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テクニカルレポート
2020.07.17
システム設計(MBSE/MBD)を見据えたモジュール化設計の検討とアディティブ・マニュファクチャリング技術の活用
(株)図研

 

 

1. テクノロジートレンドと設計のあるべき姿

 

 いまの世の中は「デジタル化社会」と言われ、新しいテクノロジー、サービスやビジネスが次々と生まれ、社会の仕組み自体が大きく変わろうとしている。

 ICT(Information and Communication Technology)、IoT(Internet of Things)、CPS(Cyber-Physical System)、AI(Artificial Intelligence)、5G(5th Generation:第5世代移動通信システム)など高度な技術への注目が高まり、自動運転、スマートファクトリー、医療・健康などの製品やサービスを取り巻く環境も変化しており、“あらゆるシステムがつながっている製品”が期待されている。

 モノづくりを取り巻く環境も大きく変わりつつあり、製品開発は複雑性が増し、これまで以上に「エレキ」、「メカ」、「ソフト」などが複雑に関係しあう、ドメインを俯瞰することができるシステム設計が重要であり、それを実現するためのMBSE 1)(Model-Based Systems Engineering)やMBD(Model Based Development)が望まれている(図1)。

 

 図1 システム設計(MBSE/MBD)の概念図

 

 

 昨年10月に行われた「Zuken Innovation World 2019 Yokohama」 2)におけるMBSE関連セッションには172社が参加。

 そのほとんどがMBSE導入の必要性を感じており、約50%が取り組みを進めるにあたっての課題を抱えているという。

 近年の製品開発は技術領域が爆発的に急増し、単一技術領域に閉じた従来のエンジニアリング手法では対応が困難であり、設計プロセスの革新が必須である。

 単一プリント基板の回路設計であれば、最新技術を盛り込んだ設計ツール・環境を使わなくても可能である。

 しかし今後の回路設計はシステム回路設計であることが必要で、より上位のシステムと密に連携し、本来あるべきフロントローディングを実現する必要がある。

 また、その回路上で動作する制御ソフトウエアにも配慮した設計が必要となることが想定される。

 それを見越して回路図を機能ブロック化し、回路検証/性能評価・検証できるブロック設計(モジュラーデザイン 3))が有効であり、試作数を最小限に抑えた設計が可能になると考える。

 

 

 

2. プリント基板設計におけるMBSE/MBDとは

 

 図研では、CR-8000 4)の開発コンセプトとして「電子機器のシステムレベル詳細設計、システムレベル検証、製造支援」を掲げており、MBSE/MBDという考え方を意識して、上流から下流工程までシステム視点での設計やレビューが可能な革新的な次世代電子機器設計のための設計プラットフォームを実現している(図2)。

 

 図2 MBSE/MBDのためのCR-8000 Design Force

 

 

 CR-8000は単一のプリント基板設計での優れたパフォーマンスだけでなく、複数枚の基板をコネクタやフレキシブルプリント配線板で接続した大規模な設計、LSIとパッケージ/プリント基板の協調設計、基板とメカ筐体の干渉を確認するエレメカ協調設計など、複数の設計対象を含むシステム全体の設計/検証/レビューが可能となっている。

 各種基板設計間の連携、同時並行による設計の水平分業、電気系PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)である「DS-2」 5)を介することで社内の購買システムと連携した部品情報管理、設計成果物管理、設計要件管理を効率的に行うことができる。

 このように設計環境やツール、いわゆる箱としてはMBSE/MBDができる環境が整っているものの、現実的には業界全体で分業化が進みデータ化・モデル化が進んでいないと感じる。

 図3は25年くらい前に書いた一般的なプリント配線板の設計工程フロー 6)であるが、レイアウト設計工程への入力情報は、外形図、機構図、回路図、部品リスト、個別仕様書、基板製造・部品実装基準など多くが図面や文書となっている。

 

 図3 一般的なプリント配線板の設計工程フロー

 

 また製造工程への出力は、ガーバーデータやメタルマスクデータ、部品座標リストとなっており、汎用性はあるものの、せっかくCADデータで持っている多くのプロパティが欠落した状態で渡されるのはもったいない話である。

 開発案件が多く、設計の難易度がそれほど高くない場合、モノづくりが円滑に進むための設計基準を作り、レイアウト設計者は与えられた条件の中で設計するという役割分担であると設計効率は良い。

 しかし、なぜそのような寸法になったのか、なぜそのような基準が採用となっているのか理由や背景を知らなければ、改善のための提案や、最適な落としどころにたどり着くことができないし、何か変更が必要になった場合、その影響範囲がどこまで及ぶかなどが分からないままとなってしまい、後から大きな問題として浮上することになりかねない。

 セットメーカーの内部で設計する場合はどんな用途で使う基板か分かって設計することが多いと思うが、設計ビューロの場合は守秘の関係などで最終製品や基板外部の情報が分からないまま設計することも多い。

 もちろん設計条件として正しく指示があればよいのだが、もれなく伝えるのは難しい。

 設計条件として多く細かく伝えるよりも基板が使われるシチュエーション、例えば自動車とか、モバイル機器という情報があれば振動が多いとか、高温多湿になるとかを想定することができ、全体を俯瞰した視点で設計をすることができ、正しい着地ができるかもしれない。

