1. はじめに
これまでの工場作業は、人間が重い荷物を運んだり、細かい作業をしたり、指示を出したりといった大きな工数が問題となっていた。
また、前回の記事(同年11月号)で紹介したように、工場の生産性を阻害し効率化ができない要因として、少子高齢化による働き手不足を例に挙げた。
さらに近年では、製造拠点の海外移転、海外企業の日本への進出など、製造業をめぐる社会情勢はめまぐるしく変化している。
このような状況下において、製造業にとって「生産性の向上」は、会社の将来を左右する最重要項目と言っても過言ではない。
利益を増大して会社存続を確実なものとするため、生産性の向上を図ってみてはいるものの、具体的な方法が分からないという企業が多いのも現実である。
そこで今回は、前回11月号の続きとして、多くの企業が取り組んでいる工場の自動化について、さらに掘り下げた内容を解説する。
・ 工程の自動化を検討している
・ 生産性の効率化を図りたい
・ 省力化、省人化してコストダウンしたい
・ 人的ミスを減らし品質向上したい
AIの進歩やIoTの導入ばかりが話題になる昨今、工場作業の自動化を進める参考にしていただけたら幸いである。
なお、本来であれば写真やグラフを併せて使用することでより具体的にご紹介したいところであるが、守秘義務の観点から、今回は文章だけでの構成とさせていただいている。
この点について、あらかじめご容赦いただきたい。
しかしながら、「自動化の実現」にあたって大切な考えについては十分に示しているつもりであるので、ご参照いただければと思う。
2. 工場の自動化と工程を自動化する企業が増えている理由
少し前回の記事(本年11月号)と重複するが、この部分は重要なので改めて説明する。
工場の自動化とは「ファクトリーオートメーション」とも呼ばれる。
工場における生産工程の自動化のことになるが、ファクトリーオートメーションを略して「FA」と表記することもある。
以前は、工程内検査などでは人間の目によって検査を行ってきたが、検査ミスなどにより不良が流出することに繋がるため、検査機を導入して自動化を進めてきた。
また、さらに古くから考えれば、重い材料を人力で運ぶような作業では、運搬機器を導入して落下の危険性なく自動で運ぶことを可能にしてきた。
このように、はるか以前から工場における自動化の取り組みは行われてきたが、特に近年になって生産ラインの自動化が重要度を増してきたことには、原因がある。
自動化の重要さを感じている企業数も多いばかりか、すでに自動化に向けた取り組みを行っている企業も多い。
ではなぜ、最近になってますます工場の自動化が注目され、導入する企業が増えているのか?
その理由としては、
① 海外も含めた人件費の高騰
② 圧倒的な人手不足
③ 加速的な生産性向上の必要性
が挙げられる。
詳しい内容については、前回の11月号を読んでいただくか、直接当社へ問い合わせていただきたい 1)。
これまで人件費の安かった海外の拠点においても、人件費の高騰は問題となっており、これまでのような生産体制を確保できなくなってきた。
また、世界的に働き方の多様性は増しており、人手不足は一過性のものではなく、むしろ今後は更に大きな流れとなっていくと予想される。
このような状況下では、生産性を確保することも、問題が解消されるまで未来に期待することもできない。
そこで工場の自動化がさらに注目されたのである。
3. 生産性と自動化
生産性の向上という言葉はよく聞くことと思う。
そして実際にどの企業でも生産性の向上には取り組んでいるのをよく見かける。
では何をもって「生産性が向上できた」と言えるのだろうか?
この答えは製造業においては簡単である。
製造業のおける生産性の向上は、「製造量の増加」である。
つまり、以下の計算式で現すことができる。
『生産性=製造量÷生産資源』
ここでいう「製造量」とは、製品の数量である。
では「生産資源」とは何であろうか?
