①はじめに
直近、TSMCの熊本工場量産立ち上げを追うようにして、政府が高額な補助金でラピダス(千歳)での2nmデバイス試作を後押しするなど、半導体産業は2000年前後の低迷以降、再び活気が蘇ってきた。最近、AI(Artificial Intelligence:人工知能)が注目されているが、パワーデバイスへのSiC基板搭載による小型化や高性能化など、次世代への半導体応用分野の方向がはっきりと見えてきた。さらにわが国の高品質な電子材料や高度な実装技術もしっかりと底辺を支え続けている。このような背景の中において、生産の効率化や不良率低減は継続課題であり、クリーン化は基礎技術として確実に裾野を拡げている。しかしながら、この技術を高める手法について、現場での現実的な問題を解説した本はそう多くはない。
これを受けて本誌4月号(Vol.41, No.4, 2025)では、「知っておきたい現場でのクリーン化技術」と題し、浮遊塵埃の挙動を中心に解説した。今回は、引き続き「異物・塵埃の大きさについて述べた後に、異物・塵埃特徴や気流による渦の発生などについても述べる。
②塵埃・異物を再考する
2.1 塵埃・異物の大きさの定義
クリーン化技術で取り扱う塵埃・異物や微粒子・粗い粒子について図1に示す。

図1 クリーン化技術で取り扱う塵埃・異物
まず微粒子であるが、英語ではパーティクル(Particle)と言う。パーティクルは、Webster辞典によればA piece of matter so small as to be considered without magnitudeと示されており、日本語で言うところの微粒子とほぼ同じ意味に当たる。空気中に浮遊する塵埃を浮遊塵埃、落下する微粒子に対しては落下塵埃、堆積したものは堆積塵埃と区別することがある。また、10μm以上の粒子を粗大粒子(coarse particles)と言うこともあるが、定義が不明確なので、「粗い粒子」と称することとする。また、日本の法令に「粒子状物質」自体の定義は存在しないが、環境基本法に基づく環境省告示(「大気の汚染に係る環境基準について」)では、浮遊粒子状物質の定義の中で「浮遊粒子状物質とは、大気中に浮遊する粒子状物質であって、[略]として間接的に引用されており、粒子状の物質に対する粒子の大きさの定義は示されていない。そのため、当然ながら粗大粒子の定義もない。たとえば人体の健康被害から言えば、1μm以下のナノ粒子が問題視されるが、この大きさから見たらPM2.5やPM10などの2.5μmや10μmは十分に粗大である。因みにPMとはParticulate Matterの略で、浮遊物質をろ過捕獲する際の平均粒径がそれぞれ2.5μm、10μmを示している。また、ヒトの目視限界の30μm以上を粗大粒子とも言えるが、最近では見えない大きさの10μmを粗大粒子と言う考えもある。つまり、粗大粒子とは相対的な表現でしかない。クリーン化技術ではこれらの粒子のすべてを取り扱うのが前提となり、整理・整頓で取り扱うゴミとは一線を画する。異物とは、製品の構成とは異なるものの総称であり、不要なものであって製品に悪影響を及ぼすものとされる。したがって、製品側から見て不良の原因となるものは異物であり、小さなものは微小異物と呼ばれることが多い。
次に、ダスト(dust)とは、Webster辞典では(Earth or any other matter so finely powdered and so dry that it is easily suspended in air)と説明されており、空気中に浮遊する微粒子や粉体(powder)を指している。まさにクリーン化での対象物質である。製造プロセスにおいてクリーン化技術が何を問題としているのか、しばしば疑問をもつ。微粒子が付着しても製品が不良とならなければ、クリーンルームやクリーン化技術の必要性はない。製品は各種材料の構成物であって、製品に必要ないものや特性に影響を及ぼすもの(不良の原因物質)は不要物と見做せる。この意味では、製品構成材料以外のものは総称して「異物」と呼ぶのがもっともふさわしい。作業室内では「微粒子対策や粗い粒子対策」が課題であろうが、製品側から見たらすべてにおいて「異物対策」となる。また、無用なものの総称として「ゴミ」という表現が使われるが、これは慣用表現であって、目に見える不要物や不用物を指すことが多いようである。
