馬鈴薯(=じゃがいも)は南米アンデス山脈の高地(標高約3,800m)のペルー南部に位置するチチカカ湖(ペルーとボリビアの国境に位置する)の畔が発祥とされるなす科なす属の植物である。
『馬鈴薯』という名前よりも今や『じゃがいも』の名前の方が使われている。馬鈴薯は、じゃがいもの形が馬につける鈴に似ているということからこの名前になったとする説と『マレーの芋』という意味からこの名前が付けられたという説もあり、定かではない。
このじゃがいもが南アメリカ大陸から16世紀にスペイン人によってヨーロッパにもたらされたといわれている。
日本には1600年ごろにオランダ船によりインドネシアのジャカルタ港(旧名称はジャワ島のジャカトラ港)からより長崎に運ばれて入ってきたためジャカルタの『ジャカトラの芋』が転じてじゃがいもとなったという説もある。
15?18世紀前半までの300年間は、スペイン、オランダ、イギリスなどが富を求めて大海原へ乗り出した大航海時代であった。
実は大航海時代は、気候的にみると小氷期(1550?1850年)とよばれる異常な寒さの時代で、冷害による不作で食料欠乏に悩まされたことから食料を求めて大海に出ていった理由でもあった。4世紀頃、ゲルマン民族が大移動したのも実は寒冷化に伴って、食料を求めて南下したといわれている。
1600?1700年の期間は黒点が少なく太陽活動が活発でなく、地表に届く太陽エネルギーが少ない状態のため寒冷化が進展したともいわれている。
日本はちょうど江戸時代であり、東北地方が寒冷化で作物がとれず大飢饉にもなった。イギリスのテムズ川も凍り、『氷河期の到来』ともいわれた時代である。じゃがいもは比較的気温の低い高緯度地帯で主に生産されており、生育期間が短く、地域適応性が高いことから亜熱帯地域にも幅広く分布している。
じゃがいもは寒冷地でやせた土地でも育つ作物であったため、さらに保存がきくため重宝され、救荒作物としてヨーロッパにじゃがいもがもたらされた。
冷害で不作の時に、じゃがいもが食料確保の救世主となったのいうまでもなく、そしてまたたく間にじゃがいもが労働者階級の人達の『主食』の座を占めるようになった。
特にじゃがいもは土地の中に隠れるため鳥害もなく生産性は小麦の3倍にもなり、やせた土地で水もそれほど要しないで育つので、『麦』『米』『とうもろこし』とともに、『じゃがいも』も世界4大作物の一つにもなった。
特にアイルランドの畑はじゃがいも一色になったという。アイルランドでは、生産性の高い品種のじゃがいものみを栽培としたために、植物の多様性の低下によって黒かび病が蔓延して壊滅状態となり、食料不足に陥り、餓死する人が現れ、100万人以上にも達したという悲惨な事実が残っている。単作にしたつけが出たのである。 このアイルランド飢餓は、移民を多く出す結果となり、実は、ケネディ大統領、レーガン大統領などの祖先は、この飢饉後、米国に移民するためにアイルランドを出国したのである。
アイルランドは、じゃがいも飢饉とこのアメリカなどへの移民が有名である。料理では、ラムとじゃがいもや野菜を煮込んだアイリッシュ・シチューは代表的な料理でもある。
じゃがいもを潰して挽肉をいれてパン粉をつけてあげたものがコロッケである。スーパーの惣菜売場で必ず販売されている定番の料理の一つである。コロッケはフランスから伝わってきたものが、いつの間にか改良されて日本の庶民が食べる洋食の一つとなった。肉とじゃがいもを煮た肉じゃがも定番の日本食でもある。実は、肉じゃがは『洋食の代用食』として効果的に牛肉を摂取させることができる画期的な料理として海軍で採用されたのがどうもはじまりのようだ。海軍で脚気の病が蔓延するのを防ぐために肉を摂取する手段として肉じゃがが考え出された。
さて、じゃがいもの原産地のペルーでは、じゃがいもの収穫時期は4?5月で、5月30日は『じゃがいもの日』として定めており、『じゃがいも祭り』が開催される。首都リマには『国際ポテトセンター』も存在し、じゃがいもの研究も実施されている。
また、食糧安全保障と貧困の削減を目的にペルーの発案で国連に提案し、2008年を国連が『国際じゃがいも年』と定めた。
筆者が中国の標高5,000m級の山登りをした時、標高3,000?4,000mに位置する段々畑にはじゃがいもが植えられていた。そして、その山登りの折、現地で調達した弁当にパン、ゆで卵とともにじゃがいもが1個入っていた。日本では、おにぎりが定番であるが、蒸かしたじゃがいもに塩をつけて食べるのも格別であった。
国連食糧農業機関の統計資料によるとじゃがいも生産国の順位は、中国(23%)、インド(11%)、ロシア(6%)、ウクライナ(6%)、アメリカ(6%)となっている。世界でもっとも多く生産されている野菜であり、3.2億トン(2010年)にもなる。
中国がじゃがいもの世界一の生産国であり、じゃがいもからでんぷんを作っているもののその残渣の廃棄物の処理に困っていた。
この残渣にはでんぷん35%、セルロース22%、ペクチン27%が含まれており、その残渣廃棄物の有効活用を実は、日本が中国に協力して取り組んでいる。
残渣廃棄物を使って複合酵素を用いて糖化した上で、膜分離技術を使って無水化して無水エタノールの生産に取り組んでいる。
いよいよ独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資金を活用して中国黒龍江省で実証事業を実施する運びとなってきたのである。
とうもろこしやさとうきびなどの食料をバイオエタノール生産に使用するのは問題との指摘があるが、このじゃがいもから食料としてでんぷんを作った後の残渣廃棄物を利用することなので問題とならない点である。処理に困っていた残渣廃棄物から有効なバイオエタノールを取り出す取り組みである。
じゃがいも澱粉残渣からバイオエタノール製造実証事業として始動したことは、今後の結果に大いに期待したいものだ。残渣の処理に困っていたものから新たなエネルギーを得ることは重要な取り組みである。ぜひ、日中で協力事業を成功してもらいたいものである。
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