3.北米の手はんだ付け産業の実態
写真1 部屋から見た雪景色
いよいよ今回の本題になるのだが、中小企業の海外進出にあたっては、とにかく勇み足で行うのではなく、前段階として最低限準備しておくべきその情報について前述してきた。これはとても大事なステップになるので、海外進出を考えられている場合はぜひご留意いただきたい。
さて、私は2012年の年明けからアメリカ西海岸のシアトルに渡った。アメリカに足を踏み入れたのは今回が初めてなのだが、なんとタイミングの悪い事か、シアトルでは珍しく降雪にあたった。しかし降雪後にホテルの部屋からみた外の景色から受ける印象はなんとも清々しく、心地よさを感じたものだ(写真1)。
今回の北米回遊は西海岸からはじまり南部、そして東部とまさに北米横断の旅になった。
1.西海岸
まずは西海岸だが、日本企業が北米進出を検討した場合に取りかかるエリアとしては、渡航や文化の馴染みの面から見ても始めは西海岸からにするものと思う。では当社がなぜ初めて訪問する地をシアトルにしたかといえば、同地には前述したピンポイントマーケティング社の拠点があり、今回の訪問先については同社にてアポイントを取りまとめていただいたという経緯があるからだ。事前に英語版のカタログを客先に送付し、興味を持ってくれた企業を訪問するアテンドも、同社に担当していただいた。語学力に乏しい私としては心強いパートナーだ。
西海岸エリアでは、ワシントン州シアトル近郊とオレゴン州ポートランド近郊でエージェントを中心に訪問させていただいた。アメリカでの営業活動がはじめてなだけに期待と不安が入り交じった状態での訪問だったのだが、どの企業でも私を快く迎え入れてくれたのですぐになじむことができ、様々な情報を入手することができた。
西海岸のエリアでは、手はんだ付け産業は主にマーケットに出た製品の修理やメンテナンスなどアフターが中心だとのことであった。このため、一企業単位では消耗品の使用頻度は低く、当社製品の需要は大きくないらしい。完成品のターゲット先やサービス業、海路の窓口としての倉庫業などの需要の方が高そうだと感じた。訪問先の担当者はとても親切に説明してくれ、一通り取り扱っている手はんだ付け製品を見せてくれたり、同業界で抱えている課題や今後の見込みなどについてもアドバイスをしてくれた。
2.南部
次に南部のテキサス州ダラスに移った。こちらでもエージェントを中心とした企業訪問になるのだが、西海岸とは印象が全く異なり、生産現場でのニーズが存在しているとのこと。詳しく話を聞いてみることにしたのだが、どうやらやはりテキサス州自体としては生産産業は衰退の一途をたどっているようであり、はんだ付け用こて先の需要も高くはないらしい。それではエージェントはどの地をターゲットとして考えているのかといえば、その答えは隣国のメキシコのようだ。
テキサス州というのはもともと1800年代初頭まではメキシコ領土で、その後に独立国家を経てアメリカ合衆国の州として成立している。この経緯からもわかるように、メキシコとは非常に近い位置関係として商圏が存在している。商圏は歴史に左右されている傾向が強いので、この結果も理解できる話だった。
ただ、メキシコといっても領土の中にまで入り込んでいるわけではなく、製品のターゲット市場は北米やカナダになる。このため、アメリカの生産拠点はとメキシコの国境(ボーダー)付近に集中し、人件費の面で有利なメキシコ側に多くが存在しているということになる。今回の北米回遊ではメキシコ側まで視察する時間がなく、実際の確認はできなかったのだが、北米の大規模な産業展示会の拠点としてサンディエゴが有名であることも、これらの話とつじつまが合う。いつか自分の目で確認したいと考えている。
3.東部
写真2 DENSO
写真3 TEN-TEC
写真4 TEN-TECでのはんだ用こて先の最適化相談
最後の移動先は、東部テネシー州のノックスヴィル近郊だった。このエリアではエージェントだけでなく企業訪問も実現することができた。実際の作業現場に入らなければ同エリアの手はんだ付け産業の実情は把握することができないので、私にとっては非常に喜ばしいことだった。デンソー社(DENSO Munufacturing Tennessee, INC.、写真2)や八木アンテナや、モールス信号で人気のあるテンテック社(TEN-TEC, INC.写真3、写真4)などに立ち寄らせていただいた。