「生産資源」とは、製品を製造する為に必要な、原材料や人件費、製造設備や電気代などである。
生産性を向上するためには、製造量は増やす他にない。
生産資源をどう減らせるか、が重要になってくる。
材料のコストダウンは、これまでも行ってきたことであろう。
すでに限界に近いと感じる。
これ以上、原材料からコストダウンを行えば、品質に問題が出てくるからだ。
また、製造設備を減らすこともできない。
製造量に直結するからだ。
場合によっては設備投資を行い、製造量を増加させて、早めに償却するのがもっとも効率的である。
そうすると、残っているのは人件費である。
かといって人手不足な状況であるから、直接的に人を減らすことはできない。
むしろ、「その作業に従事する人数」や「作業に掛かる時間」を生産資源として減らしていくことで、生産性を向上させるべきである。
この部分こそが、工場の自動化に向けた重要なポイントであり、生産性を向上させることに繋がる。
つまり、費やす人的資源に対して、製造量の比率を上げることができれば、生産性は向上するのである。
4. 自動化のメリット
生産性を向上させることによって、得られる利益が増大することが見込める。
しかしそれは、品質が担保されている事が条件となる。
これまでは、人手を介して生産性(=製造量)を向上させた場合、品質が不安定になり利益が最大化できないことがあった。
工場の自動化では、これを解消できる事が最大のメリットとなる。
つまり、工場の自動化における最大のメリットは、製造した製品品質を安定的に担保できること、このことに尽きる。
そのためには、これまでのように業務に関わる従業員が、それぞれ独自の方法で作業を行っていては達成できない。
このような場合は、作業速度や技術力・技能力にばらつきが生じ、品質が安定しないからだ。
ノウハウや高い技術こそ、標準化して全従業員で共有することが重要だ。
その共有に必要な「ツール」として、システムの導入、画像や動画など、社内インフラを整えていくことが重要である。
特に品質に直結するであろう「4M」については自動化や機械化を行うと良い。
製造に関わるトラブルは、この4Mに起因していることがほとんどだからだ。
ちなみに4Mとは、
・ Material:原材料
・ Machine:機械設備
・ Method:作業方法
・ Man:作業者
の4つで、近年ではさらに
・ Media:情報
・ Management:管理
・ Environment:環境
を加えて「6M1E」などと呼ばれたりもするが、やはり重要度でいえば上記の4Mの影響が大きいであろう。
その中でも特に「Man:作業者」は、その他、すべてのMに関係する重要な部分であるため、曖昧さや不明瞭さを残さない、機械化や自動化の効果が大きいポイントとなる。
これを踏まえたうえで、自動化によるメリットを3つにまとめ説明する。
上記内容と重複するが、まとめて簡潔に説明した方が情報の整理がしやすい。
1.生産性の向上
ロボット化などの機械化や、自動化された製造ラインでは、24時間稼働し続ける事が可能である。
もちろん交代勤務などによって、現在でも24時間稼働している工場があることは承知している。
ここでいいたいのは、ムダやムラなく24時間「安定して」稼働可能、ということだ。
作業者ごとの差や、作業班の交代の際の引継ぎ、などの変化点が自動化ラインにはない、ということである。
実際に当社がコンサル指導した企業では、自動化したラインにおいて、作業者を1/2にしたにも関わらず、生産量は従来の2.8倍になったケースもある。
24時間稼働に限った話ではないが、何をどう自動化にしていくか、によって生産性を向上できる幅や効果が変わってくるのは現実であると感じる。
2.品質の安定
熟練した作業者であっても、品質や製造量にばらつきが生じるものである。
ましてや、工場には熟練者から新人まで、技術や技能における格差が生じているのが当然であるから、更に品質や製造量のばらつきは大きくなる。
ようは、人手による作業の場合
・ 作業者の熟練度
・ その日の体調
などの理由により、製造量や品質はばらつくのだ。
機械化やロボット化、自動化を進めることによって、このようなばらつきがなくなる。
誰が操作しても、一定の数量、一定の品質を担保できる。
3.人的資源の削減
上述したように、当社が指導した企業においても作業者数は1/2に削減できた。
そればかりか、その作業者には他の作業や管理を担当してもらったわけであるから、実質的な人的資源の効果としては4倍になる。
ここで重要なのは「何人減らせたか?」ではない。
これまでの省人化の考えでいえば、1.3人分の工数を減らしたとしても人員は1人しか削減できないので、整数倍の工数低減を目指すべきだ、という考えとは少し異なる。
この記事の冒頭の方で述べた計算式
『生産性=製造量÷生産資源』
を思い出してほしい。
