。
図8 FPM-Trinityにおける製造プロセス概要
従来のプリント基板製造工法では実現が難しい複雑な2次元形状の電子基板や、機電一体の特殊な立体形状のデバイスの製造を可能にする。
図9は、FPM-Trinityで製造されたセンサモジュールである。
図9 FPM-Trinityで製造されたセンサモジュール
FPM-Trinity向けに、設計フローの最適化および設計環境の構築を行ったのでその概要について説明する。
使用したツールは、3次元電気系 システムレベル マルチボード設計環境「CR-8000 Design Force」である。
昨年の報告では、設計フロー検討および作業方法見直しや改善で表1のような設計工数削減成果を紹介した。
表1 FPM-Trinity向け設計工数削減効果
その後、さらなる設計工数削減および作業ミス減少のために、設計フローの見直しや改善を継続した。
特に大きく改善した内容は「製造用データ出力」である。
従来不可能であった製造パネルを設計するための2次元のツールに、「樹脂造形(3Dメカデータ)」、「回路形成」、「各座標データ(部品座標、Agペースト座標、アンダーフィル用データなど)」各種データを紐づけ、全ての製造データの一括出力に対応した(図10)。
図10 CR-8000によるFPM-Trinity向けの面付けデータ
これにより、データ出力時間は従来工数比5分の1に短縮することができた。
CR-8000 Design Forceを使うことで、FPM-Trinity向け設計がほぼメカCADなしで実現でき、最終形状の確認、DRCがCADの中で完結し、データ品質と設計工数削減に有利である。
7. Leafonyセンサモジュールの試作 12) 13)
FPM-Trinityを使えば、超短期間で試作・評価をすることが実現可能であるが、プリント基板の置き換えだけでは存在価値が薄い。
これまでにない新しい発想や新しいモノづくり方法、異分野との協調など新しいアプローチが必要である。
そこでIoT機器開発におけるモジュール化設計という考え方において、多様性のあるセンサモジュールを試作することにした。
一般的なIoTセンサモジュールであれば、Leafony社から販売されているBasic Kit/Extension Kitを購入すればすぐに組立てができ、公開されているスケッチと呼ばれるプログラムを書き込むことですぐに動作可能である。
しかし、新しい機能のセンサICを使いたい場合、新しいリーフ基板の設計、プリント基板製造、部品実装をする必要があり、少なくても1週間以上かかってしまう。
それをFPM-Trinityを使うことで、新しいセンサリーフを手元で設計、試作(図11)することができ、3日程度で動作する新センサシステムを実現することができた。
新しく設計したセンサリーフでは、既存のCPUリーフ、BLEリーフ、電池リーフとマルチボード機能を使ってシステムの完成状態を再現(図7)し、リーフ間の電気信号接続チェック、リーフ間の部品干渉チェック、樹脂ケースとの3Dクリアランスチェックを実施した。
また試作前に回路検証、各種シミュレーションが可能で、試作1回で問題なく動作させることができ、製造の歩留まりも100%であった(図11)。
図11 FPM-Trinityで試作したセンサリーフと動作確認
8. カスタムSoCの少量製造との連携 14) 15)
プリント基板が同じものを大量に安く製造することが得意なように、FPM-Trinityはカスタム性の高いもの、守秘性の高いものを、その場で迅速に作ることに長けている。
同様のコンセプトを持った半導体製造システムである「ミニマルファブ(Minimal fab)」とは相性が良いはずである(図12)。
図12 ミニマルファブとFPM-Trinity協調の例
例えばウエハの電気検査ソケットなどに適用できれば、高価な検査用ICソケットをカスタムで製造することがなく、メリットがあると考えている。
9. ミニマルウエハの電気検査治具設計例
ミニマルウエハ、またはミニマルファブでIC製造&パッケージング(ミニマルIoTデバイス実証ラボ)したセンサICパッケージの電気検査システムとして、Leafonyを使うことを考案した。
特徴は以下である。
■① ミニマルファブで極小規模の半導体製造
例えば少量のセンサICパッケージを低コストかつ短期間で製造。
■② FPM-Trinityで電気検査ソケットを製造
ミニマルファブで試作したセンサICパッケージに適合した電気検査ソケットを製造する。
■③ Leafonyを使って電気検査システムを設計
