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テクニカルレポート
2026.09.29
AI時代を支えるシリコンキャパシタ(Si-Cap)­­
―市場要求・技術・主要メーカーの動向­­―
特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
梶田 栄

①はじめに

電子機器には非常に多くのコンデンサが使用されている。中でも積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、小型、大容量、低価格、高信頼性という優れた特徴を持ち、スマートフォン、自動車、産業機器、通信機器など幅広い分野で使用されている。

その一方、近年「シリコンキャパシタ(Silicon Capacitor:Si-Cap)」と呼ばれる新しいタイプのコンデンサが注目されるようになってきた。

Si-Capそのものは最近突然登場したものではない。従来からRF・マイクロ波回路、医療機器など、高周波特性や高い信頼性が要求される分野で利用されてきた。近年になりCPUの処理速度が格段に速くなり、さらに従来画像処理用に使用されていたGPUをデータの並列処理に利用することでコンピュータの性能が著しく向上してきた。

ここで第三次AIブームの火付け役となった生成AIが一般に広く普及してきた。AIサーバ、HPC(High Performance Computing)、高速通信、先端半導体パッケージの発展に伴い、その役割が急速に拡大している(図1)。 

図1 ビッグデータの推移と背景

 

特にAI用GPUやアクセラレータでは、演算性能の向上に伴って消費電力と瞬間的な電流変動が大きくなっている。半導体を正常に動作させるためには、低い電源電圧を極めて安定して供給しなければならない。

このような市場要求に対し、「半導体のすぐ近くに置ける、薄く、小さく、寄生インダクタンスが極めて小さいコンデンサ」としてSi-Capが注目されている。

2026年5月、Samsung Electro-Mechanics(SEMCO)が、世界的大手企業と約1.5兆ウォン(約1,740億円:1ウォン=0.116円)規模のSi-Cap供給契約を締結したと発表した。この市場が研究開発段階から本格的な量産市場へ移り始めたことを示す象徴的な出来事といえる。供給期間は2027年〜2028年で、同社はAIサーバ用GPUやHBMなどの高性能半導体パッケージ内での電源安定化用途であることを明示している。ただ供給先は現時点では未公表である。

 

②なぜシリコンキャパシタが必要になったのか

2.1 AI半導体の急速な高性能化

従来のPC用CPUと比較して、AI用GPUやAIアクセラレータでは膨大な数の演算回路が同時に動作する。

そのため問題となるのが電源である。GPUの演算負荷が急激に変化すると、必要な電流も瞬間的に大きく変化する。電源回路であるVRM(Voltage Regulator Module)が安定した電圧を供給していても、VRMからGPUまでの配線には抵抗とインダクタンスが存在する。特にインダクタンスによる電圧変動は、

V = L・di/dt

で表される。

したがって、電流変化di/dtが非常に大きくなるAI半導体では、わずかなインダクタンスLでも無視できない電圧変動が発生する。そこで重要になるのがデカップリングコンデンサである。GPUの直近にコンデンサを配置しておけば、GPUが突然大きな電流を要求した瞬間、コンデンサから電流を供給することができる。

つまり、VRM=必要な電圧を作る装置、コンデンサ=瞬間的な電流変化をGPUの直近で補う装置、という役割分担になる(図2)。

図2 デカップリングコンデンサ

 

2.2 「容量」だけでなく「距離」が重要になった

従来は、より大きな容量のコンデンサを基板上に多数配置することで電源を安定化する方法が一般的であった。

しかしAI半導体では、それだけでは十分ではない。重要なのは、「コンデンサを半導体からどれだけ近い位置に置けるか」、である。コンデンサとGPUの距離が長くなり回路に曲部があれば、配線のインダクタンスが増加する。

そこで、従来:GPU→パッケージ→プリント基板→MLCCであったものを、今後:GPU→ Si-Capというように、Si-CapをGPUの近傍であるパッケージ表面、裏面、さらにはパッケージ基板内部へ配置する方向へ進んでいる。SEMCOではすでにLand Side、Top Side、Embeddedという3種類の実装方法を示している。

この変化こそ、現在Si-Capが注目される最大の理由の一つである。

 

③シリコンキャパシタとは

Si-Capは、その名称の通りシリコンウエハ上に半導体製造技術を使って形成するコンデンサである。

基本原理そのものは一般のコンデンサと変わらない。

コンデンサの静電容量Cは、

C = εS/d

で表される。

ここで、ε:誘電体の誘電率、S:電極面積、d:電極間の距離である。

MLCCではチタン酸バリウム(BaTiO₃)などの高誘電率セラミックを誘電体に用い、非常に薄い誘電体層と内部電極を多数積層することで電極間の距離d小さくし、電極面積Sを大きくすることで大容量化している。

一方、Si-Capでは半導体プロセスを利用して、シリコン上に極めて薄く均一な誘電体膜と電極を形成する。

初期から使われてきた代表的な誘電体には、SiO₂(酸化シリコン)、Si₃N₄(窒化シリコン)、Oxide/Nitride/Oxideなどの複合膜がある。

ただし、高容量密度化した新世代Si-Capではこれだけではない。村田製作所の旧IPDiA系PICS技術では、従来のOxide

/Nitride/Oxideから、ALD(Atomic Layer Deposition)によって形成する高誘電率(High-k)ナノラミネート膜へ発展している。したがって、現在のSi-Capを単純に「SiO₂を誘電体にしたコンデンサ」と説明するのは正確ではない。

 

④3次元構造による大容量化

SiO₂などの誘電率は、MLCCで使われるBaTiO₃ほど大きくない。そこでSi-Capでは、半導体微細加工技術によってシリコン表面を3次元化し、実効電極面積Sを大きくする。代表的なのがDeep Trench構造である(図3)。

図3 Deep Trench構造の例

 

シリコンウエハに非常に深く細い溝や孔を多数形成し、その側壁に誘電体と電極を形成する。平面的には小さな面積でも、内部には巨大な電極表面積を持つことになる。これはDRAMのキャパシタと非常によく似た考え方である(図4)。

図4 DRAMの原理

 

村田製作所のSi-Capでは、シリコン単結晶基板に形成した3D構造上にSingle MIM、Multi-MIM構造を形成している。MIMとはMetal-Insulator-Metal、すなわち金属−誘電体−金属構造である。

さらにMIMを多層化したMIMIM構造などを利用することにより、同じ面積でより大きな容量を得ることができる。この点からSi-Capは、「材料の誘電率だけで容量を稼ぐコンデンサ」ではなく、「半導体の3次元微細加工によって容量を稼ぐコンデンサ」と考えると理解しやすい。