ここでいう「生産資源」の大部分は、確かに人件費(=作業者)である。
しかし、こうも述べた。
ここでこう人件費は、人的資源と考え「その作業に従事する人数」や「作業に掛かる時間」とすべきである、と。
つまり、整数倍の削減を目標とする省人化的な考えでなくとも良いのである。
重要なのは製造量との比なのである。
省人化的な考えである、整数倍としての工数削減とは、すなわち、
「人手を必要とする製造方法」
を前提としている。
そうではなく、上記のように作業に関わる時間など、人手を減らす方向で自動化を進めていく事が重要である。
このような考えで自動化を進めていけば、「体調不良で欠員が出た」などの突発的な問題も対処しやすい軽微なものとなるであろう。
5. 最後に
本来は、この項を『最後に』ではなく、「自動化のデメリット」や「自動化の課題」などとすることを考えていた。
どちらも適切な表現でないと考えこの名称にしたが、伝えたい意思が届く事を望んでいる。
生産ラインの自動化は、多くの企業で進められている。
ひと昔前までの作業者の苦労が、今では自動化の導入によって、大きく変わったという工場も多いのが現状だ。
しかも工場ごとに自動化の最適値が異なるから、自工程の技術者が経験と知恵を活用して現場を革新していく活動は、とてもやりがいがあるものとなる。
もちろん、自動化設備メーカーに活躍してもらうことも多々あるが、それでも生産ラインの自動化を進めるうえで主役となるのは、現場をよく知る技術者たちである。
実際に自動化を進めてみると、これまで取り組んでこなかった周辺問題に注力することになり、仕事の幅や経験が広がったという声や、人的資源の削減活動によって労務費の削減だけでなく、労働環境の改善ができたなどという声も多い。
現場にとって自動化は、目標の数字以上のメリットがあるといえる。
しかし忘れてはならないのが、「自動化すれば終わり」ではない、ということだ。
ともすれば、人が行っていた作業を、ロボットや搬送設備などに代替すれば良いと考えている企業や経営者も多いのが現実だ。
工場の自動化とは、単に「設備の仕様を決めてラインに導入すれば自動化完了」といった簡単な話ではない。
このような考えで自動化を進めている企業は、必ず失敗する。
きちんと理解してない自動化の場合、ボトルネックが残ったり、工程の柔軟性が失われたりして、結果的に生産性が落ちたりもする。
自動化のために設備投資も行っているから、経営者としては二重苦だ。
自動化のために投資を行っているはずなので、その分の製造原価は上がっている。
この計算が抜けている企業が多い。
上がった製造原価以上のメリットがあり、導入の弊害をなくさなければ自動化は失敗するのである。
そのためにもっとも重要な事は『自動化は手段』である、ということだ。
工場を自動化することは、目的ではない。あくまで手段である。
自動化する目的を明確にすべきである。
そもそも、自動化によって解決したい課題は何であろうか?
ここを明確にしてほしい。
筆者も、自動化の指導をしてほしいとの要望でコンサルを行うことが多い。
この時に上記の質問をするのだが、課題を明確に答える企業は、相談される企業のなかで1/3程度だ。
さらにその課題を、「大・中・小」や「重要度と緊急度」などでレベル分けして、優先度を決めている企業は、さらに少ない。
自動化の目的を明確にする事は、何よりも重要なのである。
生産性を向上する、これが目標なのは分かる。
そうではなく、そこから掘り下げて考えて欲しいのだ。
生産量を増やしたいのか、稼働時間や稼働率を増やしたいのか、生産性を向上する「方法」はいくらでもある。
もう一度、この式を基に考えてみて欲しい。
『生産性=製造量÷生産資源』
生産性を向上させるには、製造量を増やしても達成できるし、生産資源を減らしても達成できるのだ。
では、社内における課題は、このうちのどちらか?
それとも、どちらでもなく複雑な課題なのか?
自動化すれば終わりではなく、自動化は手段に過ぎない。
自動化にあたって、知っておくべき内容を簡単には紹介してきた。
自動化を導入することで、生産性の向上が見込めるのは間違いないが、状況や環境によっては、自動化を導入すべきタイミングでない場合もあるかもしれない。
自動化を上手に進め、自動化設備の生産性を向上させるには、自動化設備メーカーとの連携や、外部の専門家の助言を得ることも近道となるはずだ。
どちらにしても、工場の自動化は企業の利益貢献に繋がるので、検討はしてみると良いと思う。
本稿を通じて「自動化」に興味・関心をもたれたかたは、ぜひお問い合わせいただきたい 1)。
<参考URL>
1)https://www.soldering-tec.com
- 会社名
- (一社)実装技術信頼性審査協会、STC ソルダリング テクノロジ センター
- 所在地
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