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テクニカルレポート
2024.09.26
次世代電子部品 ~受動部品の役割と進化~
特定非営利活動法人 サーキットネットワーク
梶田 栄

①はじめに

感染症の世界的大流行(新型コロナ)がひと段落し、世界は落ち着きを取り戻しつつある。その中で注目されているのが半導体技術である。その背景には皮肉ではあるが、今回のパンデミックにより日常生活が大きく進歩したことがある。

第一にリモートワークが実用的になり、自宅でオンライン会議など以前は夢のような話であったが、いきなり実用化が拡大した。このためPCを含めて情報通信技術が発展した。第二にはデジタル化(DX)が加速した。第三には衛生観念が見直された。第四には宅配サービスが普及した。など考えられる。

物流では自動化の検討が大きく進んだ。これらには電子技術が必須の技術であり、半導体の進化が一番の立役者であることに異論を差しはさむ人はいないであろう。今後の動向を考えるために時代ごとに過去の電子機器を整理してみた(図1)。

図1 電子機器の発展

 

図に示すようにトランジスタが発明されて以来、通信装置や機器、情報機器、家電製品、鉄道や自動車などの輸送機器、航空宇宙産業に至るまで電子技術の恩恵を受けてきている。トランジスタの機能を引き出すためには電子回路が必要であり、それを構成するのがコンデンサやインダクタなどもろもろの電子部品である。電子部品の代表格であるコンデンサ及びコイル(インダクタ)について、最新動向を以下に述べる。

 

②電子部品に影響を与える市場

一般的には電子部品と言うと、大多数の人が半導体を想い浮べるであろう。一方、本稿のテーマである受動部品(コンデンサ、コイル、抵抗器)を想像する人は、電子産業の関係者以外はほとんどいないであろう。その受動部品であるが、過去及び現在の電子産業では重要な役割を果たしてきた。今後も同じく重要なポジションにいることができるか否かは、今後の電子技術の進む方向次第である。以下受動部品の市場を左右する市場や部品について、受動部品との関わりを含めて解説する。

 

2-1.半導体市場

受動部品の市場動向は半導体の発注状況に追随していることが知られている。これは半導体を利用するには電子部品が必須であるためである。また、半導体のリードタイムの方が電子部品より長いため、半導体の発注が早くなされるためでもある。

図2にICの世界売り上げデータのグラフを、図3に国内電子部品メーカーの受動部品販売データ及び経常利益のグラフを示す。同じような傾向を示しているのがわかる。

図2 IC売り上げグラフ(百万US$)

図3 国内電子部品メーカー受動部品販売グラフ

 

2-1-1.半導体の基本機能

半導体の基本機能は図4に示すように、

(1) 整流

(2) 増幅

(3) スイッチ

(4) 光電変換

などがある。この機能を正常に動作させるためには後述するが、電子部品が必要である。

図4 半導体の基本機能

 

2-2.通信機市場

1980年代後半から移動体通信が自動車無線として始まり、個人個人が持ち運びできる携帯電話として世界中に広がった。最新のスマートフォン(スマホ)では無線通信機能に加え、PC機能、カメラ機能、オーディオ機能、お財布機能及び電源関係の機能などが入っており、半導体をはじめ電子部品が所狭しと搭載されている。スマホ1台に使用されている積層セラミックコンコンデンサ(MLCC)の数量は800個から1,000個であり、毎年10億台から15億台のスマホが販売されているため、携帯電話が市場を牽引する力は甚大である。このため一気に通信機器業界の勢力図が描き変わったと言っても過言ではない。

製造業では「EMS(Electronics Manufacturing Service:

電子機器の製造受託サービス)」という新しいサプライチェーンが生まれたため、従来の無線通信をコアとしてきた通信機器メーカーが製造をEMSへ委託するようになった。それ以来、国内で実装作業を行っていた各社の工場が次第に姿を消し、部品メーカーにとっても実装に関するユーザーの生の声を聴くことができなくなった。加えて国内携帯電話メーカーも淘汰が始まり、現在では国内生産を行っているメーカーは激減した(図5)。

図5 国内携帯電話メーカーの推移

 

携帯電話はほぼ10年ごとに通信規格が更新され、通信速度など性能が大きく向上している。2020年から第五世代(5G)と呼ばれている規格に合った機器が市場に出回るようになった(図6)。

現在は次の規格である第六世代(6G)の開発が始まっている。

図6 移動体通信規格の推移

 

2-3.車載市場

車載とは、自動車で使用されている電子部品及びその装置のことである。自動車の電子化はトランジスタを用いたエンジン制御から始まり、現在の自動運転まで自動車の進化に大きく関わってきている。近年の自動車は電子部品の塊である。ADAS(Advanced driver-assistance systems:先進運転支援システム)が一般的になり、かつ、通信機能も充実し、自動車はロボット化してきた。加えて近年、脱炭素化の傾向が強くなるのに従い、石油系燃料を使用する自動車が敬遠される傾向が強くなってきており、その対策として電動機を動力源として用いる電気自動車(EV)やハイブリッド車が注目されてきている。これらの制御に必須となるのが電子技術である。

EV化が欧州や中国で拡大しているが、一番の課題が電池であることは論を待たないであろう。主な電池であるリチウムイオン電池は航続距離、充電時間、重量、取り扱い及び価格など課題が山積みであるが、現在は代わるものがないために広く使われている。ここで電池の代替品としてコンデンサを使用することが検討されている。後述するが次世代コンデンサの一つである電気二重層キャパシタである。これは容量が大きくかつコンデンサであるので、充電時間は短時間で済む。自動車は一台あたりに搭載される電子部品の数が多いため、電子部品の市場に与える影響は大である。