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テクニカルレポート
2026.04.21
リチウムイオン電池の事故・火災と安全性評価
-事故の仕組みを理解し、安全に使って安全に廃棄するために-
(株)ケミトックス 北杜LiB試験センター
坂本 清彦

③リチウムイオン電池の事故・火災事例

リチウムイオン電池に起因する事故・火災は、その用途の拡大とともに多様な分野で報告されており、発煙や発火、さらには爆発に至る深刻な事象も少なくない。

とりわけ近年は、私たちの身近な環境における事故が顕在化している。2025年の夏は記録的な酷暑となり、その影響もあって、JR山手線、上越新幹線、東海道新幹線、成田エクスプレスにおいて、モバイルバッテリの発煙・発火によるトラブルが相次いで報告された。モバイルバッテリの事故を重く見た国土交通省では2026年4月中旬より、航空機内におけるモバイルバッテリの使用を原則禁止とする方向で検討が進められている。

さらに、同様に深刻な問題となっているのが、廃棄段階における事故である。モバイルバッテリをはじめとするリチウムイオン電池が適切に分別されず廃棄された結果、ゴミ処理施設で火災が発生する事例が各地で相次いでいる。2024年12月には、茨城県守谷市の不燃ごみ処理施設において搬送コンベア付近から出火し、施設の一部が損傷する事故が発生した。この事故では復旧費用が約40億円に上り、完全復旧までに2年半以上を要する見込みとされている。また同時期には埼玉県川口市や鹿児島県霧島市でも類似の火災が発生し、さらに2025年12月には東京都江東区においても同様の事例が報告されている。

リチウムイオン電池は私たちの生活の中で広く使われている一方で、見た目では電池の有無が分かりにくい製品も多い。そのため、誰もが容易に電池の存在を認識でき、適切な方法で廃棄できる仕組みを整えることが急務であると考える。

 

④安全性評価の考え方

リチウムイオン電池の安全性評価は、各種規格に基づく試験を中心に構築されている。代表的なものとして、外部短絡試験、過充電試験、圧壊試験、釘刺し試験(図3)などがあり、セルや電池パックが異常条件下でどのような挙動を示すかを確認するものである。これらの試験は、リチウムイオン電池の安全性を一定の基準で評価する上で重要な役割を果たしており、設計段階における基本的な安全確認として不可欠である。

図3 リチウムイオン電池の釘刺し試験の様子

 

しかしながら、規格試験に適合していることが、そのまま実使用環境における安全性を保証するものではない。実際の事故・火災は、規格で想定された条件とは異なる複合的な要因によって発生することが多い。例えば、経年劣化した電池に対する外力の影響や、充電制御の不具合と高温環境が複合的に作用することで、想定外の挙動を引き起こすケースがある。また、セル単体では問題がなくても、モジュール化・システム化された際には、セル配置や放熱設計、機械的拘束などの構造的要因により、セル単体では顕在化しないリスクが発生する場合がある。

最近の様々なリチウムイオン電池の事故・火災を受け、弊社でも電池セル単体だけでなく、周辺部品を含めた製品や輸送時における安全性を確認するための各種試験・性能試験を実施している。これらの試験は幅4m×奥行き3m×高さ3.5mの鉄筋コンクリート製試験室で行われ、容量1200Whまでの電池サンプルに対して安全性試験を実施できる設備を有している。これにより、実使用環境を想定した異常条件下での挙動確認や、構成部材の影響評価を精度高く行うことが可能となっている。

このような背景から、安全性評価において最も重要なのは、「どのような異常を想定するか」という視点である。すなわち、実際の使用環境や誤使用、故障モードを踏まえたシナリオベースでの評価が不可欠となる。規格試験はあくまで基準であり、それを出発点として、対象製品の用途や使用条件に応じた追加的な評価を設計することが求められる。安全性は試験項目の網羅ではなく、想定される異常の質によって大きく左右されるものである。

 

⑤事故を防ぐための現実的アプローチ

リチウムイオン電池の安全性は、設計や評価だけで完結するものではなく、使用から廃棄に至るライフサイクル全体で確保されるべきものである。すなわち、「安全に使い、安全に終える」という視点が極めて重要となる。

まず、使用時においては、過充電や過放電を防ぐ適切な充電機器の使用、強い衝撃の回避、高温環境を避けるといった基本的な管理が求められる。また、発熱や膨張、異臭といった異常の兆候が見られた場合には、速やかに使用を中止することが重要である。こうした基本的な取り扱いの徹底が、多くの事故を未然に防ぐ。

一方で、近年特に深刻化しているのが廃棄段階におけるリスクである。使用済み電池が適切に分別されず廃棄された場合、外部短絡や圧壊により発火し、ゴミ収集や処理工程で火災を引き起こす事例が相次いでいる。この問題に対し、欧州では「バツ印付きごみ箱マーク(crossed-out wheeled bin)」(図4)の表示が義務付けられており、家庭ごみとして廃棄してはならないことを直感的に示している。こうした統一的で視認性の高い表示は、利用者の分別行動を促す上で有効に機能している。

図4 欧州のバツ印付きごみ箱マーク

 

これに対し、日本国内では電池単体には識別表示があるものの、製品に内蔵された場合にはその存在が認識されにくいという課題がある。分別回収の仕組みも一様ではなく、利用者にとって分かりやすいとは言い難い。今後は、電池が搭載されていることを誰もが容易に認識できる表示や、統一的な回収システムの整備が強く求められる。

さらに重要なのは、一般消費者が「その製品にリチウムイオン電池が使われている」という認識を持つことである。この理解があれば、廃棄時の適切な分別だけでなく、日常の取り扱いにおいても衝撃や高温を避けるといった注意が促され、また異常時においても早期に使用を中止するなど、より適切な対応が期待できる。すなわち、表示や情報提供は廃棄段階にとどまらず、使用段階の安全性向上にも寄与する。

このように、リチウムイオン電池の安全性は、設計・評価・運用に加え、使用者の理解と行動、そして社会的な回収・表示の仕組みまで含めて初めて確保される。技術と制度、そして利用者の認識が一体となることが事故防止の鍵となる。

会社名
(株)ケミトックス 北杜LiB試験センター
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東京都大田区上池台1-14-18