ミニマルファブで試作したセンサICパッケージの電気特性を抽出するためのA/D変換リーフを作成し、電気特性を評価する。
汎用の汎用のCPUリーフ、USBリーフなどを活用し、汎用的な電気検査システムを構築する。
これら3つの技術をうまく活用することにより、Leafonyを使った手軽で汎用的な電気検査システムが成立する(図13)。
図13 Leafonyを使った電気検査システムの例
またセンサICパッケージの電気検査のみでなく、性能評価や信頼性データの収集、販売時のデモ、場合によっては開発評価ボードに使うことができる。
ただし、IC設計段階でこのようなシステムを想定した設計が必要である。
10. まとめ
システム設計(MBSE/MBD)を見据えたモジュール化設計のひとつの形として、Leafonyを紹介した。
また電子モジュール製造用の複合3Dプリンタ:FPM-Trinityとその設計環境に関して、改善のポイントと効果を紹介した。
またFPM-Trinityの少量生産、短納期製造の特徴をカスタムソケットに適用し、汎用マイコン/プログラムを使って、IoT向けセンサICパッケージのテスト環境を構築できる可能性を紹介した。
今後も新しい製造装置の開発に合わせて、設計環境も進化できるように研究開発を継続する。
11. 謝辞
本研究の成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業の結果得られたものである。
<用語解説、引用・参考文献>
1)「システム設計(MBSE/MBD)を見据えたモジュール化設計とアディティブ・マニュファクチャリング向け設計環境の検討」(第34回 エレクトロニクス実装学会 春季講演大会、株式会社図研 長谷川清久、株式会社FUJI 富永亮二郎、図研テック株式会社 谷口英俊)
2)Zuken Innovation World 2019 Yokohama
3)図研が考えるエレクトロニクスモジュラー・デザインの定義
https://www.zuken.co.jp/products/thema_md.php
4)「CR-8000 Design Force」株式会社図研が開発しているシステムレベル マルチボード設計環境
http://www.zuken.co.jp/products/detail/design_force.php
5)「DS-2」株式会社図研が開発している設計データ管理(PDM・PLM)
https://www.zuken.co.jp/products/pdm_plm.php
6)「トコトンやさしい半導体パッケージと高密度実装の本」
発行:日刊工業新聞社 高木清、大久保利一、山内仁、長谷川清久
7)Leafonyプラットフォーム、トリリオンノード研究会
8)「3Dプリンターを応用した立体回路基板のための設計フロー構築」(第33回 エレクトロニクス実装学会 春季講演大会、株式会社図研 長谷川清久、株式会社FUJI 富永亮二郎、図研テック株式会社 谷口英俊)
9)「FPM-Trinity」株式会社FUJIが開発した電子モジュール製造用の複合3Dプリンター
https://www.fuji.co.jp/about/fpm-trinity/
10)Zuken Innovation World 2019「電子デバイス用3DプリンターFPM-Trinityの紹介およびCR-8000との協業」株式会社FUJI 富永 亮二郎
11)「フルアディティブ技術で部品内蔵を実現する3Dプリンター「FPM-Trinity」のご紹介」
(エレクトロニクス実装学会誌 2020 Vol.23 No.1:株式会社FUJI 富永亮二郎、富士通インターコネクトテクノロジーズ株式会社 山内仁)
12)「アディティブ・マニュファクチャリング技術を活用したArduinoフル互換リーフモジュールの設計」(第29回マイクロエレクトロニクスシンポジウム、株式会社図研 長谷川清久)
13)JEVeC DAY 2019「はんだ付け不要で組立てできるIoTセンサモジュールのプロトタイピング~アディティブ・マニュファクチャリング技術を使ったセンサモジュール試作~」(株式会社図研 長谷川清久)
14)ミニマル ファブ(Minimal fab)
15)ミニマル IoTデバイス実証ラボ
https://unit.aist.go.jp/kyushu/minimallab/index.html
- 会社名
- (株)図研
- 所在地
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