1.はじめに
2008年のリーマンショックを起因とする金融不況からの脱却が進み、その後また一時景気を失速させた2015年のチャイナショックも終息した2016年後半から、日本を含む先進国を中心に株価が大きく伸張して世界市場が好景気を迎え、それと共に先進国およびその需要をまかなう生産地となっている新興国などでは、様々な製品で要求される需要に対する供給・生産が追いつかない状況が発生し、それにより発生した労働者不足と人件費の高騰に対応するため、自動化率向上などの人的作業工数削減による省人化がクローズアップされている。
そのいっぽうで、近年、インターネット技術の発展や高速通信インフラの整備が急速に広がり、同時に大規模ストレージなどのコストダウンが急速に進む環境が追い風となってIndustrial4.0に代表される第4次産業革命の潮流が一気に広がり、その関連技術導入による「ものづくり」の効率化に対して世界的に投資機運が高まっている。
当社はこの市場状況と潮流をタイムリーに捉え、Industrial4.0の技術を積極的に活用して工場全体のさらなる効率化を進め、人的負担の軽減と製造品質の向上を同時に実現するため、最新技術によるIoT・M2M統合システム「インテリジェントファクトリー」(図1)を開発した。
図1 インテリジェントファクトリー概念図
「インテリジェントファクトリー」の導入については、そのゴールを見据えた現実的な4つのステップでのプロセスを提案(図2)しているが、その中でもステップ1、2までの中核技術となる、IoT(Internet of Things)の通信技術による表面実装ライン機器間のM2M(Machine to Machine)連携をベースとした自動化、省人化に特に注力し、積極的に提案している。
ここでは、表面実装ラインのインテリジェントな主力機器をすべてヤマハブランドで構築できる業界随一のフルラインナップ体制を、さらに強化充実させるべく新開発した最新機器と、それらのヤマハSMT(Surface Mount Technology)機器によって構築した表面実装ラインの各機器を「インテリジェントファクトリー」によってブラックボックスのない高度なM2M連携で繋ぐことにより、各機器やソフトウェアの連携相乗効果を最大限に引き出して高効率化を実現する、当社独自のコンセプト「1 STOP SOLUTION」についてご紹介する。
図2 インテリジェントファクトリー導入までのステップ提案
2.ワンブランドにより高度M2M連携を実現する「1 STOP SOLUTION」
M2M連携を基軸にした表面実装ラインの構築においては、当社製SMT機器はもちろんのこと他社機器との相互連携にまで幅広く対応を可能とし、すでにそのような他社機器混在のM2M表面実装ラインについて多くの導入実績がある。
また、SMT業界全体の大きな動きとして、当社を含んだ表面実装機の世界シェア約80%を占める日系実装機主要メーカー全4社を中心に、グローバルなSMT関連機器20社によって、企業の垣根を越えて誰もが導入できるオープンなM2M通信インターフェース世界標準仕様の策定作業が行なわれ、日本ロボット工業会の正式な仕様として、JARAS1014(ELS通信仕様)が制定されて、すでに2018年5月に公開されており、ユーザー側がメーカーごとの通信インターフェースを気にせずに、自由に選定した機器間でのM2M連携を導入しやすい環境が実現に向かっている。
しかしながら、開発思想も事業規模も異なるメーカー機器間でのM2M連携では、現実的な課題として、相互に開示不可能な機密情報が少なからず存在するために、情報連携が可能なのは基板IDやバッドマークなどの標準的な基本情報がほとんどとなること、また、リソースや事情の異なる各メーカーそれぞれが相互連携するためのソフトウェアを、同時並行的に開発するのはなかなか困難であることなど、連携によって獲得できる相乗効果のレベルにはおのずと限界が存在する。
そこで当社は、他社連携への対応を進めるいっぽうで、その限界を超えた高度なM2M連携を実現させて相乗効果を最大限に引き出し、さらなる高度な高効率実装ラインを構築可能とするべく、インテリジェントなSMT機器及びソフトウェアをすべてヤマハ製品で統一して連携させる独自のコンセプト「1 STOP SOLUTION」を強力に推進する。
当社はこのほど、後述する新開発のSMD(表面実装部品)ストレージシステム『YST15』をはじめ、印刷機、ディスペンサ、SPI(はんだ印刷検査装置)、マウンタ、AOI(光学外観検査装置)という実装ラインのインテリジェントな主力機器の、業界随一となるワンブランドによるフルラインナップを完成させた。
それらのヤマハSMT機器によって構築した表面実装ラインの各機器をIoT/M2M統合システム「インテリジェントファクトリー」によってブラックボックスのない高度なM2M連携で繋ぐコンセプト、「1 STOP SOLUTION」により、各機器やソフトウェアの相互連携効果を最大限に引き出して、真のトータルマネージメントによる高効率実装ラインを実現する事が可能である。
「1 STOP SOLUTION」によるヤマハ表面実装フルラインの例を示す(図3)。
図3 ヤマハ「1 STOP SOLUTION」表面実装ラインの例
3.「インテリジェントファクトリー」のシステム構成と機能
「インテリジェントファクトリー」は、当社実装ライン支援ソフトウェア「Y.FacT」の各機能及び、「IT Option」「QA Option」「iProDB」などのM2Mアプリケーションに新機能を追加し、さらにIoTのオープンプラットフォームを加えてシステム統合し、機能群別パッケージの集合体として整理された構造となっている。ユーザーはそれぞれのパッケージの中から必要な機能を選択し、投資規模に合わせた段階的導入が可能である。
「インテリジェントファクトリー」の各機能群パッケージ構成及び機能の概要を以下に記述する。
① プログラミング&スケジューリングパッケージ
基板データ作成、CAD・他社データ変換、最適化、グルーピングなど
② 生産支援パッケージ
段取りナビゲーション、誤段取り防止、部品残数管理、部材期限管理、部品ランク管理など
③ トレーサビリティパッケージ
製品ロットトレース、プロセス条件トレースなど
④ モニタリングパッケージ
生産性モニタリング、製品品質モニタリングなど
⑤ 分析パッケージ
機器状態分析、プロセス条件分析、品質トレンド分析など
⑥ メンテナンスパッケージ
予防保全、故障予知、遠隔リモート保守など
⑦ M2M&ソリューション
機器間相互連携、リフロー炉など他社SMT関連機器との連携、各種ラインソリューションなど
⑧ IoTプラットフォーム
インターネット・クラウド環境接続オープンプラットフォーム
- 会社名
- ヤマハ発動機(株)
- 所在地
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