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テクニカルレポート
2026.04.21
リチウムイオン電池の事故・火災と安全性評価
-事故の仕組みを理解し、安全に使って安全に廃棄するために-
(株)ケミトックス 北杜LiB試験センター
坂本 清彦

①はじめに

私たちの生活様式の変化とともに、多くの電気・電子機器にリチウムイオン電池が使用されるようになった。スマートフォンやノートパソコンはもちろん、夏の酷暑対策としての空調服やハンディファン、さらには美容機器やモバイルバッテリ、ワイヤレスイヤホンなど、生活を便利で魅力的にする多くの製品において、リチウムイオン電池は不可欠な存在となっている。また、カーボンニュートラルの流れを背景に、電動モビリティや定置用蓄電システムへの採用も急速に拡大している。

一方で、図1で示すように、市場におけるリチウムイオン電池の普及拡大にともない、これが原因とみられる発煙や発火といった事故・火災も増加している。2026年1月に総務省消防庁が発表した「リチウムイオン電池等から出火した火災の調査結果」によると、製品別の火災件数ではモバイルバッテリが最も多い。発火要因としては、外部衝撃や高温環境下での使用・保管などが挙げられるが、原因が特定できない事例も多く報告されている。

図1 リチウムイオン電池等から出火した火災件数の推移(年別)

 

リチウムイオン電池は、ニッカド電池やニッケル水素電池に比べ、エネルギー密度が極めて高く、軽量化・大容量化を実現する上で不可欠な二次電池である。その一方で、高いエネルギーを内包するがゆえに、適切な取り扱いと安全性評価が強く求められる。

 

②リチウムイオン電池の基本構造と電池の種類

リチウムイオン電池は、正極、負極、電解液、セパレータから構成される。図2に代表的な円筒型リチウムイオン電池のカットモデルを示す。充電時には、リチウムイオンが電解液中を移動し、セパレータを通過して正極から負極へと移動する。一方、放電時には負極に蓄えられたリチウムイオンが正極へと戻ることで電流が取り出される。電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF₆)などのリチウム塩を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)といった有機溶媒に溶解させたものであり、さらに電池性能や安全性を向上させるための添加剤が少量加えられている。セパレータは、正極と負極の接触による短絡を防ぎつつ、リチウムイオンのみを透過させる多孔質膜であり、安全性を担保する上で極めて重要な役割を担う。一般にはポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)といったポリオレフィン系材料が用いられている。

図2 円筒型リチウムイオン電池のカットモデル

 

また、リチウムイオン電池には、内部で発生したガスを外部へ放出して過度な圧力上昇や破裂を防ぐベント機構が設けられており、円筒型リチウムイオン電池では、安全機構として過電流を抑制するPTC素子や内圧上昇時に電流を遮断するCID(Current Interrupt Device)が内蔵されている。これらの安全機構は異常時の挙動制御に重要な役割を担うが、すべての異常を防ぐものではなく、使用条件や外部環境によっては十分に機能しない場合もある。そのため、これらの機構に依存するだけでなく、適切な設計および使用が重要である。

電池の種類は、主に正極材料の違いによって分類され、その代表例を表1に示す。

表1 リチウムイオン電池の分類

 

負極には一般的にグラファイト(黒鉛)が用いられるが、チタン酸系(LTO)ではチタン酸リチウムが使用される。

エネルギー密度は表の上段に位置する材料系ほど高く、下段にいくほど低くなる。一方で、安全性はこれと逆の傾向を示し、エネルギー密度との間にトレードオフの関係がある。すなわち、表1の下段に位置する材料系ほど熱的安定性に優れ、安全性が高い傾向にある。

なお、最上段のニッケル系(LNO)は、熱的安定性が低くサイクル寿命が短いため、単独で使用されることは少なく、コバルトやマンガンと組み合わせた三元系(NMC)やNCA系(Ni-Co-Al)の材料として利用されるのが一般的である。

会社名
(株)ケミトックス 北杜LiB試験センター
所在地
東京都大田区上池台1-14-18