予備はんだ
はんだ付け時にこて先のはんだをきれいに拭き取ったまま作業すると、ランドやリード、またははんだと十分な面接触が取れないので、作業開始時に温度を高くする必要がある。そのため、朝一番や昼休み後などの作業開始時にこて先のはんだを一度きれいに拭き取り、再度、はんだを少しこて先の先端に供給してから開始することで面接触を確保し、こて先温度を不必要に上げないようにする(図1、2)。
こて先に新しいはんだを供給してからこて先を盛りはんだに当てると、先端まで短時間ではんだが溶ける
図1 予備はんだあり
こて先をきれいに拭いてから盛りはんだにこて先をあてても、はんだは途中までしか溶けていない
図2 予備はんだなし
こて先に液体を加える(フラックスや溶けたはんだ)と、対象物と完全な面接触をし、十分な熱伝達がなされるためはんだの溶け方も速くなる。これにより、こて先温度を抑えても、作業タクトを落とさなくて済む。
はんだ送り
こて先とランドの間に挟むように送られたはんだは、溶けてこて先底面にあたり、ランド側へ押し出され、ぬれ広がっている。通常のこて先では、こて先上部や周りにはんだが溶けてとどまる。飛散もこて先底面にあたり、ランドの外にあまり出てこない(図3)。接触面積を大きくすることでこて先温度も下げられるので、その消耗も低減することができる。
フラックスの飛散もこて先底面とランドの間で飛散してランドの外に出ることは少なくなる
図3 はさみはんだ
量産においては、品質と共に作業タクトが重要視される。こてをあててからはんだをこて先で溶かしていたのでは間に合わないというケースが多く見られる。また高い温度で長くこて先を部品やランドにあてていては、基板や部品が熱影響を受けてしまうのとと同時に、フラックスが劣化して、ツノやはんだボール・ブリッジが発生する。糸はんだはこて先にあてて溶かすのではなく、できる限り、こて先の先端かこて先と部品・ランドの間に供給して、こて先で挟むようにすることでフラックスの劣化を抑えるとよい。これにより、溶け出たフラックスがランドや部品リード表面を覆うことで、酸素を遮断してN2と同じ効果を発揮する。さらに、直接高温のこて先が部品リードに接触するのではなく、溶けたはんだを介してこて先の熱を供給するので、部品へ熱ショックを与えないで済むのである。
こての先端で溶けているはんだが部品・ランドを包み込むように接触することで、フロー槽のように温度を上げなくても十分な熱を供給することができる。特にぬれ性の劣る材質のはんだ付けには、はさみはんだが有効な作業方法である。量産現場のはんだ付けはフラックスが先に供給され、その後に溶けたはんだ(はんだを溶かす)が供給されているか、はんだとフラックスが同時に供給されているのが普通である。供給されたフラックスがランドやリード表面を覆い、酸素を遮断した状態で熱が供給され、フラックスの活性力によってランドやリード、及びはんだの酸化物を除去してはんだがぬれ広がる。はんだはフラックスの広がった所までぬれ広がり、それ以上は広がらないので、フラックスの効力があるうちに、はんだを溶かして供給する必要がある。
フラックスの劣化や飛散を防ぐために、はんだは可能な限りこて先の先端部分に送るようにするとよい。溶けたはんだに糸はんだを供給すると、フラックスが溶けたはんだの中で熱膨張して飛散してしまうので、気化したフラックスのガスが放出されやすいような角度ではんだを送る。また、こて先の消耗は、はんだのあたる部分から食われが促進してしまうので、可能であればはんだを先に送り、後からこて先を被せるというはさみはんだをお奨めする。これを用いればフラックスの効力を十分引き出すことができる上、ぬれ速度を改善できる(図4)。
こて先の先端にはんだを送り、溶け出たフラックスがランドに広がるようにする
図4
こて先は、はんだがあたる部分のみ鉄めっきを厚くすることで、あまり熱伝達を落とすことなく、消耗を改善することができる。特に、消耗の早いこて先ははんだ付け品質を落とし、はんだの使用量も増えてしまうので、鉄めっきの評価確認が必要である。
■使用器材:(株)ハイロックス製 デジタルマイクロスコープ
『KH-1300』(すべて動画撮影したものを再度静止画で撮影しています)
■こて先データ、写真提供:三徳商事(株)
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