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スペシャルインタビュー
2022.07.12
独自のセメント製造技術から生まれた3Dプリンタ用造型材料
〜研究所で開発された新しい技術の市場普及を目指す〜
太平洋セメント株式会社
企画管理部 部長 江里口 玲 氏 企画管理部 インキュベーション推進チームリーダー 石田 弘徳 氏 企画管理部 インキュベーション推進チーム 参事 金光 俊典 氏

セメント事業、資源事業、環境事業、建材/建築土木事業などを展開する太平洋セメント株式会社。今回は、それら事業の研究開発を担う同社中央研究所にスポットを当て、現在進められている新しい取り組みなどについて、企画管理部 部長 江里口 玲 氏、企画管理部 インキュベーション推進チーム リーダー 石田 弘徳 氏、企画管理部 インキュベーション推進チーム 参事 金光 俊典 氏に、お話を伺った。

 

■御社中央研究所の役割や新しい取り組みなどについてお聞かせください

 

江里口 : 当社は、セメントの製造/販売を行うセメント事業を中心に、石灰石骨材を活かした資源事業、廃棄物をリサイクルする環境事業、建設資材を提供する建材/建築土木事業を基本的な柱として、事業展開しています。

中央研究所では、それらの事業が行っている事業内容に則した研究開発を進めると共に、一方で新しい我々のセメント製造技術で培った、粉体技術やセメントの応用技術などの研究開発も行っています。そのような過程において、研究所では色々と新しいものが生まれてきますが、中にはシーズ技術に近いため、現状の事業部ではアウトプットしにくいケースもあり、せっかく製品レベルまでできているのに、なかなか世に出しづらい側面がありました。

そのため、研究所内においてインキュベーションといわれる“卵を孵化させる”ことをイメージした、事業部の一歩手前の位置付けで事業のフィージビリティスタディをするような部署として、「インキュベーション推進チーム」を2018年に結成しています。この部署では、研究所で研究開発された新しい技術を事業レベルにしていくため、事業のあり方やビジネスモデル、お客様の開拓などもすべて研究所サイドで事業開発を行っています。

このような試みは、以前にも研究所で開発したものを試験的に販売したケースが一部ありましたが、チームとして部署を設けたのは今回が初になります。

 

■「インキュベーション推進チーム」が現在進められている案件についてお聞かせください

 

石田 : 現在、我々が取り組んでいる商品の一つとして3Dプリンタ用造型材料『TCaST(ティーキャスト)』があります(写真1)。

写真1 3Dプリンタ用造型材料『TCaST』

 

この製品は、セメント製造技術の応用から生まれた粉体で、バインダージェッティング方式(BJ方式)の3Dプリンタで使用できる造型材料です。商品名の『TCaST』は、太平洋セメントの頭文字である“T”と鋳造を英語にした“casting”から付けられており、耐熱性が高く、粉体の粒径が細かいという特徴がありますので鋳型として使用することにより、良好な鋳肌の鋳物を得ることができます。

『TCaST』に対応する3Dプリンタとしては、現状では3D SYSTEMS社製の『Projet ×60シリーズ』と、XYZprinting社製の『PartPro350』の2機種があります。『TCaST』の製品ラインアップとしては、2社それぞれの機種に対応した1種類ずつですが、いずれも塗型を塗布することなく注湯温度が700℃のアルミ、生産量が多い鋳鉄、注湯温度が1600℃と高いステンレス系鋳鋼まで、幅広い金種で鋳造することが可能です(図1)。

図1 『TCaST』での鋳造

 

これは、当社のセメント事業で培われた粉体技術を存分に盛り込んでいることが背景にあります。1960年代には鋳型の粘結材に普通ポルトランドセメントを使ったセメント鋳型が使われていました。1970年代には、当社ではセメント鋳型の性能向上を目的に超速硬セメントを使った「OJプロセス」技術を展開し、多くの鋳造現場でお使いいただきました。現在もセメント鋳型が不可欠な鋳造現場で鋳物づくりを支えています。

このように当社と鋳物業界はかなり前から深くかかわってきました。『TCaST』は、3Dプリンタで鋳型を製作するプロセスですが、私たちも『TCaST』をPRさせていただく中で、お客様から「昔はセメント鋳型を使っていた」と教えていただくことがあります。

鋳型を3Dプリンタで製作することは、海外ではかなり普及が進んでいる国もありますが、日本では普及途上の状況です。ただ、そうはいいましたが、日本のお客様によっては結構活用されており、鋳型を3Dプリンタで製作することにより、「短期間で鋳型を製作できる」、「木型では対応が困難だった複雑形状の品物が簡単に製作できる」といったメリットを感じられているようです。

従来、鋳型を製作する場合、製造したい製品と同じ形状のものを主には木で「木型」を製作し、「木型」に砂を被せて砂を硬化させたあとに「木型」を抜いて鋳型をつくっていました。この手法では、木型を製作するのに、設計から完成まで1〜2ヵ月程の期間が必要で、複雑な形状ほど長期になっていました。また、木型を抜けない複雑形状の製品には対応が困難です。3Dプリント鋳型を使用することにより、木型を製作する必要がなく、僅か数日で鋳物の完成が可能になり、複雑な形状の製品にも対応できます。

『TCaST』を使った鋳型のメリットとしては、大きく分けて4つが挙げられます。まず1つ目は工数低減/納期短縮です。木型や金型をつくることで鋳造まで通常は1〜2ヵ月程掛かる期間が、3Dデータからダイレクトに鋳型を製作することにより最短2日で鋳造が可能となりリードタイムを大幅に短縮できます。特に複雑形状品や試作品の製作に適しています。

2つ目は、さまざまな形状に対応できることです。これは、型を抜く必要がない3Dプリンタならではのメリットです。

また『TCaST』の粒径が細かいことにより、高精細なパターンや滑らかな曲線を表現できます。『TCaST』を使った鋳型は3Dプリンタで造型後、プリンタから取り出しクリーニングを行い完成しますが、『TCaST』は粉離れが良いためクリーニング作業時にはけ等によるこすり落としが不要で、鋳型の寸法精度を損なうことがありません。これにより、高い寸法精度の鋳物を得ることができます。

3つ目は、木型/金型といった「型」が不要になることです。これにより、工数削減とともに鋳造会社の抱える木型/金型の保管による費用負担や資産管理といった問題の解決にも貢献できます。また、木型/金型を長期間使い続けると劣化するため、メンテナンスが必要でしたが、型が不要になることでこれらの問題が一気に解決できます。

4つ目は、これまでの溶湯と方案を活用できることです。鋳型は『TCaST』で製作しますが、これまで積み上げてきた各社それぞれの鋳造ノウハウをそのまま活かすことができます。これは『TCaST』の大きな強みであり、鋳物会社が保有する技術を活用して新たな分野への挑戦を可能にします。

これらの4つのメリットにより、『TCaST』鋳型をお使いになるお客様は市場における商品の競争力の強化に繋げることができます。

会社名
太平洋セメント株式会社
所在地
千葉県佐倉市