 電気特性や信頼性、コストはどのタイミングで誰が決めるのがいちばん良いか、どのように情報を連携させて活用すればよいか、非常に難しい問題である。

 うまく伝達しないと、基板レイアウトは指示どおりに忠実に特性を出したのに、コネクタ取り付けで失敗したり、特性の出ないケーブルを使うことになったり、使用環境に対して基板製造プロセスが妥当でなかったり、小さな落とし穴に気づかないまま量産まで進んでしまうようなことが起こってしまうリスクを抱えている。

 このようなことが起きないように、新しいエンジニアリング手法に向けた設計プロセスの革新が必要なのである。

 プリント基板設計においてMBSE/MBDを実現するには、図4のように上流でのMBSE設計情報を詳細設計領域へ情報連携させ、詳細設計領域では図5のようにMBDを推進し、積極的にデータ化・モデル化を進め、BOM(Bill Of Materials:部品表)やPLMを介してモノづくり工程とも情報連携させていく必要があると考える。

 

図4 MBSEの設計情報を詳細設計領域へ情報連携 

 

 

図5 CADデータを効率よく活用し、より上流で論理を作りこむ

 

 

 これらを効率的に実現するには、回路ブロックをモジュール化し、機能の組み合わせによって多様な製品を実現する「モジュラー・デザイン」という手法を推進することが重要であり、モジュール化設計という考え方が有効である。

 

 

 

3. モジュール化設計という考え方

 

 ICTの発達により、様々なデータをインターネット経由でビッグデータとして集めて活用することで、新たな経済価値を生みだそうとしている。

 それには、センシングした情報を効率よくデータ化するためにIoT技術が必要となる。

 身の回りにあるあらゆるモノ、例えばテレビ、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、エアコン、照明器具、ソファー、洗濯機、洗面台、お風呂、バッグ、靴、傘などそれらが全てインターネットにつながる世界。

 そのためにはあらゆる製品開発において、IoT機器の主要回路ブロックである、MPU、センサ、通信、電源を組み込む必要があり、全てをその都度個別に開発していては、費用、期間の面でも効率が悪く、製品そのものの価値が落ちてしまう。

 IoT向け電子機器の開発では、製品の市場投入時期が最も重要で、その大部分がソフトウエア開発であることから、ソフトウエア開発の時間軸に合わせてハードウエアを準備することが必要となっている。

 これを実現するにはモジュール化設計という考え方が有効であり、オープンイノベーション・プラットフォームである「Leafonyプラットフォーム」 7)を開発した。

 Leafonyはモジュールレベルで構成・変更ができる2cm角程度のプラットフォーム(リーフと呼ぶ)で、超小型、電池駆動が可能、オープンソース・ハードウエア(図6)/ソフトウエアで、数万本のフリーソフトがあるArduino環境で使うことができる。

 

図6 仕様公開されている各種リーフ

 

 

 独自開発のはんだを使わないコネクト技術で、Leafonyバスの仕様だけ守れば接続が可能であり、IoTセンサモジュールのシステムを直ぐに実現することができる。

 

 

 

4. デジタルツイン

 

 デジタルツインとは、「デジタルの双子」と訳され、フィジカル空間(現実世界)に存在する製品の情報などをリアルタイムにサイバー空間(仮想世界)に送り、サイバー空間内にフィジカル空間の環境と同じ状態・状況を再現することである。

 CPS(サイバー・フィジカル・システム)とほぼ同義語で使われるが、デジタルツインはサイバー空間に再現する物理モデルを意味していることが多い。

 デジタルツインの環境を活用するには、サイバー空間を忠実に再現する必要があり、データ化、モデル化が重要となる。

 また、このサイバー空間上でシミュレーションを行うには、フィジカル空間とまったく同じ状態・状況を構築し、その仮想モデルを用いて高度なシミュレーションを行うことが最も大きく期待される。

 図7はCAD上で再現したリーフ(温度・湿度・照度・加速度センサリーフ、BLEリーフ、USB電源リーフ、マイコンリーフ、CR2032コイン電池リーフ)とケースのモデルである。

 

図7 CAD上で再現したリーフのケース付きモデル 

 

 

 このモデルを使い、電気的な接続チェック、機械的な干渉チェック、電気系シミュレーション、機械・物理系シミュレーションを行うことが可能である。

 一方、現在のサイバー空間では、フィジカル空間を100%再現するところまで至っていないため、より早くフィジカル空間での再現、いわゆるモノづくりをすることも重要である。

 そのためのひとつの選択肢として、アディティブ・マニュファクチャリング技術がある。

 

 

 

5. アディティブ・マニュファクチャリング技術

 

 従来モノづくりの多くは、ある素材から切ったり削ったりして仕上げることが多く、削る部分の材料費が余分にかかったり、切削加工費がかかったりしてコスト高になっていた。

 近年3Dプリンタ技術の発展にともない注目されているのが、アディティブ・マニュファクチャリングという製造方法である。

 何もない状態から材料を積み上げることでモノを作るため、材料費や加工費などが余分にかからず、安価により早く作ることができるというメリットがある。

 今年大きな社会問題となっている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対して、3Dプリンターを使って医療従事者向けのフェイスシールドや医療機器の生産支援をしていることが発表されたことは記憶に新しい。

 大量生産が必要な分野では、多面取りした専用マスクを使った1枚あたりの生産性が高いサブトラクティブ・マニュファクチャリングを、一方で試作評価や、緊急性が高いモノづくり、製造数量が少なく特注部品が多い分野ではマスクレスで1個から手元で安価に製造が可能なアディティブ・マニュファクチャリングに移行する流れが進んでいくことが予想される。

 

 

会社名
(株)図研
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