アメリカ東部の手はんだ付け産業は、西海岸と同じように製品修正やメンテナンスなどのアフターが中心のようだ。ただ、宇宙工学の存在や北東部には航空産業や自動車産業なども発達していることから、大規模な生産工場も一部には存在している。アメリカの工場にあたるメキシコボーダーからも少し離れていることが一因となっているのかもしれない。自社内のはんだ付け生産工程で発生する問題への、手はんだ付け作業による対応を自社内で行っているのだろう。少しまとまって需要があるような話もいくつか耳にした。
4.ボーダー(border、国境)という考え方
さて、以上のように足早に説明をしてきたが、要するに北米市場と一括りにしても、エリアごとにその特性が異なっている、というのが率直な感想だ。さらに細分化すれば、より特徴的なニッチ市場も存在することだろう。だが今回もっとも強く理解できたことは『アメリカの生産現場は隣国に移っている』という現実だ。メキシコとのボーダーにある生産拠点は、間違いなくアメリカマーケットを取り込んでいる。
このことを認識した時に、私は中国のことを思い出した。大連や青島などの華北、上海を中心とした華東、そして香港まで取り込んで肥大化する華南。これらを結ぶラインは、他のアジア諸国からみた場合にアメリカとメキシコの関係に非常に似ているように思えてならないのである。それらの境には国のボーダー(国境)という大きな線引きがあるのだが、産業面からみても発展国と後進国のボーダーになっていることは間違いなく、先進国は安い人件費を求めてボーダーに集まり、後進国は労力を提供する代わりにボーダーで生産された製品を先進国に流して内需を高めているのだ。
ただ、北米とアジア圏との間で明らかに違うことは、アメリカという先進国側が領土や市場規模ともに大きいのに対して、アジア圏では中国という領土や市場規模ともに大きな大国が生産拠点まで保有している、という状態だ。なんとも危険な気がしてならないが、アメリカのボーダーと中国のボーダーという地球に描かれている二つの大きなラインには今後も注目していきたい。
5.最後に
この度のアメリカ訪問では非常に有意義な時間を過ごせ、貴重な体験をさせていただいたと感謝している。降雪エリアから始まって、半袖で年間を過ごせるエリアや日中マイナス10℃のエリアなどがあり、肌の色にも表れているように、それぞれの地に歴史や風土の違いなどが当たり前のように存在し、それらが文化や産業を形成してきたのだろう。
これまでにも経験してきていることなのだが、それらに少しでも頻度多く触れることで、アメリカがもつマーケットの色や匂いを感じつつ当社の今後の活動に活かしていきたいと考えている。
北米の手はんだ付け産業における全体的な印象としては、アジアほどセールス領域でのライバルが存在しないためか、エージェントが非常に余裕をもって仕事をしていると感じた。一方のメーカーでは、産業の発展度合いが高いのだろう、担当者がみな意欲的な印象を受けている。今回当社の製品に興味を抱いてくれた企業が同じような特徴をもっているからであるのかもしれないが、価格競争に終始しているアジアや東南アジア諸国とは違って、当社製品の特性を十分に伝えることができたのは理想的だった。流石に産業先進国のアメリカだと納得して帰国の途についた。今回お会いしたいくつかのエージェントとは今後も継続してお付き合いを行い、市場の情報入手や弊社製品の紹介機会につなげていきたい。
私は2007年からの中国での営業活動で、いくつかの北米系企業の工場にも訪問しているが、この時には、当社製品に対して一様に高い評価はいただくものの担当者の最終的な言葉として『導入するために本土(北米本社)の使用許可をもらってくれないか』と依頼されるケースがとても多かったものである。当時の当社には非常に遠い地であったため成す術もなく、またその後も北米系企業の工場訪問にも躊躇していたのだが、今回からお付き合いが始まるエージェントはこれらの本土側のフォローについても約束してくれたため、今後は遠慮なく北米系企業の工場にも足を運べる環境ができたことも大きな成果だ。
そしてボーダーという考え方である。この認識を得られたことは、資本やマンパワーに乏しい中小企業が海外進出するうえで非常に大きな戦略的要素であり、今回北米訪問の中でももっとも大きな収穫となった。
今後も当社ではますます積極的に生産現場にまで足を運び、手はんだ付けのアドバイスや作業支援を継続していきたいと考えている。少しでもお役に立てることがあれば全力でサポートさせていただくので、ぜひ気軽にご相談をいただきたい。
- 会社名
- セラコート工業(株)
- 所在地
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