3.チキソ剤
図5 チキソ剤のゲル化イメージ
図6 チキソ剤の効果
図7 スパイラル型粘度計での測定
1.はんだ粉の沈降防止
チキソ剤は、ソルダペーストにのみ加えられる。ペースト粘性の指標であるチキソ性を調整し、印刷性に影響を及ぼすことから、チキソ剤と呼ばれることが多くなったが、当初は、はんだ粉とフラックスの分離を防止する添加剤として、分離防止剤、ゲル化剤、ワックスなどと呼ばれていた。
ソルダペーストは、高比重(SnベースPbフリー:7.4g/cm3)のはんだ粉と低比重(1g/cm3程度)のフラックスを混合しており、そのままでは粒が沈降する。そこで、フラックスをゲル状にして沈降を防止する必要があり、ゲル化剤としてワックスが添加された。身近な例では、てんぷら油の処理剤を考えるとわかりやすい。80℃以上で油に処理剤を添加した時は液状だが、冷えるとゲル状になり廃棄することができる。これと同様の状態にして、はんだ粉の沈降を防止するためにチキソ剤が添加される。ゲル化の機構は長鎖の脂肪酸などに付加した−OH(水酸基)の水素結合により強化されると考えられる(図5)。
図6にチキソ剤有無の状態を示す。溶剤にチキソ剤を添加するだけで白濁し流動性がなくなっており、チキソ剤を添加していないソルダペーストではフラックスが分離している。
2.チキソ性、チキソ比
当初、はんだ粉の沈降防止のために添加されたゲル化剤は、実装部の微細化にともない、精密印刷の指標となるチキソ性に大きく影響することわかってきた。
ソルダペーストを撹拌する時、初めは撹拌するのに大きな力が必要だが、撹拌速度を上げると軽い力で撹拌できるようになる現象をチキソ性と呼ぶ。粘度計の測定では、回転数と粘度のデータから得られる傾きから、チキソ性の程度を表す指数となるチキソ比を求める。図7に、ソルダペーストの測定事例を示す。チキソ比が高く傾きが大きいほどチキソ性は強いことになる。
粘度、チキソ比を積極的に指標として利用し始めたのは、1980年代に開発されたスパイラル型粘度計の出現が大きい。それまで使用されていたスピンドル型粘度計は、ソルダペーストの測定には適しておらず、ばらつきが大きく信頼できるデータが得られなかった。スパイラル型粘度計を使用することで、チキソ比や粘度が比較的正確に測定できるようになり、ペーストの印刷特性を測る指標として一般的になった。
3.粘度、チキソ比と印刷性
図8 チキソ剤が粘度、チキソ比に及ぼす影響
図9 使用されているソルダペーストの粘度/チキソ比
微細印刷では はんだ粉のサイズはもちろんだが、ペーストの粘度とチキソ比が大切な指標となる。図8にチキソ剤量を変えた場合の粘度、チキソ比の変化を示す。この例では、2wt%のチキソ剤量変化で、粘度60Pa、チキソ比0.05程度変化している事がわかる。少し古い資料になるが、図92)に、使用されているソルダペーストの粘度/チキソ比の範囲を示す。高粘度低チキソ比、低粘度高チキソ比の領域で使用されることが多い。ただし、0.8mmピッチを超えるような部品だけを実装した基板では、作業性や条件設定の容易さを重視し、粘度100?150Pa、チキソ比0.3?0.4の低粘度低チキソ比のソルダペーストが使用される場合もある3)。印刷性が最重視されるはんだバンプ形成用のペーストでは、印刷機やメタルマスクの性能向上にも支えられ、これまででは考えられなかった、粘度300Pa、チキソ比0.72という高粘度高チキソ比の製品も市販されている。
粘度、チキソ比は、印刷性の重要な指標ではあるが、この指標だけで判断する事は難しい。現状ではこれらの指標を参考に、実際に印刷して評価することが必要であろう。
4.その他
これまでフラックスの主要4成分について述べた。他にもより良い材料の開発を目的に各種添加剤の適応も検討されている。たとえば微細化の進展に伴い印刷性の向上を目的に、滑剤を添加する報告もある4)。これは、マスク穴の壁面とペーストの滑りを良くし、印刷抜けの向上を目的とする試みである。他にもフラックスによる腐食を軽減する目的で酸化防止剤を加えたり、つや消し剤や消泡剤が添加される場合もある。
5.最後に
5回にわたってロジン系フラックスを中心に、フラックスの役割や成分について記した。はんだ付け関係の書籍を読んでもフラックスに関する項目は薄く、よくわからないことが多いと感じていた。少しでもわかりやすく伝えたいと考え、本誌の誌面を借りて書かせていただいたがいかがだったろうか?話が混乱しないように、短めに断定的な書き方をしたことと、著者の残学があいまって、正確とはいえない記述があることと思うが、ご容赦いただきたい。
当社クオルテックでは、実装技術に限らず、はんだ材料、基板、めっき、分析、部品などの技術者を揃え、不具合解析、信頼試験、技術コンサルタント、受託開発、試験サンプル作製など各種技術サービスを行っている。何かお困りの事があれば声をかけていただきたい。
参 考 文 献
1)高橋、“ペースト印刷時の経時劣化とその試験方法”、エレクトロニクス実装技術、Vol.27、No.5、pp.34−37、2011
2)仲田周次 編著:これからのマイクロソルダリング技術,初版,工業調査会,144,1992
3)友松道範:はんだ印刷技術Q&A,初版,日刊工業新聞社,115,2002
4)たとえば、特開2008-110391,はんだペースト組成物
- 会社名
- (株)クオルテック
- 所在地
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