作業室内での異物の形態を図1に示す。「ゴミ」「塵(ちり)」「埃(ほこり)」は無条件に異物として取り扱う。作業室内では主に浮遊粒子を対象としている。これは大きさによって区分されるが、総称してダスト(Dust)と呼ばれ、あえて線引きすると10μm以上の大きさをパウダ(Powder)と称し「粉体」として取り扱われる。金属生成粉は大きさを問わずヒューム (Hume)と呼ばれるが、摩耗金属などの微金属粉(Metal)とは区別される。また、10μm以下は構成成分を問わず粒子・微粒子(Particle)と表現したが、最近ではこの中に、ガス(Gas)、酸・アルカリ性のミスト(Mist)、主に有機物からの揮発物(Vapor)も対象となる。これらは分子状汚染物質(AMCs:Airborne molecular contaminants)と呼ばれ、1995年以降半導体先端デバイス製造で話題となっている異物である。加えて、水分子・湿気(Moisture)も異物として見做す場合もある。
ところで、肉眼で見える大きさにも限界がある。一般にヒトの目視限界は30μmであるが、異物や粒子としてのヒトの認識がともなう場合は50μm、暗視野における集光灯下の場合は散乱光が発生するので10μmが目視限界とされる。最近では、異物対策と言っても裸眼で見えない大きさ30μm以下の塵埃・異物を相手にしていることも多い。作業者や装置からの発塵に対しても目視不能な30μm以下の塵埃は、当然ながら気流に乗って室内を浮遊するので、これを除去するフィルタの設置は必須であり、クリーンルーム機能が維持される。だからと言って、この30μm以下の大きさの塵埃・異物が製品に影響を及ぼさないのであれば、クリーンルームの必要性は薄れる。何をどのレベルまで管理するのかは製品の異物管理要求レベルの問題である。異物管理に必要なコストを最小限に留めるには、闇雲な運用管理は不必要である。製品の要求品質を満足できれば、過度なクリーン化は必要ないのであって、この線引きを潔く決めるためにも、クリーン化の本質に裏打ちされた現実に適合する本当のクリーン化対策をPolicyとすることが必要である。
2.2 浮遊塵埃、SPMとPM2.5
前述したPM2.5が環境汚染で話題となっているが、補足する意味で粒子状物質の分級特性(捕集効率)を図2に示す。

図2 粒子状物質の分級特性(捕集効率)
クリーン化ではSPM(Suspended particulate matter:浮遊粒子物質)やPM10が対象となることがある。SPMは粒径の範囲が概ね6.5〜9μmで目には見えないが、凝集し堆積すると塵埃として取り扱うことになる。この大きさの物質は、PM2.5も合わせて気流に乗って浮遊し飛来してくる。また、PM10は7〜12μmの粒径分布が中心であることから、本質的にSPMの中にPM2.5は分類される。
ところで、これらの物質の重さはどの程度あるのか考えると、直径20μmの異物1個の重さは比重を1とすれば4.2×10−15gとなり、1,000個あったとしてもピコグラム(pg)オーダーであり、当然ながら感度の良い自動直視天秤(感度0.1mg)では測定不能である。仮に鉄鋼やステンレス鋼(比重約8)で直径0.2mmの球状1個と仮定した場合でも3.35×10−11gとなり、ようやくpgオーダーに達する。直径2mmでは、1,000個の場合ようやくμgオーダーとなるが、これも自動直視天秤では当然ながら計測不能である。したがって、現実には表面に付着した異物の重さはきわめて小さいことから計数不能であり、塵埃・異物の重さによって日常管理を行うことは無理である。クリーン化技術で異物を管理対象とするときは、重さではなく「大きさと個数」で捉える理由がここにある。図2で述べているSPMは通常大気中の浮遊粒子を指しているので、工場にもっとも近い外気環境ではない。工場近辺の外気にはこれらの浮遊塵埃SPMに地上付近に漂う発塵物や排気ガス粒子など、さまざまな塵埃が加わっている。
