①はじめに
前回は、リバーエレテック社とその技術について、従来型アナログ式AEセンサの概要とその問題点について報告をした。
本稿では、水晶発振子の専門メーカであるリバーエレテック社と共同開発したデジタル式音響コム型AEセンサ(QDセンサ)の開発、特に試作第1号QDセンサについて報告する。
②AEセンサにおける従来方式、新方式、最新方式の特徴
図1はAEセンサの従来方式、新方式、最新方式の進化の特徴を示す。AEセンサの従来方式では、AEセンサからの信号は、ノイズ対策のためのバンドパス回路や測定対象の周波数領域を明らかにするためのFFTなどの信号処理装置が必要であった。そのため、AE信号の計測のための手間とコストがかかった。また、得られた信号は計測処理装置を経由するため実時間計測ができなくなり、リアルタイム性が得られなかった。といった大きな問題があった。新方式のデジタル式音響コム型AEセンサでは、測定対象の周波数領域が一部に限られるものの、上記の「計測のための手間とコスト」と「実時間計測ができない」という問題は解決できた。そして、最新方式では、どこにでも適用できるように「小型化」や「高精度化」という社会的な要望に対応すべく開発がすすめられた。
その最新方式のデジタル式音響コム型AEセンサの開発がリバーエレテック社と(株)武藤技術研究所とが協力して2017年10月からスタートした。市場調査から始まり、従来のAEセンサの特性確認、能動素子の水晶発振器から受動素子の振動センサへの転用の可能性の確認、そして水晶を受動素子とした振動センサ開発の方向性の検討、そしてデジタル式音響コム型水晶AEセンサ、QDセンサの開発について検討に至る。
③QDセンサの開発開始
3-1.音響コム型AEセンサにおける多摩川精機(株)のセンサとリバーエレテック社の QDセンサの比較
繰り返すが、QDセンサとは、リバーエレテック社と(株)武藤技術研究所が開発した水晶を用いたデジタル式音響コム型AEセンサである。QDとは、「Quartz-Digitizing」、つまり「 “水晶”でAE信号を”デジタル化”」するという意味で、FFT解析などの信号処理装置が不要で、出力信号リアルタイムモニタリング(実時間監視)ができる。
図1に示したように従来のAEセンサの問題点は、観測者が容易に従来AEセンサの信号を確認するには、FFT解析などの信号処理装置が必要で、そのための手間とコストが不可欠である。したがって、リアルタイムモニタリングができないという短所があった。これに対して、デジタル式音響コム型AEセンサの進化版QDセンサの長所は、リアルタイム・モニタリングができて、さらに図2に示すようにTFX-05Xの製造技術を転用して、音響コムを小型化し、さらに高精度化した。
3-2.QDセンサの音響コムの原理
図3はQDセンサの音響コムの原理を示す。すなわち、種々の周波数を含むAE音源は図3に示すようにQDセンサ内の例えば8つのチャンネル(以下、CH)のカンチレバーで共振した信号をピッキングするように選別して、同時的に8CHのAE信号として出力する。電気的にはメカニカルフィルタのような機能を有する。
その大きな特徴は以下の通り。
・QDセンサの音響コム(櫛)は複数のカンチレバーで構成される。
・各カンチレバーは目的の固有振動数のみを検知し、AE音源を周波数弁別してセンシングする。比較的高いS/N感度を有す。
・各カンチレバーは目的の固有振動数を検知するように設計できる。また、複数CHのカンチレバーで複数信号を同時に検知をえる。
3-3.QDセンサの特性(長所・短所、AE信号の種類)
表1は振動やAEにセンサに使われる材料として、一般的な水晶と今回使用するフォトリソ水晶、そして従来のAEセンサに使われるピエゾ素子の長所と短所をまとめたものである。水晶は時計や高精度計測機器に、ピエゾ素子は圧電スピーカやセンサなどに広く使用される。一般的な水晶は、伝統的な製造プロセスにより、比較的低コストで高精度の制御が可能であるが、小型化や特殊用途には限界がある。これに対して、フォトリソ水晶は、微細な構造や特殊用途に最適化された製造が可能で、高精度や高速応答が求められる分野に向いているが、製造コストが高く、技術的制約がある。
本QDセンサは、表1中のフォトリソ水晶を使用するが、特にQDセンサ特性としての長所と短所を表2にまとめた。
AEセンサで取得できる信号には、突然発生する地震のようないわゆる突発型のAE信号とモータやベアリング等の回転で発生する連続型のAE信号に大別される。前者は従来のAEセンサが得意とする対象で、後者はQDセンサが得意とする。
- 会社名
- (株)武藤技術研究所
- 所在地
- 神奈川県相模原市緑区大島2695-18
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