2.3 塵埃の6大特徴
飛来してくる浮遊塵埃の6大特徴を図3に示す。

図3 塵埃の6つの特徴
1. 塵埃の大きさは一定ではなく分布がある。元々、大気中の浮遊塵埃には土壌や砂塵が破砕や風化によって大気中に浮遊し飛来するもの、衣服からの繊維の脱落、人体からの毛髪・皮膚の脱落、紙類の繊維破断や脱落、機械加工時の切片、装置稼動時の摩擦・摺動や摩耗などによる摩耗粉など様々な由来があるが、どれをとっても一様の大きさや形状ではなく、それぞれに粒径分布がある。
2.同様に塵埃の形状も一定ではない。発塵する原因によっても形状は変わる。たとえば、機械加工時の切片ならば長辺の切りくず状、摩耗粉なら偏円状、結晶の破壊なら貝殻状となり、人体の皮膚片なら自然脱落か外力によるものかによっても形状が異なってくる。さらに耳垢は湿式か乾式かで色合いも形状も微妙に異なってくる。
一般に大気中の浮遊する塵埃には、大きさと個数に特徴的な分布がある。通常、小さな粒子は大きな粒子と比べて数が多い。それらの関係は横軸に粒径、縦軸に個数をとって図に表すと2次曲線となるが、対数に置き換えると直線になる。簡単に言えば、縦軸に個数の対数Y、横軸に粒径の対数Xを取れば、logY=−aX+bで示されるが、このように作業室空間に浮遊する微粒子の分布は一つの式で示すことができる。これを提唱者に因んでJunge(ユンゲ)の式と称している。粉塵・微粒子の種類(作業で発生する対象粒子)aによって傾き(−a)が異なるが、大きな粒子(粉塵・粗大粒子)の約1.8から超微細粒子(目安として0.1μm以下の微粒子)の約4.0を超える範囲での値を取る。クリーンルームでは概ね1.96〜2.2であることが多い。MKS単位を基本としたJISやISOのクリーンルームクラスの表示は、この関係式を用いてaの値に2.08を当てはめている。この式を用いれば、任意の大きさの粒子数が既知であれば、異なる大きさの粒子数を計算式もしくは対数で表した図でプロットすることにより、簡単に推定することができる。また、データがこの対数で表した直線上から外れる場合には、その粒径で特異な発塵があるものと見做すことで、発塵源の特定を探るのに有効な手法となる。但し、概略0.1μm以下と10μm以上の粒径には基本的に当てはまらない。
3.発塵には必ず由来がある。作業室環境内で発塵物があっても、原因の特定には至らないこともあるが、原因究明へのアプローチの仕方を工夫すれば必ず発塵源の由来の特定でき、対策も取りやすくなる。
4.発塵は時間で変化するものである。
5.発塵量は常に変動する。
このうち4. 5.の主な理由として、以下のことが考えられる。
a. 作業室内の浮遊塵埃は気流に乗って飛来してくるので気流が少しでも変化すれば塵埃量も変動する。また、気流には微妙な揺らぎもあるので塵埃も変動する。
b. 作業者が動けば気流が必ず乱れることになり、数mの範囲で気流が乱れると共に、床からの塵埃の舞い上がりも加わり塵埃量が変動する。気流の乱れは進行方向だけではなく後方でも進行方向以上に発生する。
c. 乾燥炉などの熱の発生があれば、温度差が生じ対流が起こり、塵埃量が変動する。
d. 台車が通れば、床からの舞い上がりが生じ、塵埃量が変動する。
e. 扉の開閉により気流が発生し塵埃量が変動する。
f. 容器や袋の開閉により気流が乱れ、塵埃量が変動する。
など、作業室内では気流が乱れる要因が数多くあり、再発塵も合わせて塵埃量は変動する。
6.塵埃は気流が運んでくる。発生した塵埃も気流に乗って拡散する傾向を示す。
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- クリーンサイエンスジャパン
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